124 (エド視点) マリアからの手紙 1
俺のマリアが旅立ってから1月程経ったある日の朝、母親を通じて、マリアからの手紙が届けられた。マリアの人柄が偲ばれる丁寧な字で綴られた手紙は、俺の胸をあたたかい気持ちで満たしてくれる。
あの旅立ちの日、マリアは俺が迎えに行くのを待つと約束してくれた。ルーファスさんがマリアを連れ去ったという事実が、どうしようもなく俺を落ち着かなくさせるけれど、好きな女のことを信じるのが男の道だと思う。
でも、早く一人前の騎士になって、お前に会いたい……。
マリアへのあふれる想いを胸に手紙を読み進めると、そこには予想もしていなかった内容が記されていた。
『ねぇ、エド、聞いてほしいの。私、初めて人を好きになったのよ。でも、その想いに気づいたときには既に失恋していたの。悲しくて苦しくて、どうしたらいいのかわからなくて……。あなたならこういうときどうするの……?』
は? 意味わかんねー……。マリアは俺が迎えに行くのを待ってるって言ったよな? それはつまり、俺の嫁になるのを了解したはずだ。それなら誰に失恋したんだ? ……まさか俺か? いや俺はマリアのことをふったりしてない。
頭の中に疑問符がいくつも浮かび、わからないまま続きを読むと、マリアははっきりとは書いてないが、明らかに失恋の相手はルーファスさんだった。まさかマリアは早々と浮気したのか?
……違うな。マリアはそんな器用なタイプじゃない。
そこでようやく俺は絶望的なことに気づいてしまった。マリアは俺が迎えに行くと言った意味をわかっていない。そして、一緒に旅をしているうちに、ルーファスさんを好きになってしまった……。
くっそう!「必ず迎えに行くから、俺と結婚しよう」ってあの時はっきり言えば良かった! でも今さら後悔しても後の祭りだ。しかも悔やんでも悔やみきれないほど、盛大な……。
……待てよ。失恋したって書いてあるから、俺にもまだチャンスはあるかもしれない。いや、あるのか? 相手はあのルーファスさんだ。あの人は底知れないところがあって怖いんだよな、今でもあの人のことは俺にはよくわからないし……。
そんなルーファスさんについて1つだけ確実に言えるのは、あの人はマリアのことを、傍目から見てもわかるくらいとても大切にしていたということだ。
そんなルーファスさんがマリアをふるなんて信じられない。でも事実はともかくとして、とりあえずこのままだと、ルーファスさんにマリアを奪われてしまうのは間違いないような気がした。
急いでマリアのところにいかなければ……。
エドは「26 旅立ちの朝」について思い出しています。