145 誰?
マリアの身近にそういう嗜好の人物はいただろうか。彼女の交際範囲はとても狭く、そのうち男性となれば必然的に限られてくる。
「誰? ……オーランさん? 私やデリシーさんと、あまりお話しなかったし……」
昨日まで一緒にいたオーランは、女性とはほとんど口をきかなかった。むしろ敢えて距離を取っているような感じさえしたので、マリアは真っ先に彼の名前を挙げたのだが、ルーファスはそれを言下に否定する。
「違う」
「それなら、イザーク様? あんなに格好良い王子様なのに、まだ独身なのはそういうことだったの?」
王族であるイザークは、本来ならば早めに結婚していてもおかしくはない。それなのに彼が未だに独身なのは、何か事情があるのかもしれないとマリアは考えたのだった。しかしそれもあっさりとルーファスに否定された。
「全然違う。……というか、お前はイザーク様に口説かれていたことをもう忘れたのか?」
「でもあれは本気じゃなかったでしょう?」
「いや、結構本気だったと思うが……」
答えを探し求めて必死に頭を巡らせていたマリアは、そのときある1つの衝撃的な結論に達した。
「……まさか、エド? 片想いの相手になかなか想いが通じないって、以前嘆いていたのは、そういうことだったの……?」
「どうしてそうなるんだ。マリアの鈍さはもはや罪だな」
神妙な顔つきをしているマリアを見て、さすがにルーファスもエドが気の毒になってしまった。恋敵の誤解を解いてやる義理はないとは思いつつも、一応否定しておいてやる。
「エドは絶対に違う」
答えがわからないマリアは、困ったようにルーファスを見つめた。
「うーん……セバスは既婚者だし、侯爵様とルーファスは違うでしょ。叔父様は好きな人がいるといっていたし……」
マリアは最後の晩餐となった、あの日の叔父の言葉を思い出していた。
『僕にはさぁ、結婚したいくらい大好きでたまらない人がいるんだよ……』
叔父のマレーリーは、爵位を捨ててでも好きな相手のところに早く行きたいと言っていた。姪のマリアの後見という責任がなくなった彼は、いつでも相手の女性をその腕に抱けるはずだ。
「……そういえば、叔父様は私がいなくなって、無事に好きなお相手と結ばれたのかしら? 幸せになっていてくれれば良いのだけど……」
唯一の肉親の幸せを切に願うマリアに、ルーファスは真実を教えなければいけないと思った。
「マリアがいてもいなくても、マレーリー様の恋は叶わない」




