139 酔ったマリア
「ふふふ、マリアちゃんったら、やっぱりあっという間に酔っちゃったわね。どこまでも可愛らしいんだから……」
そう言ってデリシーは、目の前のマリアを眩しそうに眺めた。マリアは大きな瞳を潤ませて、白い肌をほんのりと薄桃色に上気させている。1人では座っていられないほど酔ってしまったマリアは、ルーファスに甘えようにしどけなくしなだれかかっていた。
その姿は初々しくも危うい色気で溢れ、女のデリシーですら変な気を起こしてしまいそうだ。ルーファスはルーファスで、美しくも無防備すぎる恋人を、ほかの誰にも見せたくないと思う。
「もう終わりだ、マリア。部屋まで送っていく」
「……私、まだ飲めるわ」
マリアは既に、自分の状態も把握できなくなっていた。ルーファスはもっと早くに飲むのを止めさせていれば良かったと、今更ながら深く後悔する。そんなに飲ませていないはずなのに、マリアはルーファスの予想よりもずっと、酔いやすい体質らしかった。
「俺が良いというところまでしか飲むなと、最初に約束しただろう。まったく……いくらなんでもこんなに酒に弱いとは思わなかったな」
マリアは半ば呆れ顔のルーファスに抱えられ、デリシーとの相部屋に戻らされた。マリアは彼に大切に抱き上げられて、その心地よい揺れと優しい温もりに安心して、すぐに眠りに落ちてしまう。
目を覚ましたとき、マリアはベッドに一人きりだった。まだデリシーも帰ってきておらず、静まり返った部屋で時間を確認すると、すっかり深夜になっていた。いつの間にか何時間か寝てしまったらしい。
なんだかマリアは自分だけ楽しい時間から置いていかれたような気がして、人恋しくて仕方がなかった。
(まだルーファスたちは下で飲んでいるのかしら? 1人でお部屋で待っているのはさみしいわ……)
完全には酔いが抜けきれていないマリアは、何も考えずに、覚束ない足取りで部屋を抜け出してしまった。