14 ギルバートの遺志
マリアの結婚騒動から1年後の、彼女が12歳のときだった。当時王都で猛威をふるっていた流行り病が、マリアとギルバートを襲った。
マリアは何とか快復したが、大人の方が強く症状が出る病であったことから、ギルバートは懸命の治療のかいもなく徐々に衰弱していった。
そして、マリアたちの献身的な看病にもかかわらず、ついにその日を迎えてしまう。
最期の最期まで娘を愛した優しい父は、屋敷の皆に見守られながら、亡き母のもとへ旅立っていった。安らかな寝顔を残して……。
ギルバートは己の死期を悟ったときに、後継者に異母弟のマレーリーを指名した。マリアはまだ幼かったし、ほかに親族もいなかったからだ。
また、ギルバートはマレーリーが結婚するつもりのないことを知っていたので、いずれはマリアの夫に子爵位を譲ること、そして夫となる人物は、彼女自身に決めさせることなどを遺言としてのこしていた。
「人が良いだけ」と揶揄されるマレーリーであったが、その後いくら困窮しようが、姪をどこかの金持ちに無理やり縁付けることもなく、異母兄との約束を忠実に果たしていく。
大人への階段をのぼるたび、ますます美しくなるマリアは、いつしか16歳になっていた。
守られていただけの可憐な花は、深い悲しみを乗り越えたことにより、どんな場所でも咲くことのできる強く美しい花へと成長を遂げる。
生活が貧しくなり、使用人が次々と去ってからも、彼女は決して不満を口にすることもなく、内職や家事など自分のできることは何でも進んでやった。
マリアは優しい笑顔に囲まれて、今でもとても幸せだった。




