122 あのときの言葉
ルーファスから初めて聞かされた事実に、マリアは呆然と彼を見つめた。
「旅立つ前日にマレーリー様には既に伝えてある。これを機会にマリアを故国に連れ帰って、将来的には妻にしたいと。マレーリー様も全面的に賛成してくれた」
「ちょっと待って、ルーファス! どうしてそんな大切なことを、今まで私に教えてくれなかったの?」
「あのときはまず時間がなかった。マリアにとっても、クルーガー侯爵が嫌なら俺と結婚すればいいとか、そう単純に割りきれる話でもないだろう。
それにあの日の夕方、お前から言質はとってあるから良いと思った」
「え? 何のことだかよくわからないわ……」
マリアにはさっぱり記憶がなかった。そんな彼女にルーファスは淡々と説明する。
「最後の晩餐となったあの日、買い出しに行ったのを覚えているか?
そのときマリアと里帰りについての話をしたが、俺と会えなくなるのをさみしがったお前は、俺の好きなようにして良いと言った。だから連れ帰って妻にしてしまおうと思った。
……まさかあんなにすぐに実行できるとは、さすがに予想もしていなかったけどな」
マリアが眠った記憶を何とか揺り起こしてみると、「会えなくなるのはさみしい」と言ったことを思い出した。
それと同時にマリアは、「絶対帰ってきてね」という言葉をどうしても口に出すことができなかった切ない記憶まで鮮やかに甦る。
「最後までは確か……言えなかったはずだけど……」
「だからあのとき確認した。都合の良い風に解釈していいかと」
「あ……」
「マリアは自分の言ったことには責任をとるよな? 約束通り、俺の好きなようにさせてもらっただけだ」
マリアは唖然とした。たしかに旅立った最初からそのつもりだったと、アーデルハイムでも懺悔めいた告白をされているが、あんな何気ない会話の中にそんな意味があったなんてまったく知らなかった。
「これから発言には気を付けろよ」
ルーファスは彼女の頭に優しく手を置いて、口の端だけでニヤリと笑った。
マリアたちは「18 言えなかった言葉」のときの話をしています。