142 どっちでも
言葉だけですが、BLっぽい内容があります。注意してください。
「その子に手を出すな」
そこには凄まじい怒気を孕んだルーファスが立っていた。彼はマリアをすぐにハンスから奪い返すと、自分の背後に庇う。
「ああ……君たち男どうしだけど、やっぱりそういう関係なのか。あの黒髪の女の方が君の恋人だと思っていたよ。……何なら君でもいいな。僕はどっちもできるよ? 君みたいな強そうな男に攻められるのも悪くない。この子みたいなかわいい子に色々教えてあげるのも、もちろん大好きだけど」
ペラペラと話すハンスを見て、ルーファスは冷めた口調で言った。
「この子はこんな格好をしているが間違いなく女で、俺の婚約者だ」
「……! そんな……」
ハンスは明らかにがっかりした様子だった。
「どうりで華奢だし、力も弱いと思ったよ。でも少年ならこんなものかなっと思って……あぁ、僕としたことが迂闊だった……」
ぶつぶつと呟きながらも、既に欲望に火がついてしまっていたハンスはそう簡単には諦めきれない。燻った炎の処理に困った彼は、ルーファスを値踏みするようにじっとりと眺めた。
「……じゃあ、やっぱり君にしようかな」
ルーファスの背後に匿われたままのマリアは、2人の間で繰り広げられている会話の意味がまったくわからなかった。マリアのことを女だと承知の上で無理やり連れ込んだのだと思っていたが、彼女が女であることは、ハンスにとってはどうやら非常に残念なことらしい。
「断る。俺はそういう趣味はまったくない」
「そうだよね、この子と婚約しているんだったね。あの黒髪のデカい女はダミーか。さすがに婚約者がいる相手を寝盗るのはリスキーだからな……」
意気消沈したハンスは静かに撤退を決めたようだった。
「おやすみ……今夜のことは忘れてね、ハニー。……あ、君は女だったね。紛らわしい格好はやめてくれよ……はぁ……」
悩ましげなため息を残しハンスは部屋に戻っていった。暗闇の廊下に、呆然とするマリアと厳しい表情をしたルーファスだけが、静かに取り残されていた。