121 婚約の方法
イザークは恋人どうしであるマリアたちのため、扉をきちんと閉めて部屋から出ていった。口では色々と言っていたが、2人の仲を引き裂くつもりはまったくないらしい。ルーファスもそのことをよくわかっていたから、この国での正式な婚約の手続きについて彼に相談していた。
ルーファスはイザークが出ていくと、徐に切り出した。
「それでマリア、前に話していた婚約のことなんだが、結論からいうとガルディア王国で俺たちが正式に婚約するのは難しいみたいだ」
「……え、そうなの?」
ルーファスの言葉にマリアは目に見えて肩を落とした。そんな彼女の様子を横目で見ながら、彼は丁寧に説明する。
アストリア王国、ガルディア王国及びその周辺諸国は、同じ文化圏に属している。文化は宗教によって形作られることが多いので、国教も同じであるし、基本的に婚約や結婚についてのルールもそう違いはない。
ただし、ガルディア王国には特有のルールがあって、結婚前に必ず婚約の手続きをとらねばならず、また婚約時には女性のみ独身証明書を用意しなければならない。多民族国家で人の流入が多く、宗教的に一夫多妻が許されている国の者との婚約・結婚で揉めることが多かったとか、不倫の末の駆け落ちとか、色々な問題を経て定められた決まりらしい。
女だけに独身証明書が求められるのは、男尊女卑の考えが根底にあるのと、妊娠していた場合の親権の問題があるからだろう。
独身証明書は祖国で発行されるから、マリアはアストリア王国から取り寄せなくてはいけない。委任状があれば代理の者でも可能だが、マレーリーにお願いする手紙を出して取り寄せるとすると、発行手続きや郵便事情から2、3か月かかってしまう。その間にマリアたちが1つのところに滞在しているのは現実的ではない。
それにマレーリーに手紙を出すと、クルーガー侯爵に現在の居場所が知られてしまう虞があったから、ルーファスはその愚はおかしたくなかった。
「俺の国はアストリア王国とほぼ同じだから、独身証明書はいらない。だから俺の国に着いたらすぐにでも婚約するのが1番良いと思う」
「そうね……。でも、叔父様にはさすがに事前に言っておいた方が良いと思うのだけど、いつなら手紙を書いても良いの? ルーファスのご実家についてから手紙を書いていたら、また時間がかかってしまうわ」
「そのことなら心配はいらない。マレーリー様には事前に話をつけてある」
「え!?」
ルーファスから初めて聞く事実に、マリアは空色の瞳をこぼれそうなほど見開いた。