第81話 夜中の散歩 セカンド
この「夜中の散歩」って結構出てくるかも。
「・・・また目がさえたな」
宿の1階の部屋で俺は眠れなかった。
鬼神のこの体は神々特製のせいかは知らないが、眠らなくてもあんまり支障がないようである。だが、人間の3大欲求の一つの睡眠欲はこの体になってもある。
「体は鬼神でも、心は人間のままか・・・・」
まあ、転生したといっても自分は自分。変わりようがないんだよな・・・。
とりあえず目がさえているのでしばし外を散歩しようかと思った。
ルーン姫の護衛のために、宿でも交代で見張りをしている人に伝えて外に出て歩いた。
一応そこまで宿から離れるつもりはないので、この街中をぐるっと1周程度回るだけに衣装と考えてはいるがな。
真夜中に出あるくと、夜風が心地よかった。この世界の空気は汚れていないみたいだからな。
空もきれいで、今日は満月らしく月明りがはっきりとしていて歩きやすい。
そのまま歩いていると、人影が見えた。
「ん?」
よく見ると・・・・
「ルーン姫?」
「わっ!?・・・ラルっちか」
「あれ?宿の2階で寝ているのでは?」
宿の入り口、裏口、階段に確か護衛たちが見張っていたはず。
「ああ、騎士たちにこっそり外を散歩するっていったのさ。あたしが強いことはみんな知っているからね」
おい護衛の騎士たちよ、それって職務放棄じゃないのか?見張りの意味あった?
「こうして外をたまに散歩するのが趣味なんだが・・・・ラルっちもかい?」
「いや、単に目がさえてしまって」
ついでなので一緒に散歩することになった。まあ、この姫様に手を出そうなんてするやつはいないと思うが。だって、ガントレットしっかり装備しているもん。手を出したらこれで殴られるのに決まっているだろ。
まあ、特に会話もなく歩いていたが、唐突にルーン姫がきいてきた。
「ねえ、ラルっちに聞くけどさ、何で旅をしているんだ?」
「・・・まあ、旅がしたかったからかな。こうして自由に旅をして世界を見て回る。それが夢でもあったからね」
嘘ではない。前世では自由がほとんどなかったからな。こうして自由に動けるのがホントに素晴らしい。
「その割にはかわいい子たちを引き連れているよね・・」
「成り行きというか、なんというか・・・」
ソティス達も旅の途中で仲間になっていったからな。・・・しかし、このメンバーよく考えたら女子率高いな。男、俺だけじゃん・・・・。風呂入るとき一人なんだよね・・・。
「で、彼女たちの事をラルっちはどう思っているわけ?」
何やら興味津々でルーン姫が聞いてくるな。
「大切な旅仲間かな。旅の途中に出会い、仲間になっていったからね」
「恋人とか、愛人とかじゃないんだ」
「なぜにその発想が出るんだよ・・・誰とも付き合ってもいないし、健全だぞ」
「ほうほう、ソティスっちたちの道のりはまだ遠いか・・・・」
「なにかいった?」
「いえいえ、気にしないでくれよ」
今何かつぶやいたよな。ま、いっか。
「ラルっちばっかに質問も悪いしなー、あたしにも聞いていいよ?」
歩きながら言ってくるが・・・質問か・・・。
「ルーン姫ってなんでそんなに強いんだ?」
「・・・あたしはね、強くなりたいと思ったからだよ」
「強くなりたい?」
「昔から王女としての暮らしが窮屈でさ、よく抜け出して城下町を探検していたんだよ」
そのころからおてんばだったんですか。
「で、その時に友人がいてね、仲良かったのよ。でも、ある時友人の家にいたときにね、強盗に襲われたの」
この世界にも強盗があったんだな・・・山賊もいたから当たり前か。
「その時にね、あたしが城から抜け出していることに気が付いていた護衛の人が助けてくれたおかげで助かったんだけどね、その強盗はどうやらただの強盗じゃなかったようなの」
調べてみると、ある貴族がルーン姫をどさくさに紛れて殺そうとして雇ったごろつきだったらしい。
「その強盗を雇った貴族はすぐにわかって、その貴族家は貴族籍剥奪。何で殺そうとしたかについては、お父さん・・・国王にその貴族は反発していたようでね、ばれないようにあたしを殺してお父さんに心的ダメージを与えるつもりだったらしいの。あたしは助かったけど、その時のどさくさで友人がケガしちゃって・・・それで友人を守れるぐらい強くなろうって思って、今に至るの」
「かなり省きましたね」
何をどうしてそこまで強くなったんだろう。
「ま、あたしの昔話はこれぐらいかな。本当はめったに話さないけど、ラルっちなら話してもいいなと思ってね」
「その友人のために強くなったんだね。優しいじゃん」
「・・・!?ま、まあな!友人を守れるぐらいの目標から、自分が守りたいものを守れるようにと変えているけどね!」
なぜかルーン姫が顔を真っ赤にして言った。
と、そこでふと疑問がわいた。
「そういえば、その友人は今は何をしているんだ?」
「今?メイドとして城で働いているよ。そこで働いた方が給料がいいからね。今も昔のようによく話あっているんだ」
今も昔も変わらない友情か・・・・。
「まあ、途中で戦いが楽しいと思い始めているんだけどね。戦闘の時にあたし自身がいるという感覚があるというか」
そして立派な戦闘狂になってしまったと・・・。
しばらく歩くと、ちょうど一周できたようで宿が見えてきた。
「お、もう宿が見えてきた」
「なかなか話すのが楽しかったよ。また話し合えたら今度はあたしと拳で語ろう」
「それってまた模擬戦やれと・・・」
「そうだけど?」
まあ、宿に戻って布団に入るとそのまま眠りに俺はついたのであった・・・・。
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「ふう、何でつい昔話をしちゃったんだろうか」
二階に戻り、自分の布団の中でルーン姫は思った。
ついラルに質問し、そのうえ自分の過去について話した。なんか気を許せた・・・そんな感じだった。
美人ともいえるソティスたちと一緒に旅しながらも、誰一人手を付けない誠実さ、自分よりも強い力。そして・・・
『その友人のために強くなったんだね。優しいじゃん』
「ふ、ふぁぁぁぁぁぁ!」
ついそのラルの言葉を思い出し、なぜか顔が赤くなったのであった・・・・。
天然ジゴロ・・・・




