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嘉暦4年、元徳元年(1329年)疫病「咳逆疫(しはぶきやみ)」の大流行と大塔宮との再会

 年が開けて嘉暦4年元徳元年(1329年)になった。


 そして、今年に入って咳が止まらず高熱によって人が次々に倒れる、疫病の咳逆疫(しはぶきやみ)が畿内では広がっていた。


 これは現代で言うインフルエンザだが、インフルエンザの死亡率は1割ぐらいと案外高い。


 そして感染速度が早いのがインフルエンザの怖いところだ。


 第一次世界大戦の時に流行したスペイン風邪と呼ばれるインフルエンザの大流行は感染者は全世界で約5億人以上、死者は1億人と呼ばれている。


 当時の世界人口は20億人ぐらいだと言われてるから全世界の四分の一がインフルエンザに掛かりその五分の一が死んだということになる。


 インフルエンザは咳やくしゃみなどによる飛沫感染によって広まるので、俺は俺の影響が及ぶ河内、摂津、和泉、紀伊、伊勢、伊賀、志摩、尾張及び壱岐と対馬の住民には可能な限り四角い麻の布を2つに折って三角にしたものを口元に当て頭の後ろで結ばせ、簡単なマスクとしてくしゃみや咳をしても唾液が飛散しないようにさせた。


 熱が出てしまったものは、水で濡らした布を固く絞って額や首の付根、脇などを冷やし脳炎になるのを防ぎつつ、梅干しを黒く焼いたのものや、びわの種を粉にしたもの、ハチミツに大根をつけたものなどを与えて対処した。


 コレにより全てのものが助かったわけではないが、少なくとも俺の統治領域の感染者および死者はかなり抑えられた。


「やはり、お前さんは多聞天の生まれ変わりなんかな」


 神宮寺が俺を見ていった。


「いや、学問の賜物さ。

 知識というのは馬鹿にできない」


「まあ、たしかにな」


 この疫病の流行により元号が改元され元徳元年となった。


 そして天台座主を引いた大塔宮が赤坂村にやってきた。


 万里小路藤房と北畠具行も一緒だ。


 もう一人見知らぬ者が居た。


「この者は赤松則祐という。

 播磨の赤松円心の息子だ」


「紹介にあずかりました赤松則祐です。

 以後お見知り置きください」


「楠木正成だ。

 こちらこそよろしく頼む」


 大塔宮の紹介にその若い僧姿の男が頭を下げた。


 俺達は俺の屋敷に移動した。


「久方ぶりだな、この屋敷もだいぶ賑やかになったようだ」


「我が子が生まれましたので、子供というものは家を賑やかにするものでございますよ」


「そうか、其れはめでたい。

 ところでだ……」


 大塔宮が声を潜めた。


「私は私直属の軍を組織したい。

 そのためにお前の力を借りたいのだ。

 幕府に使えた御家人でもなく、文観の真言密教立川流によって狂わされたものたちでもなく、民に近いそなたであれば民のために戦う軍ができるであろう」


「無理ですな」


「なんだと?」


「私には権威の元になる血がございません。

 であれば私に従うものはさほどおりませぬでしょう」


「ならばどうすればよいというのだ」


「宮自らが先頭に立ち、宮自らが戦うものに生きる手立てを与えることです。

 帝やその側近は誰かがなんとかしてくれるのを待っているだけです。

 没落して北条に恨みを持つ源氏が北条を倒してくれればいいと。

 それでは北条に成り代わり源氏がまた武家の中心となるだけでしょう。

 そうさせたくなければ宮様、あなたとともに悪党や公卿が武士と戦うところを民衆に見せねばなりません。

 平和をもたらせるだけの力と権威を朝廷が持っていると思えば民は従うでしょう。

ですが、其れだけでは足りません。

 生きていくために必要な土地なり銭なりを与えることができますか」


「朝廷に即座に与えられる土地はない……。

 銭もない、それらは武士どもがおさえているからな」


「利益がなければ人は動きません。

 空の手形など絵に描いた餅です」


「しかし、無い袖は振れぬぞ」


「では、どうにもなりませぬな。

 夢や霞では人は生きていけません」


「本当にどうにもならぬのか?」


「銭の道を保証することで武装商人を味方に引き入れることはできましような。

 鎌倉幕府は商人を公には認めていないですから。

 陸運、水運、海運といった交易の保護を帝が積極的になされれば武装商人はその傘下に入りましょう」


「それで鎌倉を倒せるほどの兵が集まると思うか?」


「難しいかもしれませんな。

 私がかき集めることができる兵は1万というところでしょう」


「たったの其れだけなのか?」


「たったのと言われましても、1万はかなりの大軍ですがね」


 俺は治水や開墾をひたすら続けることで、二十万石近い収穫は確保できるようになった。


 これでかき集めることができる兵数は1万程度で本来なら十分な大兵力だ。


 無論壱岐や対馬の水軍兵力は含めていないがな。


「しかし六波羅は4万ほどの兵力を持っているであろう。

 どうにかならんのか?」


「私だけでなく各地の武装商人にも声をかけることです。

 最も播磨の赤松円心殿にはもう声をかけているかもしれませんが」


「うむ、赤松円心は協力してくれそうだがな……。

 もし他の者が誰も協力しようとしなかったらばどうするべきであろう」


「その時は私が率先して幕府の軍を食い止めましょう。

 幕府の軍が弱いとみなせば蜂起するものも増えるかと」


「そういうものであるか」


「そういうものです大塔宮」


「うむ、なかなか有益な話ができたと思うぞ」


「いえ、しかし、文観らを倒すほうが先かもしれぬとも思いますが……」


 俺の言葉に大塔宮が眉をしかめた。


「其れは難しい、文観は宮中の帝のそばにいることが多いからな」


「まあ、そうではありましょうな」


 やはり流罪とされた後に対処するしかないだろう。

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