115 両親との再会
そのときマリアは温かい微睡みの中にいた。気持ちの良い眠りから目を覚ますと、生まれ育った屋敷の自室にいることに気がついた。窓際の椅子に腰かけて刺繍をしていたはずなのに、どうやら眠ってしまったらしい。
ふと窓の外に目をやると、花々が咲き乱れる美しい庭園が目に入る。生活に困窮したとき、畑に変えたはずの庭園が、なぜかまた在りし日の姿に戻っていた。
でもマリアは、なぜかあの美しい庭園に行くための一歩が踏み出なかった。こうして彼女は、昨日もその前もそのまた前も、窓から庭園を眺めていたことを思い出す。
もうそろそろ勇気を出して庭園に行ってみるべきだろうか。マリアが決断できずにいると、野ばらの向こうにひっそりと佇む母エレノアの姿が見えた。
「お母様……!」
マリアは思わず立ち上がり、庭園に向かって駆け出した。
「マリア……」
初めて聞く優しい母の声。母の姿かたちは、自分に本当によく似ていた。エレノアは心配そうにマリアを見つめている。そしてエレノアの隣には、いつの間にか寄り添うように父ギルバートが立っていた。
「もう来たのかい? まだこんなところに来てはいけないよ……」
ギルバートは悲しそうな瞳をしていた。
「来てはいけなかったの? 私は会いたかったのに……」
マリアは両親が亡くなってからも、屋敷の皆に支えてもらって生きてきた。それはとても幸せなことだったけれど、でも心のどこかではさみしかったのかもしれない。
野ばらの間を縫って両親のもとに行こうとしたとき、突き出た枝がマリアの首筋の何かに引っ掛かった。それはラピスラズリとアクアマリンの2種類の宝石が入った、星の形の可愛らしいネックレスだった。紺碧と水色の小さな宝石が光を反射して輝き、マリアの心をざわつかせる。
「……私、こんなネックレスを持っていたかしら?」
マリアが思わず足を止めたときだった。
突然誰かに腕を強く引かれ、背後から抱きすくめられた。
「マリア……行くな」
聞き覚えのある低い声と優しい温もりに、相手の顔を見たくて、マリアはゆっくりと振り返った。




