135 道中の会話(レーニエまで) 2
突然のマリアの質問に一瞬空気が変わったが、隠すことでもないのか、まずデリシーの方が意外とあっさりと認めた。
「そうよ。私の母は娼婦だったから、アンダーシュバルツで育ったの。母は女手ひとりで育ててくれたけど、仕事の無理が祟ったみたいで、わりと若くして亡くなってしまって……。そのあと運良く、子どものいない物好きな夫婦の養子に入れて、それを機会にアンダーシュバルツを出られたの」
デリシーはざっくばらんな性格のため、母親が娼婦であったことも含め、マリアにあっさりと教えてくれた。ルーファスも懐かしそうに言葉を添えた。
「デリシーの母親は人の痛みがわかるとても優しい人だった。俺もとても可愛がってもらった。亡くなってしまったのは、俺が国に戻った後だったけどな」
「ルーファスもアンダーシュバルツにいたの?」
「俺は……6歳くらいのときに母親だと思っていた女に売られて、父親が俺を探しだすまでの何年間をアンダーシュバルツで過ごした」
「……っ」
ルーファスは表情も変えずにそう言ったが、マリアは絶句した。ルーファスは昔から自分の話をほとんどしなかったから、彼女は彼の過去をまったく知らなかった。
ルーファスは年齢のわりに達観したところがあるが、マリアの想像もできないような苦労が、彼をそうさせてしまったのだろうか。
でもたしか、母親は商売をしている父親の手伝いをしていると以前話していたような気がするから、その彼を売った母親と、今の母親は違うのだろうか。
よくわからないがどちらにせよ、彼の家庭環境は複雑そうだった。マリアは自分がそこに嫁ぐことなど何も考えずに、ただルーファスがいままで辿ってきた道が気になってしまう。
ルーファスは予想通りのマリアの反応に苦笑を漏らした。
「マリアにそんなに気を遣われても困る。今はこうしてお前がそばにいてくれるから、それでいい」