128 予想通り
「予想通りだったな……」
ジェイク・クルーガーは薄明かりの中、マリアからの手紙を読んで独りごちた。長い指先で静かに手紙をめくる。マリアは無防備に何もかもエドへの手紙に書いていた。
無事に国境を越え、王都シュバルツを目指していること、王都まではもう1人女性が同行すること、髪を切って男装することと、今は『マリク』と名乗っていること、そして失恋したこと。
失恋の相手ははっきりとは書かれていないが、間違いなくルーファスのことだろう。マリア曰く、彼はその王都まで同行するという女性と恋仲らしい。ジェイクはマリアの手紙を若干呆れながら読んでいた。
(あの抜け目のないルーファスが、過去に少しでも関係のあった女をマリアに会わせる訳がない。そもそもあの男がマリアを手放すことはありえない。失恋したというのはあの子の誤解だろう)
それでもマリアがこんな手紙をエドによこすということは、2人の間にすきま風が吹いていることは間違いなかった。そうでなければ、あの男がこんな情報がだだ漏れの手紙を出すことを許す訳がない。マリアが勝手にやったことだろうというのは容易に想像できた。
ジェイクはルーファスのマリアへの執着をよくわかっていた。彼女に対する想いに関しては、自分とよく似ているところがある。しかし恋に慣れていないマリアには、そういう生々しい感情はわからないのだろう。だからマリアだけになれば、簡単に彼女を揺さぶれる自信があった。国境の街サーベルンでも、彼女は震えながらもジェイクに身を捧げようとしていたではないか。
問題はルーファスをマリアから引き離す方法だが、今回は良い口実ができた。革命だろうが、何だろうが、利用できるものはとことん利用させてもらおう。ルーファスはあくまでも「休暇中」で、彼の身分は王宮騎士なのだから。
「あら、誰からの恋文なの?」
そのとき色っぽい女性の声がして、ジェイクは振り返った。