106 弱気なデリシー
ルーファスとイザークは、明日の出発の時間等の簡単な打ち合わせだけを済ませ、今日のところは別れた。
「慎重なあなたにしては、あっさり決断したのね? 確かにあの2人は腕に覚えがありそうだし、一緒に行けるのならありがたいとは思うけれど……。あなたはマリアちゃんに他の男が近づくのは嫌じゃないの?」
デリシーは3人だけになるとすぐにルーファスに疑問をぶつけた。
「マリアには俺がついているから大丈夫だろう。それに、デリシー……お前が一番わかってるんじゃないのか? 彼らがいれば今後はかなり楽になるはずだ。お前はしばらく無理をする必要は無い」
ルーファスの言葉にデリシーは驚いたように目を見開いた。
「……ごめんなさい、やっぱりわかっちゃうわよね。確かにその通りよ。しばらくは今までのように戦えないわ……」
彼女は悔しさのあまり、血が滲むほど強く唇を噛んだ。
デリシーは今日の戦いで負傷したが、怪我自体はどれも大したことはなかった。問題は敵に捕まって命の危機にさらされたことで、死の恐怖にいまだに囚われていることだ。このような状態で戦っても足手まといになるだけだろう。
しかし例えそうだったとしても、デリシーの奮闘は充分に称賛に価するものだと考えていたルーファスは、珍しく落ち込む彼女に精一杯の労いの言葉をかけた。
「デリシーがいてくれたから、俺たちはこうして今も生きている。謝る必要はまったくない。むしろ感謝している」
ルーファスの優しい言葉にデリシーの目に涙が浮かんだ。あの極限状態の戦いの中、ルーファスがデリシーの盾となって剣をふるっていたことは彼女にもよくわかっていた。だから彼は、彼女の分まで敵の返り血を浴びたのだ。それなのにデリシーはルーファスが最も嫌がること、つまりマリアに血まみれの彼の姿を見せてしまった。
幸いにもマリアはそんなルーファスをあっさりと受け入れたようだが、デリシーは狭量な自分をあさましく思い、せめてもの償いにある決意をした。
「これからお姉さんは、あなたの幸せのために頑張るからね!」
そう熱く宣言し、彼女は鼻息荒く拳を握った。