10 見習い騎士ルーファス
真っ赤になってしまったエドを、マリアは不思議そうに眺めていた。熱でもあるのだろうかと、彼の額に手を伸ばそうとしたときだった。
「エド、僕との勉強の約束を放り出して、お嬢様とお話とは、ずいぶんと余裕があるみたいだね」
エドの背後から穏やかだけれど凛とした少年の声が響いた。エドはびくりと肩を揺らし、恐る恐る振り返る。
「その様子では、来年の入学試験は余裕なのかな?」
「げ……。ルーファスさん……いや……そういうわけじゃ……」
一転して、今度は顔面蒼白になったエドをよそに、マリアはルーファスと呼ばれた少年の姿を認めると、花のような笑顔で彼に抱きついた。
「ルーファス! お帰りなさい!」
「ただいま帰りました、お嬢様」
そう言ってルーファスも、マリアを優しく抱きしめた。
マリアにとってルーファスは、兄のように優しくて頼りになる存在であり、かっこいい彼はマリアの憧れだった。マリアより4歳年上の15歳で、現在は王立騎士学校に通っている。
ルーファスはギルバートの知人の息子で、騎士になるためにアストリア王国にやってきた。アジャーニ家に下宿して約2年になる。時間があるときには、騎士志望のエドの受験勉強を見てやることも多かった。
東方の出身だというルーファスは、黒髪に青い瞳をしており、マリアの空色の瞳に対して、彼の瞳はラピスラズリのような紺碧をしていた。
彼がアジャーニ家に来たばかりの頃は、マリアには、彼のその美しい瞳が悲しみを湛えているように見えた。
マリアがルーファスに悲しい瞳の理由を聞いたとき、ルーファスは「さみしいから……かな?」とだけ答えた。
彼女には、そんな彼がどこかに消えてしまいそうに思われて……。
彼が抱えた悲しみを癒したくて、マリアはその小さな身体で精一杯抱きしめて囁いた。
「さみしくなんてさせないわ。……だって私がずっとあなたのそばにいてあげるもの」




