147 2人はライバル
「……今、何て言ったの? なんだか、信じられない言葉が聞こえたわ……。私、まだ酔っているのかも……」
マリアは驚きのあまりベッドに起きあがった。現実を受け入れきれずに、白い頬に手を添えて頭をふるような仕草をする彼女を見て、ルーファスは嘆息する。
「本当のことなんだから、受け入れろ」
彼は混乱するマリアの手をそのまま引いて、再び彼女をベッドに寝かせた。
「マレーリー様にとって、マリアは可愛い姪であると同時に恋敵でもある。だからこそお前は今まで無事でいられたんだ。あの人は、侯爵がマリアと結ばれないように全力で阻止していたから」
マリアはまさか自分が、唯一の肉親である叔父に恋のライバル認定されていたなんて、まったく思いもしなかった。よくよく思い出してみれば、マレーリーは相手が女性だなんて一言も言ってないし、結婚するとも言っていなかった。
「私は叔父様の恋路を邪魔していたの……?」
マリアは知らなかったこととはいえ、身内として幸せを願っていた叔父の恋の障害になってしまっていたことに、相当ショックを受けていた。
「……ルーファス、私どうしたら……叔父様には幸せになってほしいと思っていたのに……」
「まずは落ち着け。そんなに悩む必要はないだろう。大体侯爵にはマリア以外にも遊びの女がいるんだから、お前がそんなに気に病むだけ馬鹿らしい。侯爵が今さらその道に目覚めるとは思えないし」
「そういうものなの……?」
「性的な嗜好は変えようとして変えられるものじゃない。それにお前はもう俺について国を出たんだから、マレーリー様としても一安心だろう」
狭いベッドの中で、ルーファスは腕の中のマリアの感触を確かめた。恋い焦がれていた高嶺の花は、今や自分の手でどうにでもできるところまで堕ちてきたのだ。ルーファスはむしろマレーリーの嗜好に感謝していたくらいだ。
この美しい花を摘み取る権利を与えてくれたのは、他ならぬ彼なのだから。