104 黒曜石の瞳の男
「奇遇だな。俺もお前は好みじゃない」
ルーファスも淡々と言い返す。デリシーは先ほどの戦いで、自分の命の危機に、ルーファスが微塵も動揺を見せなかったことを恨んでいるようだった。
「大体、あれくらい自分でなんとかできるだろう」
「そんなの結果論でしょ。マリアちゃんも本当にルーファスでいいの? 考え直すなら今のうちよ。たとえば、この小屋の中にいる男だったら誰がいいの?」
思わぬ飛び火にマリアは面食らった。ルーファスは静観を決め込んでいる。
「……ルーファス以外は……特に……」
「ふーん、じゃあ……」
デリシーが小屋内の男性を順番に示していくが、マリアは困ったように曖昧な返事を繰り返すばかりだった。しかし最後の男性だけは、彼女を強く惹き付けるものがあった。
「………」
「あら、好みなの?」
マリアの反応の違いにデリシーが敏感に気づく。
その男性は2人連れで、管理人と何やら話をしていた。年齢は20代半ばくらいだろうか。黒髪の長髪を後ろで縛り、腰にはシャムシールという刀身の曲がった刀を下げていた。肌は褐色で黒曜石の瞳をしており、涼しげな顔立ちの中にも、研ぎ澄まされた鋭さのようなものを感じる。
彼と共にいる壮年の男性も、彼と同じ色彩をしていて、いかにも騎士といった固い空気を纏っていた。
「たしかにいい男だけど、私の好みではないわね。でもマリアちゃんにはお似合いだわ。守ってくれそうな大人の男に大事にされて育つタイプだから」
デリシーが好き勝手言うのを、マリアは慌てて止めた。ルーファスがいるのに誤解されたくなかった。
「いえ、あの……そういうことではなくて、周りの人たちと明らかに雰囲気が違うなって思って。人目を惹くというか……」
「たしかに雰囲気があるわね」
女2人でそんな話をしていたら、彼らがこちらに向かってきたので、マリアは驚いてしまった。そして黒曜石の瞳の男性がルーファスに声をかけた。
「こちらに相席してもよろしいですか?」