118 男としての責任
イザークのことをあたたかく見守れる方だけどうぞ(>_<)
マリアが今日もベッドで本を読んでいると、イザークが部屋を訪ねてきた。
「マリア、入ってもいいかい? 新しい本を持ってきたよ」
「イザークさん!」
イザークはマリアの好みそうな本を何冊か見繕っては、こうして定期的に部屋まで持って来てくれていた。
イザークはマリアの部屋を訪れるときはいつも、彼女と密室で2人きりにならないように、気を遣って扉は開けたままにしておいてくれる。
「体調はどう?」
「おかげさまでだいぶ良くなりました」
「それは良かった」
彼は持ってきた本をベッド脇のテーブルに置くと、マリアに簡単に本の内容を説明してくれた。
一通り説明を終えたイザークは、今日もマリアの手の上に自らの手を重ねて、黒く魅惑的な瞳で彼女を見つめた。
「マリアをベッドに縛りつけることになってしまって、すまないと思っている。君さえ良ければ、いつまでもここにいてもらって構わない」
そうして彼女の手を口もとに引き寄せると、そのほっそりとした白魚のような指先に口づけた。
「男としては、怪我をさせてしまった責任もとりたい……。もうそろそろ考えてくれた?」
イザークは未婚のマリアに怪我を負わせた責任を強く感じていた。それは間違いないが、それだけではなかった。かよわい女の身でありながら咄嗟に他人を庇う自己犠牲の精神や、どんな状況でも優しさと明るさを忘れない彼女のことを、イザークは得難い女性だと思っていた。
「あの……何度もお伝えした通り、傷も残らないってお医者様もおっしゃっていたので気にしないで下さい。それに私にはルーファスがいますから……」
マリアはイザークの気持ちを知らないので、義務感だけで彼が言っていると思っている。マリアはここのところ毎日言っているお断りの言葉を、また心底申し訳なさそうに繰り返した。
「ルーファスとは婚約もしていないんだろう? それならまだ間に合うよ。私に乗り換えないか」
イザークに意味深に微笑まれ、初なマリアは対応できずに困ってしまう。女性なら皆、見惚れてしまうような艶っぽい微笑みで、彼女も例外なく頬を染めてうつむいた。
そのとき開けっぱなしの扉の方から、呆れたような声が聞こえてきた。
「イザーク様、私がいるのがわかってて、人の恋人を口説くのをやめてもらえますか? それにマリアと正式に婚約を交わすための手続きも、あなたに相談したはずですが」
ルーファスがいつの間にか扉のところに立っていた。マリアはなんだか気まずくて、悪いことをしていないはずなのに胸がドキドキした……。