129 夜会の誘惑
R15です。大人の関係が垣間見えます……。
「タニア、起きたのか……」
そう言ってジェイクは、一糸纏わぬ美しい女性に手慣れた様子で口づけた。
「あら、それ例の女の子からの手紙? 素直そうなきれいな字を書くのね」
タニアと呼ばれた女性は、後ろからジェイクの肩に細い腕を絡ませた。彼女は20代後半のまだ若い未亡人で、ジェイクの恋人の1人だ。
彼女には未亡人独特の匂い立つような色香があり、最近の彼はこのタニアと夜を共にすることが多かった。
タニアにはほかにも見目麗しい若い恋人が数人いるので、あくまでもジェイクとは割り切った関係に過ぎない。身体の相性も良いが、それ以上に彼は、彼女のそういう後腐れのない物わかりの良いところを特に気に入っていた。
タニアは、ジェイクの本命がマリアだということも知っているし、彼女もマリアに対する嫉妬心は持ち合わせていない。
しかしタニアは、華やかな表舞台に1度も出ることなく、この国を去っていった深窓の美少女マリアに純粋に興味があった。
「会ってみたいわね。女に本気にならないジェイクが、そんなに固執するマリアという子に……」
それにタニアはマリアと一緒にいるという男のことも気になっていた。彼女はジェイクを出し抜いてマリアをさらったその男に、ほろ苦い経験をさせられたからだ。
「その子と一緒にいるのって、御前試合でいつも優勝してたルーファス・ジルクリストなんでしょ?
舞踏会のとき、私も彼にモーションをかけたんだけど、まったく相手にされなかったのよね。あんなこと初めてだったわ。1度くらい抱かれてみたかったけど……」
王宮騎士は王宮で催される夜会の警護も担当するので、貴族女性と王宮騎士の恋も多かった。
王宮騎士には貴族の子弟が多かったし、騎士服を纏い、凛として警護に勤める彼らは貴族女性にとっては憧れの存在だった。
特にルーファスは人気が高く、彼が夜会の警護に立つ日は女性たちがざわつくほどだった。
彼は平民だから結婚相手というよりは、一夜の恋のお相手として女性の熱い視線を集めている側面もあったが、中には婿養子にと本気で狙っている令嬢も少なくなかった。