100 恋の行方
「ははは……はは、ルーファス、あなたはアンダーシュバルツにいた頃と……何も……何も変わらないわ!」
永遠とも思える時間の中、マリアが息を詰めていると、デリシーの狂気じみた声が聞こえてきた。
ほどなくして戦いは終わったようで、馬車が再び緩やかに動き出す。マリアは外の様子が気になるが、その心を懸命に抑えていた。
「マリアちゃん、もういいわよ」
デリシーに声をかけられ、マリアがようやく馬車をおりた頃には、空はもう美しい茜色に染まっていた。どうやら無事に旅人の小屋についたようだ。デリシーは朝見たときとはまったく違う満身創痍の様相で、至る所にガーゼや包帯で治療したあとがあり、その姿はあまりにも痛々しい。
「デリシーさん……そんなにお怪我をしてしまって……」
「あら、そんな泣きそうな顔をしないで。大したことはないから大丈夫よ」
デリシーは逆にマリアを優しく慰めてくれた。そしてすぐにマリアは、ルーファスの姿が見当たらないことに気づく。
「……ルーファスは? ルーファスも怪我を?」
「彼ならそこで血を落としてるわ。行ってあげたら?」
「はい!」
ルーファスを目指し、夕陽に向かって走っていくマリアを目で追いながら、デリシーは一人ごちた。
「マリアちゃん、あんな血で汚れたルーファスを見たら、好きになる相手を間違えたって思うのかしらね」
2人の恋の行方を遠く見通すように、デリシーはその目を眇めた。彼女の目に映る西日は、鮮やかな血の色にしか見えなかった。