123 見えない檻
ルーファスの愛が重いかもしれないので、注意してください。
マリアは今までクルーガー侯爵から逃れることしか考えていなかったが、最も警戒すべき男はルーファスだったのかもしれない。
その危険な男は、誰よりもそばにいて、誰よりも信頼していたから、まったく気がつかなかった。
マリアは約束したことは必ず守るし、責任感が強い。
ルーファスはリザレへの道すがら、「マリアのことが心配で、国に戻る決断を先延ばしにしていた」という旨のことを彼女に話していた。
これは言い換えてみれば、ルーファスの騎士団を辞めるかどうかの判断に、マリアの存在が少なからず影響を与えたということにほかならない。彼女に責任を感じさせるには充分だ。
マリアはおっとりしているため誤解されやすいが、聡明で記憶力もかなり良い。
ルーファスはすべてを把握し、計算していたのだろう。マリアが会話の内容を覚えていることも、約束を守る律儀な性格とその責任感も。
それはマリアがたとえ彼を愛せなかったとしても、彼のものになる選択肢しか選べないように、入念に仕組まれた罠だった。
結果として、マリアもルーファスを愛してしまったから良かったようなものの、知らず知らずのうちに、彼の作り出した見えない檻に囚われていたのか。
それでも彼がマリアの気持ちの変化を見守り、無理やり彼女の身体を奪うようなことをしなかったのは、彼なりの良心だったのだろう。
今ようやく、アーデルハイムでの彼の懺悔の真の意味がわかって、マリアは恋人となった男の知らなかった一面を垣間見た気がした。
「ルーファスって……ちょっと怖いかも……。私の分の通行証を事前に取っていたのも……怖い……」
「怖くない。マリアには優しくしてる。結果として通行証も役に立っただろう?」
彼のいつもと変わらない態度が、彼女には少し憎らしかった。
だからといって今さら彼のことを嫌いになれるはずもなく、このまま彼に囚われていたいと思ってしまうマリアは、すっかり彼に飼い慣らされてしまっていた。
仮にその檻の扉が開かれたとしても、彼女は決して逃げられない。
「31 道中の会話 (リザレまで)」の2人の会話と関係しています。