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なるべく、一区切りつくところまで、一度に投稿していきます。
ユーリシエルの明るい未来へ向けて、サクサク進めます!
そっと辺りを伺うが、池からははしゃぐ声が聞こえて来るものの、誰もユーリシエルには気付いていないようだ。
何かに引き寄せられるように、通廊から一歩踏み出したユーリシエルは、一番手近にあった服を鷲摑みにし、そのまま緩い衣装の下へと隠し入れた。
喉が干上がりそうな緊張感に、足が震える。
だが、立ち止まっていては不審に思われると、ユーリシエルは急いで通廊へ戻り、厨房のある方角へ向かった。
いい匂いが漂う辺りは人通りが多く、ユーリシエルを見ると皆慌てて深々と頭を下げる。
何気ない風を装ってその一角を通り過ぎると、食材を搬入している裏口へと回る。
すぐ近くに、厨房で使うための薪をしまってある小屋があった。子供の頃、厳しい乳母に叱られたとき、いつもユーリシエルが隠れていた小屋だ。
辺りを伺ったユーリシエルは、素早く中へ入ると、天井近くまで積まれた薪の山の一番奥へ、盗んで来た服を隠した。
いつか抜け出せるかもしれないし、駄目かもしれない。でも、そこにあるというだけで、希望が持てる。ほんの少しの希望。それがあるだけで、逃げ場があると思える。
あり得ない未来を夢見るための、ちょっとした小道具だ。
心臓が口から飛び出しそうなほど激しく脈打つのを感じながら、ユーリシエルは小屋を出て、いつもの散歩道である庭園へと回った。
王女様が、お忍びで出かけ、その先で出会った若者と恋に落ちるというのは、よくある御伽噺だ。
でも、よくあるということは、実際にあったのかもしれないという仮定が成り立つのではないか。
人は、それほど奇想天外なことを容易に思いつくわけではないし、この世には大小さまざまな国に、大勢のお姫様たちがいるのだから、その中の一人や二人が脱走するなんてこともあり得るだろう。
ユーリシエルの書斎に並んだ異国の書物には、剣を取って敵と戦った勇敢な王女様なんていう話もあるくらいだ。
もしも逃げ出せたなら、どこへ行こうか。
ユーリシエルは、数々の書物で得た知識を総動員して、大陸の北にあるシアン王国や、南の密林に住む謎の部族、西のクフェル帝国や東のラーゼル王国など、アリアバードよりも豊かで、文明も進んだ国のことを思う。
大きな城や、人で溢れかえる賑やかな都。飛び交う色んな国の言葉。アリアバードにはない、季節で色を変える葉を持つ木々や豊かに流れる大河、その先にある海。鳥が無数に羽ばたく広い空に、小動物の走り回る緑の丘。
脳裏に思い描いた美しい風景にうっとりしながら、様々な形に刈り込んだ潅木が迷路の
ように立ち並ぶ庭を歩いていたユーリシエルは、前方から人の話し声が聞こえることに気
付いた。
「……嫌なの…」
「……どうか、お聞き分け下さい」
「嫌よ! だって、もう、一緒にいられない!」
「そんなことはありません。自分は、ずっとお傍にお仕えします。異国に独りきりになどさせません」
「でもっ……」
声は男女のものだ。
茂みに身を寄せ、そっとその先を覗いたユーリシエルは、そこに驚きの光景を見た。
美しい緋色のゆったりとした衣装は金糸の刺繍が豪華なもので、お揃いのヴェールの奥に見えた顔は、すぐ上の姉である第十王女のファティマのものだ。
そして、ファティマと身を寄せるようにして向き合っているのは、真っ白な近衛兵の制服を着た青年。
寸分の狂いもなく引かれた真っ直ぐな眉と、柔らかな印象のある優しげな目元、いつも微笑みの形を称える唇が、絶妙なバランスで配置され、王宮一美しい近衛兵という名をほしいままにしているその人物は、ユーリシエルも良く知っているイスファールだった。
イスファールは、ユーリシエルの乳母だったルゼの息子で、ユーリシエルにとっては幼馴染であり、心を開いて話せる唯一の相手でもある。
ユーリシエルは落ち着きかけた心臓が再び激しく脈打ち始めるの感じつつ、聞き耳を立てた。
「ラーゼルは、豊かな国です。きっと、ファティマ様もお気に召すはず」
「ラーゼルって東の端でしょう? いつも戦ってばかりの、野蛮な人たちだって聞いているわ。恐い……」
「大丈夫ですよ。カーライル王子は、とても優しいお方だという話です。ファティマ様のことも大切にしてくれます」
どうやら、ファティマは結婚話が持ち上がっている、現在アンセイブル大陸の三強と評される東の大国、ラーゼルへの訪問を嫌がっているようだ。
ユーリシエルとは数ヶ月違いの生まれであるファティマにも、縁談がひっきりなしに持ち込まれていることは、時折耳にする侍女らの噂話で知っていた。
だが、その相手は大きく違う。
ユーリシエルの相手は、国内の部族であるのに対し、ファティマの相手は、外交上の取引が絡んだ他国の王子や有力貴族などが殆どだ。
いくら貴重で美しい石があっても、石で空腹を満たすことは出来ない。それを他国に売り、代わりに食料など、自国では贖えないものを輸入することでアリアバードという国は成り立っていた。
ラーゼルは、貿易上の得意先の一つであり、その繋がりを強固にすることによって齎されるであろう様々な恩恵を考えれば、例え、馬で旅してひと月以上もかかる遠い地であっても、娘一人差し出すくらい安いものだと、父王のアジディールは思っているに違いない。
それにしても羨ましいと、ユーリシエルはつい最近、まさにそのラーゼルからやって来た商人に譲り受けて読んだ本のことを思い出す。
サイレルというラーゼルの誇る高名な学者が書いたという本は、『神は万能か』というお堅い題名にそぐわぬ美しい御伽噺だったが、その内容はむしろ歴史書と言ってもいい程、しっかりとした史実に基づいていた。
古い部族の生き残りである王女フィオリーナが、ラーゼルの騎士キースランドと共に、女神の力を借りて邪悪な闇の神を倒すという、大筋はまったくの御伽噺だが、物語の背景に描かれたラーゼル王国の成り立ちや、今現在の大陸の勢力図などは現実に則している。
御伽噺は、二年前に起きたラーゼル王国とクフェル帝国との大戦を基にしており、作中では、大戦と前後して起きた天変地異で大地が裂け、多くの森が燃え、川が干上がり、肥沃な大地が荒地と化したことを闇の神の仕業としていた。
ユーリシエルに本を譲ってくれた商人が言うには、多くの人が困窮した大災害は、そのまま大国ラーゼルも滅亡への一途を辿るかと思われるほどだったが、現ラーゼル国王ウィルランドは、大陸中の英知をかき集め、たった二年で、どうにかその被害から国土を回復させる道筋をつけた。
他国との争いが昔から絶えないラーゼルは、敵国のものであっても、良いと思われるものであれば進んでその文化や習慣、技術を取り入れる風潮があるので、他国の知恵を借りることを国王自ら厭わないのだとか。
古き伝統を重んじる国々からは、節操がないといわれることも多いのだろうが、その柔軟さが絶えず国を発展させている要因の一つであるのは間違いなく、古き伝統にしがみ付き、かろうじて保たれているに過ぎない安寧に縋る自国を思うと、ユーリシエルにはため息しか出ない。
ラーゼルも、もちろん王を戴く国であり、特権を有する者とそうでないものという身分の差はあるが、大小多くの国を支配し、取り込んできた歴史から、種族による差別はなく、様々な容姿の人々が雑多に混じって暮らしているという。
きっと、ユーリシエルのような髪の色も、瞳の色も珍しくないことだろう。
もしも、自分がラーゼルの王子と結婚するならば……。
そんなことを思いかけ、ユーリシエルは首を振った。
あり得ない夢を見るのは、現実を辛くさせるだけだ。
「きっと、幸せになれるはずです」
イスファールは、ファティマの訴えを単なる子供の我侭だとでも言うように、優しい笑みを浮かべて宥めた。
「私はっ……私が結婚したいのはっ……」
ファティマは、顔を真っ赤にして何かを言いかけたが、イスファールが強い口調でそれを遮った。
「ファティマ様」
ファティマは、大きな黒い瞳に涙を溜めてイスファールを見上げている。
イスファールは、何かを堪えるようにぐっと唇を引き結んでいる。
見つめ合う二人の距離が消えてしまいそうな気配に、ユーリシエルは慌てふためき、身を翻した。
アリアバードでは、未婚の男女が人目に付かない場所で会っているなど、一大事だ。
しかも、それが王宮の警護を任務とする近衛兵と輿入れ間近の王女ともなれば、ただの密会では済まされない。
何も見なかったと、自身に言い聞かせながら、小走りに庭を後にしようとしたユーリシエルは、突然潅木の陰から現れた人物と思い切りぶつかった。
「きゃっ!」
ぶつかった相手は、よろめいたユーリシエルの腕を取って支えてくれたが、微かな舌打ちの音が聞こえた。
「こんなところで、何をしておいでです? ユーリシエル様」
丁寧な口調ではあるが、敬う気持ちなど欠片も感じられない冷たい声音に、ユーリシエルは顔を確かめる前に相手を知る。
イスファールと同じ近衛兵の一人、シンラッドだった。
艶やかな黒髪と漆黒の闇と称えられる黒い瞳、引き締まった肉体と同じく、精悍さ溢れる顔立ちは、侍女たちの憧れの的であり、イスファールと人気を二分する存在だが、その中身は正反対だとユーリシエルは知っていた。
「散歩をしていたのです。あなたこそ、何をしているのです?」
嫌いだという感情も露に、つんとして言い返したユーリシエルに、シンラッドも冷笑を返す。
「私も、散歩という名の見回りの最中です。イスファールが度々、この庭で高貴な身分の誰かと密会しているという噂を聞きまして」
ユーリシエルは、心臓が口から飛び出るのではないかと思う程驚いた。
今、あの二人が見つかったらとんでもないことになる。国王アジディールの耳に入れば、イスファールは国を追われるか、最悪の場合、処刑されかねないと思うと、冷や汗が背筋を流れ落ちた。
「その誰かというのが、大した縁談も持ち上がらぬあなたであれば何の問題もないのですが、他の王女様であれば大変なことになる」
シンラッドの皮肉は、ユーリシエルならばどんな噂が立とうとも構わないということを遠まわしに言ったものだが、怒りを覚えるよりも、なんとかシンラッドをこの場から引き離したいと、必死で頭を巡らせる。
「ただの噂でしょう? イスファールは、あなたと違ってとても忙しいのですから」
単なる噂をいちいち確かめるほど暇なのかと、嫌味を込めた満面の笑みで言い返すと、シンラッドは鼻で笑った。
「イスファールは、要領がいいんですよ。面倒なことは人任せで、自分は楽をしているだけだ。誰に対してもいい顔をするが、その実誰に対しても優しくなどない。あなたに対して優しい顔を見せるのは、単にあなたを哀れんでいる自分が、他人の目にどう映るか十分計算してのことです」
そのあまりにも穿った見方に、ユーリシエルは呆れた。
「そうかもしれないわね。でも、私と目を合わせて話す勇気があるだけでも、あなたとは大違いです」
ユーリシエルは、冷たい言葉を吐き捨てながらも、決して長い時間目を合わせようとしないシンラッドに嘲笑を浴びせた。
「……なにっ!」
むっとした様子で唸ったシンラッドは、ユーリシエルを真っ向から睨みつけた。
今更、目を逸らす必要などなくなったとでも言うのか、じっと見つめてくる。
まるで、ユーリシエルという入れ物の奥底にある何かを見出すかのように。
あまりに強い意思を感じるその瞳に、ユーリシエルが怯えかけたとき、背後から良く知った声が聞こえた。
「そんなところで何をしているのですか? ユーリシエル様」
ユーリシエルは身を翻し、今まさに自分が救おうと必死になっていた相手の傍へと駆け寄った。
「イスファール!」
「シンラッド。おまえ、ユーリシエル様に何をしたっ!?」
イスファールは、今にも剣を抜きそうな勢いで怒鳴りつける。
「……何もしていない」
憮然として言い返したシンラッドに、イスファールは詰め寄る。
「また、ユーリシエル様を傷つけるようなことをしたのだろう。いい加減にしないかっ! くだらぬ迷信に惑わされて、つまらぬことをするなっ!」
「何もしていないと言っているだろう? 貴様こそ、こんなところで何をしている? 近衛が王女に手を付けるなど、許されざる重罪だぞ」
「侍女たちのくだらぬ噂をまともに信じる方がどうかしている」
「そうよ。イスファールはあなたと違うのです、シンラッド。私に対しても礼儀正しく紳士的に振舞ってくれます。あなたのように、無理矢理私をどうこうしようなどとは、少しも思わない」
「なっ!」
ユーリシエルが口にした嘘に、さすがのシンラッドも顔を赤くして怒鳴り返そうとしたが、その鼻先にイスファールが抜き放った剣を突きつけた。
「一度は見逃してやる。二度と、ユーリシエル様に近づくな」
シンラッドの黒い瞳が、ユーリシエルを真っ向から睨みつける。
呪われるという恐れより、怒りの方が大きいらしい。無視され、遠ざけられるくらいなら、いっそ憎まれてでも真正面から向き合える方がマシだと、ユーリシエルは思い切り舌を出した。
シンラッドはますます顔を赤くしたが、何を言っても言い訳にしか聞こえないと分かっていたのだろう。黙ってそのまま背を向けた。
荒々しい足取りであっという間に姿を消したシンラッドを見送って、イスファールは大きなため息をつく。
「シンラッドは、根に持つ奴です。後で大変なことになったらどうするんです?」
ユーリシエルがシンラッドをハメるような真似をしたことは分かっていると、イスファールは顔をしかめて叱りつけた。
「別に、どうってことないわ。呪いが恐くて私と目も合わせられない臆病者なんだから」
ユーリシエルが、恐れるに値しないと笑い飛ばすと、イスファールはもう一度ため息をついた。
「……分かっていないですね」
「何よ。イスファールを助けてあげたのに」
ファティマとの密会を見つかったら大変なことになるだろうと暗に匂わせたユーリシエルに、イスファールは目を見開いた。
だが、イスファールはファティマとの関係を言い訳する代わりに、ユーリシエルの行動を咎めた。
「覗き見などしている暇があるので? 見合いの準備で忙しいはずでは?」
「……」
無言で俯くユーリシエルにイスファールはため息をつく。
「持ち込まれる縁談を片っ端から断っていたら、その内最悪の相手と結婚させられますよ? 次こそはと思っていると、どんどん相手の条件が引き下げられる」
いつも礼儀正しく優しいと評判であるイスファールは、幼馴染であるユーリシエルには遠慮のない物言いと態度で接する。
端から見れば、王女に対するにしては、あまりにも無礼だと思われるだろうが、ユーリシエルはそんな風に接してくれるイスファールが大好きだった。王宮内で、何の恐れも蔑みも抱かずに、自分と眼を合わせて話してくれる人は、ルゼが昨年亡くなって以来、イスファールしかいなくなってしまったから。
でも、先ほど眼にした光景は、そのイスファールが既にユーリシエルだけのものではないという証拠だ。もう、自分のことだけを考え、心を痛めてくれる人はいないのだと思うと、酷く投げやりな気分になる。
「別に、誰と結婚しようと同じでしょう? 子供を産めば用済みなんだから。ああ、でも、私のような子供が生まれたら困るから、そういうこともしなくて済むかもしれないわね。どこかの地下牢に閉じ込められるか、あっさり殺されて埋められたりしても不思議はないわ」
幸せになるどころか、不幸になることが約束されているのに、張り切って見合いの準備など出来るわけがないと冷笑したユーリシエルに、イスファールは表情を固くする。
「愛されないとは、限らないでしょう? ユーリシエル様が心を開いて接すれば、相手だって同じように接してくれるかもしれない。ご自身が嫌っている髪の色だって、美しいと言ってくれる人がいるかもしれない」
ユーリシエルの髪を美しいと言ってくれたのは、乳母のルゼとイスファールだけだ。
でも、イスファールがいなくなったら、もう誰も自分の髪を美しいなどと言ってくれないだろう。そう思うと、ユーリシエルはたまらなく寂しくなったが、涙が滲まないようにと大きく眼を見開いて、イスファールを見つめた。
ユーリシエルは、人前であれ独りのときであれ、泣くのが嫌いだった。泣いても何も解決しないのだから、無駄な行為だと思っていた。
「そうかもね。ところでイスファール。ファティマ姉さまとラーゼルに行くの?」
イスファールは頷くと、ユーリシエルに前もって話すことが出来なかったことを詫びた。
「ファティマ様の縁談が決まったのは急なことだったので、ユーリシエル様にお話出来なかったのですが……もしもあちらの王子がファティマ様を気に入られて、婚姻という運びになれば、そのままラーゼルに残ることになります。ラーゼルの王家では、他国との婚姻も多いため、嫁ぐ側で身の回りの世話をする侍女と侍従、そして護衛を付けることが認められているものですから」
ユーリシエルは、自分とファティマの違いを思い知り、唇を噛み締めた。
護衛付きで、多くの侍女や侍従を従え、持参金を持ってラーゼルへ向かうファティマに対し、自分には侍女の一人でも連れて行くことが許されるかどうか、分からない。第一、許されていたとしても、こんな色付きの王女と一緒に行きたいと言ってくれる者はいないかもしれない。
唇を噛み締めて俯いたユーリシエルに、イスファールは穏やかな声で言い聞かせるように囁く。
「大丈夫ですよ、ユーリシエル様。きっと、あなたを大切に思ってくれる人が現れます。最初は理解し合えなくとも、時が経てば互いを大切に思うようになれるかもしれない。だから、そう悲観なさらないで下さい」
そんな都合のいい話がそうそうあるとは思えない。ユーリシエルは首を振り、そのままイスファールに背を向けた。
「元気でね。ラーゼルに行くなら、ちゃんと言葉を勉強しておかないと、向こうの行政官たちにやり込められるわよ? あちらの国は、こことは違って学問が盛んだから」
ユーリシエルは、イスファールの返事を待たずに、逃げるように歩み去る。
そうしないと、今にも泣き出してしまいそうだった。
いつか、この王宮を出て、世界中を旅してみたいと思っていた。自分らしく生きられる場所を見つけ、自由に生きて、自由に恋をしてみたいと夢見ていた。
王宮に出入りする異国の商人たちを、イスファールに無理を言って捕まえてもらっては、自室へ呼びつけ、他愛のないお喋りをして、色んな国の言葉を覚えた。
異国の人々は、色付きであることへの偏見もないため、ユーリシエルを見ても驚かず、丁重に扱ってくれたし、興味深い話をたくさん聞かせてくれた。
そんな風にして、今では、ユーリシエルはこの大陸で話されている言語の殆どをある程度理解し、話せるようになったけれど、結局王宮という鳥籠の中で許された自由は、想像という翼で羽ばたくことだけだ。
諦めの滲んだため息を吐き、顔を上げたユーリシエルは、見上げた空に舞う白い鳥を見つめ、決して叶えられることのない望みを呟いた。
「鳥になれたらいいのに……」
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。
気長にゆるりと楽しんでいただければ幸いです。