3HOLE 心ない者共は”匹”で数えるべき!
例えば、殺人犯を捕まえ、極刑にしたとしよう。
しかし、それだけで、事件は解決するのだろうか?
それだけで、被害者は、その遺族は、満足するのだろうか?
黒幕は?己の手を汚さず他人に犯罪をさせる巨悪は、放置していいのだろうか?
いいわけがない!!この世が平和になるはずがない!!
少女は恨みで、怪物を生み出してしまったらしい。それは怪物と繋がっている長い紐が証拠になっている。
しかし、井開洋児は、彼女は犯人じゃあない、別にいると推理したのだ。
「だって、ガッツリ紐が繋がってんやん」
スーナ・ナイチンコールはその推理が信じられない。
「いや、彼女が怪物の本体なのだろう、しかし、怪物を生み出したのは彼女じゃあないんです」
ナイチンコは意味が分からなかった。少女の方はさらに意味が分かっておらず、ポカンとしていた。井開は分かっていないと悟り、
「あなたは確か、虐めで苦しんで、自殺しようとしたんですよね」
「う、うん…」
井開の質問に少女は頷いた。
「ひょっとしたら、そのストレスが原因で喉の病気にかかったのでは?」
「あ…考えてみればそうっぽい、虐めを受けてから病気になった…」
「やはりか…」
井開は己の腹を見て、
「俺もなんだ…虐めによるストレスで…胃潰瘍になっちまったんだ…」
「え?うわ!!」
少女は井開の腹にポッカリ空いた穴を見て驚いた。胃潰瘍ってレベルじゃあねーと。
「畜生…虐めはマジ最悪だよな…犯罪だよ絶対に許せねえ」
井開は改めて強い憤りに駆られた。
「で、犯人て誰よ?」
理解出来ていない天然女、ナイチンコールが聞いてきた。
「え?だから…虐めた奴らだよ、恨ませた奴らだよ」
「あ!じゃあ虐めっ子が犯人と?」
「そうッス!奴らを殺せば彼女の恨みは消えるはず!つまり怪物も消えると」
ナイチンコールにとって、全く考えもつかない発想だった。しかし、目の前に本体がいるのに、面倒くさいとも思った。
「でもそんな犯人の所に行かんとも、今ここでこいつを殺せば、怪物消えるやん…」
この言葉に少女は、
「は~~~あ?冗談じゃっねえ!!なんでおめーみてーな腐れ娼婦に殺されるなくっちゃあなんねーーんだよ!!」
野太い声で怒鳴る!
「お!言うたな!これで心おきなくてめーを殺れるぜ!」
ケンカになってしまった。危険な結末を察知した井開は、
「ちょ、待って下さいよ!勘弁してよナイチンコさん、今ここで殺したところで、なにも解決しない」
ナイチンコに説得した。
「何で私が娼婦に見えんねん…」
「お前の格好を見れば、一目瞭然じゃん!」
少女がナイチンコの胸を指した。
「えっ!?ひゃあ!」
怪物との闘いで衣服が破け、豊満な胸が乳首が見えそうな程、開けていた。
「うわわぁぁ!!」
両手で胸を隠したが、もう遅い、井開には嫌というほど見られてしまっている。
「見たやろ?」
井開は言い訳出来るわけない。普通ならブレザーでも被せてあげるものだが、井開にはそんな発想は出なかった、女性の扱いに慣れていないからだ。
「見たというか、見えてしまったのだが…」
「金払え」
「それじゃあ本当に娼婦やん…」
金を請求してきたナイチンコに、井開は突っ込んだ。
続けて少女にも説得する。
「あんたもだ!今死んでも浮かばれないっすよ、やはりなにも解決しねえ、やることやってから死ぬべきッス、奴らを殺してから」
復讐を説得した。
「殺したいのはやまやまさ…だがそこには壁が…法律という壁がね。刑務所に入れられるのは嫌だ…家族にも迷惑がかかる…そしてなにより…怖い!」
虐めを受けている者に大人はよく、やり返せ!、戦え!などと説教してくるのだが、そんなことが出来る者は殆どおらず、多くは怖くて震え、硬直してしまうものである。それは勇気がないからではない、心に傷が出来てしまっているからだ。この男声の少女も、そして井開も例外ではない。
「安心してくれ、恐くない、そして罪にも問われない策があるぜ!」
井開は閃いていた。二人は策というのはどんなものかと問いかけた。
策の内容を聞き、納得と関心をする二人。早速実行に移す為、まず少女から虐めをしてきた奴らの名前、通っていた学校を聞き出した。
そして、怪物や異世界のこと、腹穴のことを少女に説明した。当然信じて貰えなかったが、あとでわかることだから今はいいと井開は言った。
続いて少女の名前を聞き出す。池母聖子と言った。読み方を変えるとなかなか洒落の効いた名である。
別にお前の為にやる訳ではない、私の自分の世界のためにやってるのだと、ナイチンコは池母に念を押した。
池母はいつも通り、虐めの待つ学校へ向かった。いつもは重い足取りも、今日に至っては羽根が生えたように軽かった。
そう、今日はその虐めからおさらば出来るからである。
「お!来た来た!イケボの奴が来たぞ!」
「は~あ、またこいつのクソ声聴かなくっちゃあなんねーーのかよ…」
「声も臭えが息も臭えよな…」
「完全に障害者だぜあいつ」
教室に入るなり、辛辣な言葉が浴びせられる。これは日常茶飯事である。
池母の頭に何かがぶつけられた、それは"上履き"である。次から次へと投げつけられる。これも日常茶飯事である。ただぶつけられるだけならまだいい。
「おい!取ってこいよ!」
最悪の屈辱である。向こうから故意に投げつけてきたのにもかかわらず、持ち主の所に持ってこさされるのだ!丁寧に履かさせることもある、まさに犬以下の扱いだ。これもまた日常茶飯事である。
いつもならここで、怖さのあまり、血の涙を流しながら従うのだが、今日は違った!その上履きをゴミ箱に捨て去ったのだ!挙げ句その上に唾を垂らした。
当然、持ち主の怒りを大いに買うことに。
「池母!てめー!!」
「許せねーー!!」
「てめー!後で体育館裏こい!!」
体育館の裏と聞き、ニヤリとする池母、作戦通りだからだ。”虐めっ子を外に誘い込む”。奴等がそこに連れ込まれリンチ、喝上げ、セクハラされるのも日常茶飯事なので、やりやすかった。
放課後の体育館裏。
男三人、女三人の虐め人がいつものように池母をそこに連れ込んだ、いや、今回に限っては池母がそこに彼らを連れ込んだ、と言うべきか。
「てめー、やってくれたなァ…」
男の一人が上履きを持ち、池母の顔面を叩く、続いて女二人が上履きを投げつける。
「取れや、ボケ」
他四人が一斉に上履きを投げつける。
「へへへ…さあ履かせろよ…それがてめーの仕事だろう…」
六人は一斉に汚い足を差し出した。
「ああ…はかせてやるよ…ゲロをな…」
「なにィィ…??」
池母は薄ら笑いをしながら宣言した。当然苛つく六人、溜まりかねた男が池母の胸ぐらをつかんだ。
その時!
「なるほどな…そうやって虐めているわけか…」
「その靴の形…なるほどその靴に恨み持ってるんやあ…あんな怪物の形になるわけやな…」
井開とナイチンコが歩いてやってくる。ナイチンコはナース服が破れてしまったので、井開のジャージを借りて着ており、豊かな胸が目立っている。二人共自信に満ちている。
「何だァーてめーらは??」
「他の学校の奴等じゃあねーか!」
虐め者がメンチを切る。
「死人に語る名前なし!」
井開が格好つけて答えた。
「なあ池母、ここにいる六匹があんたを虐めてる外道か?」
ナイチンコの問いに池母は頷く。
「んじゃ、パッパッとやっちゃいますか!」
「おう!」
ナイチンコが構える!井開も包丁を構える!
「なにィィィーーー!」
六匹が一斉にキレた。
ナイチンコが六匹の中の一匹に狙い補を定め、一気に間合いを詰める!男に構える間も与えず胸を手刀で貫く!
「ゲビャ!」
と叫び男は絶命!続けて近くにいた女の首もはねる!僅か二秒の間に二匹の虐め者を屠り去った。
「ウワァァァ!!」
残りの虐め者共が絶叫する。それもそうだ、近くで殺人事件が起きたのだから。
「ひ、ひ、人殺しィィーー!!」
虐め女が叫ぶ、それに対し井開が、
「人殺し?違うね、"人"というのは真っ当な心、生き方をする者のことをいうんだぜ。お前等はどうだい、人を虐めあざ笑い、人の心を潰す。そんなクズを人とはいえないね!」
誰もが心に抱いている正論を述べた。
「そういう事や、私がお前等を”匹”で数えたのは。お前等のような生き物、誰が人間と思うねん!」
ナイチンコも同じ人間だと思ってないことを伝えた。途中から彼らを匹と記述したのもその為である。
あんたも人間じゃあないだろと井開は心の中で突っ込んだが、あっちの世界では人間なのかと思い直した。
今度は井開のターン、男の腹をめがけ包丁で突く!が、避けられる!しかし、これは想定内、自分の腕では避けられることは分かっていた。そこで奥の手、催涙スプレー!男の顔面めがけて噴射!ひるんだ隙に胸を滅多刺し!練習通りだ!男は絶命!井開、軽くガッツポーズ!
そして今度は池母のターン、後ろから女に隠し持っていたナイフで滅多刺し!相当鬱憤が溜まっていたのか、雄叫びを上げながらナイフを突いた。
普通は仕返しが恐くて攻撃が出来ないが、殺しとなると話しは別、死体は仕返ししないからだ、だからやれたのだ。
最高に気持ちが良かった!人生で一番なのかも知れない。殺しで快感を得るのは、傍から見ると”サイコパス”と取られるかも知れないが、自身を自殺させるまで追い込んだ外道だ、殺しても悪にはならない。
残るは二匹、これらは怯えていた。
男は携帯電話を取り、
「畜生!サツに電話してやる!」
警察に電話しようとした、が!井開は催涙スプレーを奴の顔面に噴射し、それを阻止した。
女は、井開達に、
「てめーら、絶対捕まるからなァ!証拠はあるしよォ!」
と、脅しをかけた。しかし井開は全く動じず、それどころかニヤリとし、
「証拠?このボロ雑巾のことか?」
死体を指し、そう揶揄した。
「ああ…大丈夫だ…証拠の捨て場所は、しっかりと確保してあるぜ…」
「なにィ!」
井開はブレザー、シャツをめくり、腹の穴を見せた。それを見た二匹は驚愕した。
「ナイチンコさん!頼む!」
「あいよ!」
ナイチンコは一つの死体を担ぎ、腹穴に放り投げた!死体はスッポリと穴の中に入っていった。
「なにィィィーー!!」
二匹は目玉が飛び出んばかりに驚いた。それをよそにナイチンコは死体を次々と、玉入れのごとく腹穴に納めていった。
死体を全て消し、残りの二匹を処理しようとしたとき、
「どうせなら、生きたままあっちの世界へ連れて行こうよ」
「どゆことや?」
「あの上履き怪物に殺させるんや」
「グラッチェにか?」
井開の提案に、困惑するナイチンコ、そして怪物と聞き、恐怖する二匹。
「恨みで生まれた怪物のことか…そうか!恨みそのものに殺させた方がいいもんな!」
「そういう事やで!」
池母は提案を理解した。
恐怖のあまり、遂に二匹は逃げ出した。しかし、ナイチンコはすぐに追いつく、そして双方の腹に一撃を入れ、気絶させる。そして腹穴に放り込んだ。
続いてナイチンコも穴に飛び込む、池母は初めての体験なのでかなり戸惑ったが勇気を出して飛び込んだ。そして井開も入っていった。
虐め者二匹が目を覚ました。そこには、
「ぎょぎょわわわァァァ!!」
上履きの怪物が目の前にいた。二匹は縄で縛られ動けない。
「これが…お前等が生み出した私の怪物さ…」
離れた所にいる池母の言葉の意味が分からなかった。しかし今は、
「た、た、助けてくれェェーー!!」
「ゆ、ゆ、許してェェーー!!」
命乞いをするしかなかった。
「私は何度その言葉を言っただろう…しかしお前等は聞き入れようとせず無視し続けた…私もそうするしかないなあ…」
池母と、その隣にいた井開とナイチンコは、親指を下に向けたサインをし、
「死ね!!」
と言い放つ、そして怪物はその靴の裏に似た体で二匹を押しつぶした。
「プギャェ!!」
と断末魔を挙げ絶命した。
怪物がどんどん透明色が濃くなり、遂には見えなくなり、完全に消滅し、二匹の潰れた死体だけが残った。池母から伸びていた紐も当然消滅。池母の恨みは消え去ったようだ。
三人は爽やかな風を感じていた。空気が綺麗になったからだろう、怪物が消えたからだけではない、虐め者という、さらに汚い物が消えたからだろう。
「ありがとう、ホンマ助かったよ。これで私の私生活が平和になった」
池母は少し関西弁が混ざってしまったが、井開に礼を言った。
「こっちの平和を救っただけやねん」
ナイチンコは礼を否定した。
「おめーに言ったんじゃあねえ、井開に言ったんだよ」
また喧嘩になりそうなので、井開が、
「いやいや、あんたの生活だけじゃあないさ、平和になったのは。今いるこの世界も、そして俺たちの世界もな…」
礼の返しをして止めた。
「さあ、戻ろう。俺たちの世界へ」
井開が池母に帰るよう誘った、が!
「な!な…に…」
閉じていたのだ、井開の腹穴が、元へ戻る扉が。
腹を殴ったり、いじくり回したりしたものの、穴は復活しなかった。
「か、帰れねえ…」
「ええーー!家にあるプリンの賞味期限が切れるゥゥ!」
池母はどうでもいい心配をした。
何ということだ!この何も知らない世界で暮らしていけというのか、二人は戻れるのだろうか。