111 殺意
マリアは女性として改めてオーランにも挨拶をしたが、彼はあっさりと受け入れてくれた。イザークとオーランの2人と嘘のない関係になれたことで、彼女は旅の仲間としての彼らをますます大切に思うようになっていた。
そうして穏やかに過ぎていった明後日の朝、出発の準備をしながらイザークが皆に声をかける。
「今日中にもソンムにつけそうですね。到着する頃には夜になるかもしれませんが、このメンバーなら大丈夫でしょう」
「本当にありがたかったわ」
デリシーがにこやかに答えて、場に明るい雰囲気が満ちる。マリアもまだ馬車に乗り込んでおらず、温かい気持ちで何気なく周りを見渡したときだった。
後から考えても不思議なことだが、そのときマリアはなぜか気づいてしまった。ルーファスたちだけではなく、森林の申し子でもあるブラックですらわからなかったことが、なぜそのとき彼女だけにわかったのかまったく説明がつかない。ふいにマリアは、ゾッとするようなどす黒い憎悪を感じ、恐怖に身体を震わせた。
辺りを見回して懸命にその根源を探すと、樹上で葉に身を隠すようにして遠く矢をつがえる1人の男を発見した。その男はマリアではない誰かを強い殺意をもって睨んでいた。その男が狙っているのは彼だ。
弓を引き絞る動作が見え、彼女はあまりにも突然のことで叫ぶこともできず、ただ全力で標的となっている彼に駆け寄り、その勢いのまま渾身の力で突き飛ばした。