114 眠り続ける恋人
イザークは責任を痛感し、深く頭を垂れてルーファスに謝罪した。しかしルーファスは「マリアが勝手に庇ったことだから」と謝罪を敢えて拒否した。
それでも愛する彼女が他の男を庇った末にその命を落とそうとしている現実は、ルーファスには到底受け入れ難く、彼はその身を煉獄の炎に焼き尽くされるような思いがした。
ベッドに横たわるマリアは解毒薬が効いているのか、高熱等の特別な症状がある訳ではない。しかし今日であの悪夢の日から既に1週間が経過していたが、彼女は一向に目を覚まさなかった。
このままこの状態が続けば、そう遠くないうちに衰弱して命を落とすと、医師から宣告されている。
「マリア……早く起きて、また俺の名前を呼んでくれないか……?」
ルーファスは今日も眠り続ける美しい恋人に話しかけた。指先でマリアの滑らかな頬に触れるが、まったく反応はない。苦しそうにしていないのが、せめてもの救いかもしれなかった。
ルーファスはマリアを失ってしまうかもしれないという状況になり、改めて彼女をどれだけ愛していたか思い知らされた。
彼女が微笑んでくれない毎日は、すべての色を失って、空虚な時間が灰色の日々の上をただ滑り落ちていくだけだ。
そうして彼は、今日も切ない想いを胸にマリアのそばで眠りについた。せめて夢の中で彼女の声を聞きたいと願いながら。