110 君のことが知りたい
「イザークさんは、何者なんですか?」
マリアの質問にイザークが悪戯っぽく答える。
「マリクとほぼ同じだよ。でも君と違って性別は偽ってないけどね」
彼の発した言葉はマリアを瞬時に凍りつかせた。ルーファスの予想通り、イザークはマリアが女であることを見抜いていたわけだが、ルーファスから事前に言われていたのにも関わらず、彼女はまったく動揺を抑えることができなかった。
「どうして、わかったんですか……?」
マリアは助けを求めてルーファスの姿を探すが、あいにく彼の姿はどこにも見当たらない。
「髪は短いけど、仕草や雰囲気ですぐに女性だとわかった。でもそんなに怯えないでほしい。ただ君のことが知りたいだけだよ」
「私のこと……?」
マリアは戸惑いながらもありのままを話した。静かにマリアの話に耳を傾けていたイザークは、最後に彼女に確認した。
「ひとつ聞きたいんだけど、ルーファスは君の恋人なの?」
マリアはその質問に、花がほころぶような微笑みを浮かべ、恥ずかしそうに頷いた。その可憐な様子にイザークは目を細め、聞こえないくらいの微かな声で呟く。
「……本当に可愛いな」
出会ってからまだ数日だが、イザークはマリアに惹かれていた。彼は身分柄、多くの女性と顔を合わせる機会があるが、彼女ほど清楚で美しい令嬢には会ったことがなかった。貴族令嬢だったというマリアには驕ったところが一切ないばかりか、何にでも直向きで、いつもにこにこしていて素直なので、イザークは彼女と一緒にいると癒されていた。
マリアが落ち着かない気持ちでルーファスを待っていると、ようやく彼がオーランと共に旅人の小屋から戻ってくる。
「ルーファス……やっぱりイザークさんは私が女だと気づいていたの」
「そうか」
ルーファスはマリアの告白に別段驚きもしなかったが、マリアとイザークの間に流れる微妙な雰囲気の変化を敏感に察知すると、彼はさりげなく彼女を自分のもとに取り戻した。