105 ある1つの提案
相席の申し出を断る理由もないので、ルーファスは彼らに座るように勧めた。
もともと6人がけの四角いテーブルを3人で向かい合う形で使っていたので、彼らはデリシーの横、マリアとルーファスの対面に腰かけた。マリアが何の気もなしに2人を目で追っていると、黒曜石の瞳の男性が優しく彼女に微笑みかけてくれる。
「私の名前はイザークと言います。こちらはオーラン。先ほど管理人から、あなた方がたった2人で野盗を倒したと聞きました。ここに来る途中に戦いの跡を見ましたが、あれだけの人数を相手によくご無事でしたね」
男性はルーファスとデリシーに興味があるらしく、相席を申し出たのもそれが理由のようだった。ルーファスが代表して簡単にマリアたちを紹介した後、彼は野盗との戦いに勝ったことを一切誇るわけでもなく、冷静にイザークたちにあのときの状況を説明した。改めて振り返ってみれば、薄氷の勝利だったとルーファスは思う。
「正直奴らに勝てたのは、運が味方してくれたことも大きいと思います。こちらが女連れで人数も少ないので相手も油断していたのでしょう。次はどうなるかわかりません」
最後に付け加えられたルーファスの言葉に、イザークは深く同意した。
「生死を分けるのはいつも、本当にわずかなことです。あなた方はどちらまで行かれるんですか? 私たちはソンムに向かっています」
「私たちもソンムを経由して、王都シュバルツに行く予定です」
それを聞いてイザークはルーファスにある1つの提案をした。
「野盗の危険性を考えると、やはりこちらも人数が多い方が良いと思います。一緒にソンムまで行きませんか?」
ルーファスはしばらく黙考していたが、やがて静かに頷いた。
「こちらこそ同行させていただけるなら心強い限りです。しばらくの間、よろしくお願いします」