第1章 1-3 依頼人(クライアント)との対面
カインとアベルの兄弟を乗せた馬車は目的地へと辿り着いた。
依頼人の住んでる屋敷はそこそこの大きさであった。
「こんな立派な屋敷を建てるなんてよっぽど悪いことやってるんだろうな?
豪勢な家を見ると燃やしたくなるのが人情だよな?」
兄であるカインはそう言うと懐からマッチを取り出し火を付けた。
弟であるアベルは慌てて止めようとする。
「ちょっ、ちょっと兄さん」
カインは火を付けたマッチで自分の煙草に火を付けた。
アベルは兄が家に火を付けるのではなくホットしたが煙草を吸う兄を心配そうに見つめた。
カインは弟の視線に気付くと口を開いた。
「ああ悪い、煙がそっちにいくか?
ちょっと向こうの方で吸ってくるわ」
カインはそう言うと少し離れて煙草を吸った。
アベルは煙のことなどどうでもよく、兄の体の心配をしているだけだった。煙草など健康に悪いだけなので兄に吸って欲しくはなかったが将来の健康のために吸うのを辞めろとは言えないアベルであった。
カインが煙草を吸い戻って来ると二人は屋敷の扉を叩いた。
「お待ちしていた、お二人が教会の派遣してくださったエクスシストだね」
玄関から出てきた五十を少し超えたぐらいであろうか、髪に白髪の混じった初老の男は使用人かと思ったがこの屋敷の主人であった。
広い屋敷には使用人らしき姿はまるで見当たらなかった。
依頼人である初老の男は広間にカインとアベルを案内すると自己紹介を始めた。
「私の名前はジェイコブ・ロランス。今回教会に依頼した者だ」
初老の男の名前はジェイコブというらしい。
今度はアベルが自己紹介を始めた。
「教会より派遣されました、僕の名前はアベル・テンペスターです。
隣に居るのが兄のカイン・テンペスターです、ヨロシクお願いします」
「兄弟だったのか?
ところで教会から派遣されたのは君たちだけなのか?」
屋敷の主であるジェイコブは不満そうに言った。
アベルは若い自分たちだけでは不信感があるのは仕方ないかと、教会の人手不足などを丁寧に説明しようとしたが兄であるカインが先に口を開いた。
「仕事を任せるなら歳だけ取ってる無能よりも若い有能な方が良いとは思わねえのか?」
カインはつっけんどんに答えると懐から煙草を取り出して吸い出した。
「この屋敷では煙草は吸わないでくれ、健康に悪いのでな」
ジェイコブはカインの横柄な態度にご立腹した様子で注意した。
カインは馬鹿にしたような笑みを見せると口を開いた。
「こちとらこれから命懸けで戦うってのに、ご自分は老い先短い将来の心配ですか?
さすがお金持ちの依頼人様は人間が出来ていらっしゃる。
金が物言う世の中じゃ、クソッタレな教会が金儲けに走るのも当然のことですな」
カインの態度と言葉で怒りの沸点に達したのかジェイコブはテーブルを手で強く叩いた。
兄の困った態度にどう場を取り繕うかアベルは必死に頭を働かせている、カインが煙草を口から離して消す素振りを見せたのでアベルはホッと胸をなでおろした。
しかしカインは煙草をテーブルに押し付けて煙草の火を消した。
兄の常識外れの行動にアベルは卒倒しそうになった。
「俺はクソ悪魔が死ぬほどムカつくが、悪魔に願っといて今更命が惜しいなんて宣う人間もムカつくんだよ。」
カインはそう言うと席を立ち部屋から出ようとドアに向かった。
「俺たちが気に入らないなら教会に言って別の奴を派遣してもらうんだな。
教会から新しい奴が来る頃にはアンタは悪魔に魂を奪われた後だろうがな」
そう言い残してカインは部屋から出て行ってしまった。
アベルは慌てて兄の煙草の吸殻を自分のポケットに入れた、テーブルに押し付けられた煙草の焦げ跡を自らの服で必死に擦りキレイにしようとしたが無駄であった。
「兄が大変失礼を致しました。スイマセン」
アベルはジェイコブにペコペコと頭を下げた。
「兄は悪魔を憎んでいるんです、僕たちの両親は悪魔に殺されましたので。
兄は悪魔だけでなく、悪魔と契約を交わした人間も憎んでいるのであのような態度に」
「君たちみたいな若い子がこんな仕事をしているのは勿論理由があるのだろう。
私も少し大人気なかった、しかし私は今死ぬわけにはいかないんだ」
アベルの話を聞きジェイコブも思うところがあったのかもう怒ってはいなかった。