1HOLE 虐めはもう犯罪にしろよ!
他の異世界ものと比べ「敵の倒し方」をテーマに制作しました。今までになかった攻略方法だと思います。
ここの世界とは違う別の世界”ポン日”。
別世界と聞くと、大抵の人はのどかで平和そうな桃源郷を想像してしまうだろう。しかし、この別世界は桃源郷とはほど遠い環境だった!
戦争が起こっている訳ではない、いや、している暇がない、人間同士が争っている場合ではないのだ。
平和を脅かしているもの…それは”グラッチェ”という怪物である。
どこからともなく現れては、見境なく建造物を破壊し、次々と人間、生命を殺めていく。
さらに問題なのは、この怪物が”不死身”ということである。弱点も分からない、どんな武器をも通用しない、魔力を込めた攻撃なら、多少疲れさせることが可能だが、すぐに回復してしまう。
一定時間暴れ回った後、飽きたかのように消えていく、そしてまた現れ暴れる、これの繰り返しである。
毎年全世界人口のおよそ三割以上がこれにより命を落としている。
ただ、グラッチェの名の由来が”怨念”であるように、人間の恨み、不満により発生していると考えられている。
つまり、恨み不満で怪物を作った人間を殺せば、消すことができるのだが、困ったことに、発生源が分からないグラッチェが殆どという事である。
一説によると、ポン日ではない別世界からの恨み不満が原因とか…
この現世界、そして日本は”虐め”における罪は、あまりにも軽すぎる。
本来ならば殺人いやそれ以上の罪のがあるはずなのに…土手っ腹に
ピストルで撃ち、殺す程の罪があるはず、だのに牢屋に入れられることも無ければ、刑を受けることも無い、社会で何食わぬ顔で生活していやがる、最悪の世だ。
と、井開洋児は常にそう思っている。何故なら、腹に穴を開けられたのだ。虐めの影響で…
井開は、虐めにより最悪の毎日を送っていた。
馬鹿、クズと呼ばれるのは勿論、更には知恵足らず呼ばわりされることは日常茶飯事だ。
肉体的な暴力も半端じゃあなかった。不意に殴られる位ならまだ天国に留まっている状態だ。使いぱしり、喝上げ、そしてリンチという地獄を体験させられる。
ストレスのお陰で、勉強すらままならない。頭の中にまで、奴らが罵ってくる感じがしてくるのだ。進学校に行きたいのに、成績が下がる一方、そのせいでまた虐められる、虐めの連鎖だ。
そんな極限状態で、ついに体にも異変が!リンチの怪我というワケではない、病気である。
腹が痛くなったのだ。痛くて痛くて仕方がない。仕方なく病院で診てもらうと、胃潰瘍と診断された。
畜生!あのゴミ共のせいで…奴らが開けたのも同然だ!井開は悔しくて仕方がなかった。
世界では核兵器は根絶するべきという動きがあるが、それよりもアイツ等を根絶して欲しいという考えを持ってしまうくらいだ。
彼はふと、こんなことを思ってしまった。
「どっか…別ン所行きてえなあ…地獄だってここりゃマシだろ…」
すると、腹が痛くなってきた。
「ぐおおォォォゥ!!」
井開が自宅の自身の、四畳半の部屋で、突然叫び出した。決して頭がおかしくなった訳ではない、こんなことが身に起こったなら、誰もがこうなるはずだ。
学校から帰宅直後、あまりにも腹痛が激しいので、シャツをめくって見てみると、何と!穴が開いていたのだ、黒く、深々と大きな穴が…
これには、ただただ叫ぶしかなかった、そして、
「何じゃあこりゃあァァーー!」
と偶然、昭和の刑事ドラマの物真似をしてしまった。ただ、血は出ていなかった。
両親は共働きで留守な為、近所に聞こえるほどの大声を出してしまっても、注意を受けることはなかった。
「死ぬのか?俺死ぬのか?なんでここまで…病気が進行したの
かァ?俺、何にも悪いことやってねえじゃん、なんで腹黒に?ていうか黒通り越して、穴ってんじゃん…」
と半狂乱になりつつも、恐る恐る穴に洗ってない右手で触れてみた。
「ぐわっ!手が、入っちまったァーー」
触るだけのつもりだった、痛そうなので入れるつもりはなかった。ところが、凄まじい勢いで”吸われ”たのだ。
どんどん吸い込まれる、この勢いに逆らえない。手が、肘が吸われ、それだけでは留まらず、肩も、そして顔までも吸い込まれてしまった。そして何と、左腕、両脚と体全体が吸われ、井開の体全体がこの場から消滅してしまった。
吸われ、意識を失っていた井開が目を覚ますと、
「どこだァ、ここは?」
そこは樹木が生い茂る林の中だった。
「いやいや、えェーー!?日本じゃあねーっぽいぞ?」
井開が驚くのも無理はない、雰囲気がもう日本とはかけ離れているのは、素人でも察せる位だ。芸能人のランキングがほぼ捏造ということや、か〇う姉妹の乳房が偽物だと見た目でわかるように。
迷っていると何かがぶつかり合うような、映画ばりの激しい轟音と女性の掛け声が聞こえた。
音の方向に向かうと、林を抜けた。そして目にした光景で…
「何だあれ、コントかよ!」
思わず笑ってしまった!得体の知れない怪物を見て。
草原で暴れている3メートルあろう怪物には、普通怖がる筈だが、実に妙な姿をしていた為、恐怖心はおこらなかった。
「靴に足がついてるぜ…」
靴というか、赤い上履きのようなものだった。それにティラノサウルスのような手足が付いており足裏に人のような顔が付いていた。まるでコント番組、「仮面ノリダー」の怪人のようだった。
「特撮なのか?」
林で隠れて見ていた、その怪物を。そして、それと戦っている人間を。
その人間は、一目で女性と判った。その女性もまた、妙な出で立ちだった。なんとナーススタイル、看護婦の格好なのだ。
井開はそっちの方につい、見入ってしまった。ナースといっても、コスプレ風であり、ミニスカートにスリット、黒のオーバーニーソックスで、上半身は袖なし・筒状のノースリーブ状、いわゆるチューブトップであり、豊かな胸のお陰ではみ出し、谷間が見えていた。スタイルはかなりいい。
さらに妙だったのは、格好に”動物”が入っているのだ。髪型ポニーテールの頭に被るナース帽には黒いうさ耳が、さらに形のいい尻にはアライグマのような尻尾がついていた。人間の耳が付いているか確認したかったが、もみあげの長い髪を折りたたんで結んでいるせいでよく見えない。
どんな戦隊モノだよと心の中で突っ込んだものの、
「………ヤりたいなァ…」
と男心に正直な本音を呟いてしまった。
「あの尻尾邪魔だなあ…アレでガードされたらヤれないなァ…」
それ以前の問題なのだが…
井開は映画の撮影とはいえ、そのリアリティに驚愕する。
女が上履き怪物に向かって突っ込んでいく!そして間抜けそうな人面に「シャァ!」と掛け声とともに跳び蹴り!瞬間!凄まじい打撃音と衝撃波で周りの草がなびく!井開との距離は20m程離れているが、ここまで突風が来たのである。
蹴りを食らい、「うわばッ」と鳴き声を発する上履き。間抜けな鳴き声に笑ってしまった井開。今度は上履きの方がとてつもない勢いで女に体で体当たりを喰らわせた!丁度、靴の裏で前蹴りのような形になっており、井開はまた笑ってしまった。吹っ飛ばされた女は、岩壁が砕ける程に激突した!
衣服は多少破れたものの、女は平気だった、が!左腕を怪我したようだ。岩で切ったのか、深い切り傷が出来ており、かなり出血している。しかし、ここでまた不可思議なことが。
右手を傷口に翳すと。一瞬で塞がった!それどころか、左腕の筋肉が異様に発達した!壁を蹴り上履きの元へ飛び込み、その左腕で顔面を思い切り殴りつけた!上履きが後ろへよろめいた、さっきの蹴りより効いているようだ。
「まだ倒せへん…やっぱ不死身なんかなあ…」
女が愚痴をこぼした。あの上履きは間抜け面に見えて倒せないのか?彼女の心境は、まるで生徒に舐められても、仕事上手出し出来ない教師のようじゃあないかと井開は思った。
しかし女は諦めない、上履きに攻撃を続ける。上履きは殴ろうとするものの、女はバク転でかわし、さらにバク転で間合いを広げる。女の華麗な動きに見とれてしまう井開。
ここで井開は気付く。映画の撮影の筈なのにカメラもマイクも見当たらない。空を見上げても、なにも飛んでおらず空撮している様子もない。
「どうなってんだ?カメラはあの乳の谷間に仕込んであるのか?」
と女の胸を見て考えたがそれだと彼女は映らない、何のためにあんなコスプレしてるのかわからない、やはり違うと思い直した。
しかもさっき女が話した言葉は日本語だ、どう見ても白人系なのに…井開の頭は混乱した。
「このイベントはなんだ?完全に趣味でやっているのか?」
そう呟いた。
上履き怪物とコスプレ女の激しい攻防戦が続く。女の服も破れていく。井開は女の方を応援しているのだが、もっと服を破いてくれと上履きの攻撃も期待してしまう。
ここで不死身と言われていた、上履きの息が上がってきたのだ。フラ付いてきている、女の攻撃が、努力が効いてきているようだ。
上履きが後ろを向いた!井開は後ろ姿を初めて見たが、想像通りの靴底が見える姿だった。
「そこ!危ない!目と口をふさいで!」
女はなんと、井開に向かって叫んだ!隠れていたのに存在に気付いていたのだ。当然びっくりする井開、言われた通りに目口を覆う、女も同様に覆った。
上履きは靴底から何かを噴き出した!空間が歪むほど、失神するほどの強烈な匂いだ!どうやら"おなら"だったようだ。あまりの匂いに井開はふらつき、つい林から外に出てしまった。
「アホー!出てくんなや!」
女に叱られる井開、好きで出てきたわけではない、殺虫剤で炙り出されてしまったようになってしまっただけである。
匂いが引き、ようやく五感が働いた矢先、今度は腹が痛くなってきた。
井開は腹部を見た。まさかとは思ったら、やはり穴が復活していたのだ。しかも今度は何かを赤い糸のような物が穴から伸びていたのだ。
血管なのか?と思いぞっとする井開。震えながら糸がどこに繋がっているかたどって見ようとすると…
女が突然、井開に詰め寄ってきた!そして襟首をつかみ、
「お前が本体かァァァーーゥ!!」
井開は何の事だか分からず、ただただ震えるだけだった。開けた胸がもろ見えだったが、嬉しがる心境ではなかった。
「本体って…ななな何だよ…」
「腹から伸びてるそれは何なの!なんでグラッチェと繋がっている!?」
改めて糸をたどってみると、何と!あの上履きの尻と繋がっているではないか!しかも水か血か、液体が中には入っているのか、こぶ状になって井開から上履きの方に流れていく。
液体を吸収した上履きは、よろめきがなくなり、体力が回復してしまっている様子だった。
「それ以上エネルギー送るのはやめろォーー!!」
「俺知らねェーー!!」
「知らねェってグラッチェとつながっとんやん!本体がお前だって証拠やんけェ!!」
井開を激しく揺さぶりながら女は問い詰めた。ちなみに胸も激しく揺れていた。
「グラッチェって何なんだよォゥゥーー!!イタリア語かァーー!!」
「あの迷惑な怪物のことじゃァーー!!町を破壊し人を殺しまくる、そして殺し方もよくわからんアレやァ!知らねーとは言わせへんでェ!」
「ええ?止められても、そー答えるしかねーよ、知らないと」
女は舌打ちをし、糸を切ろうとした。が!すり抜けて触ることも出来なかった。
「あかん!霊体で出来てて触られへん!」
上履きのパワーが上がっていると感じている女は焦っている!
「そうか!もっとカンタンな方法があったわ!ひょっとしたら、グラッチェ殺れるかもしれへん」
井開はドキッとした!女から殺気を感じたのだ。ま、まさか…彼は嫌な予感がして震えた。
「お前を…殺せばええんや!」
「えええーー!!勘弁!!」
本気で殺す気の女に、必死で許しを請い、止めようとする井開。
彼は本当に、この場で殺されてしまうのか。そして破壊獣”グラッチェ”の原因は、本当に井開洋児なのか?