138 初めてのお酒
「お酒を飲んでみたい」というマリアの言葉に、ルーファスは少し驚いて彼女を見た。慎重なマリアは、どちらかと言えば酔ってしまうという未知の感覚を怖がるタイプだ。マリアがドキドキしながらルーファスの返事を待っていると、彼は意外にもあっさり了承してくれた。
「結婚すれば夫婦同伴の機会も増える。酒を断りきれない場面もあるだろうから、お前も多少は飲む練習をしておいた方がいい」
ルーファスの実家は手広く商売をしている。マリアも商家に嫁ぐとなれば、そういった社交の場に備えておく必要があった。
「そうね、自分の適量は知るべきよ」
デリシーもルーファスの考えにすぐさま同意した。もっともデリシーの場合はただ皆で飲めれば楽しいというだけの理由だったが。
「……いいの?」
「ただし、俺が良いというところまでしか飲むなよ。酒も弱いのにしろ」
「ありがとう!」
そうして許しを得たマリアは、ルーファスとデリシーが選んでくれた初めてのお酒で乾杯をした。大人の2人に少しだけ近づけたような気がして、マリアはなんだかくすぐったい。
「とってもおいしいわ……!」
甘い果実酒を口にしたマリアは、ジュースのような味に目を丸くした。これならいくらでも飲めてしまいそうだ。でもしばらくすると、喉のあたりが少し熱くなり、頭がくらりとするような不思議な感覚に見舞われた。これがアルコールなのだろう。
ルーファスは美味しそうに果実酒を飲むマリアを見て、釘をさした。
「ジュースみたいで飲みやすいかもしれないが、飲み過ぎるなよ」
「相変わらず過保護ねぇ」
デリシーに冷やかされながらも、マリアは初めてのお酒を堪能するのだった。