117 静養
マリアの意識が戻ったという一報は、皆を心から喜ばせた。彼女は日々着実に体力を取り戻していったが、医師からの安静の指示のもと、この1週間あまりを部屋の中で過ごしている。
ルーファスの両親を待たせていることを考えると、早く旅を再開しなければいけないとマリアの心は焦ったが、ゆっくり休むことが今は必要なのだと自らに言い聞かせ、気持ちを切り替えて静養に努めることにした。
この屋敷はイザークがソンムに所有する別邸らしく、それほど大きな屋敷ではなさそうだが、若い彼が所有するにはかなり立派なものだった。マリアの実家も、父親のギルバートが生きていた頃は別邸を所有していたが、叔父のマレーリーが継いでからは、そういった経費のかかるものはすべて手放してしまっていた。
今、マリアが使用している女性用の客間もとても快適で、部屋についている大きなバルコニーからは美しいタンガロイ湖が望めた。その湖面はキラキラと陽の光に輝いていて、生まれてから、海はもちろん湖というものも見たことがなかったマリアは景色を眺めていることも多かった。あとは趣味のひとつである読書をして、日がな一日のんびりと過ごしている。
もともと彼女は部屋で過ごす時間も好きなので、部屋に籠っていること自体は特に苦痛でも何でもなく、それなりに楽しんでいた。