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感染

作者: 宇梶 純生

第一章 《天才奇女》


『退屈は嫌いよ』


死んでしまえ




『元気なの?』


糞塗れだ



腐敗臭でも

嗅ぎたいのか




『またアタシと遊んでよ』


糞垂れて

寝ろ




『貴方の為に何かしたいのだけど』


お前の為だろ




『貴方の元気がないのは哀しいの』


知るかよ




『元気に病んでる貴方が好き』


膿んでる奴が

ほざくな




『死ぬのが嫌いなの』


死に嫌いは

よくない


とりあえず

死んでみろ




『貴方の生きた文章が見たい』


俺が死ねってか




『そして戦いたい』


戦闘不能





『死を口にしてよいほど生きてない』



つまらん生き方だ





『だから貴方の死も決して口にしない』




魅了

活力源


結論

結果

結末


終焉






くだらん

糞野郎






第二章 《クルクルパー》



クルクルパーを

拾った



苦悩が

降り被る




天井を眺め

枕に散乱する

煙草の灰




さて

クルクルパーを

何処に捨てに行こう




小さな胸を

隠しもせず



スエットから

引き抜いた紐で

綾取りをしている

クルクルパー





「帰れよ」



「何処に?」






  秒殺






後悔の念



俺は何を

血迷っていたのだろう




最後に飲んだ酒が

悪かった




あの酒だけは

禁酒にしよう



結構イケる酒だったが

仕方ない





しかし

何処で拾ったんだろ




こんな

曖昧な記憶で




人生を棒に振るのは

納得いかない




クルクルパーを

処分しなければ




出来れば

焼却したい気分だ





何処か遠くへ連れ出して

置いてくるか



とりあえず

何処かの海にでも

放置しとけば



そのうち

誰かが

拾うだろ




「ドライブ行かないか?」


「車 嫌~い」




  撃沈




飯でも食わせて

店に置いて帰るか



小遣いを

くれてやってもいい




二万




いや…5千円で

十分だろ




「飯食い行くぞ」


「裸のまま?」




クルクルパー

何を言ってるんだ



服を着ればいいだろ




何故に

服がないんだ



窓の外にも

落ちてない



ゴミ箱にも

ない



クローゼットの中

空にする手品でも

あるのか




「何処隠した」


「あっち」




嫌な予感は

的中しない事を

願う




浴槽の中

瞬間移動した服が

溺れている



ご丁寧な

泡風呂



会社に着て行く

スーツまで



いや…正確には

皮靴まで



プカプカと暢気に浮かぶ

クルクルパーの下着



「ざけんな!」



浴室のタイルに

投げつけたパーの下着が

ぺチャンと音を鳴らし



愉快気に滑り落ちた





乾燥機を

買うべきだった



ぶら提げたスーツが

滴る水で床を濡らし



ガゴンガゴンと

脱水機が唸り



「ねぇ」



クルクルパーの存在は

無視するに限る



「ねぇってばぁ」


「うるせぇ…」



窓枠から身を乗り出し

洗濯物を干してやがる




乳丸出しで




俊足で飛び掛り

乳鷲掴み

窓から排除



「殺すぞ」


「怖~い」





しかし

いい形してやがる



違う違う違う!






ま…ついでに

揉んでおこう





クルクルパーのくせに

感度は最高



曲者だけはある




「ねぇお腹すいたよ」


「ん」


「何か食べようよ」


「ん」


「また やるの?」




聞き捨てならない



またとは

何度目の事を

言うんだ



…何回やったんだ俺は



記憶が定かでない




壁に寄りかかり

自業自得の不祥事に

頭を抱え座り込む




「服がねぇだろ」


「ピザ宅配しようよ」




四つん這いで

ピザ屋の広告を

探してやがる




「テレビ台の下だ」




桃尻突き上げ

腰を振る

クルクルパー




角度に合わせ

傾き掛ける




「ないよ」




そんな場所に

ある訳がない





渋々 立ち上がり

散乱した広告を

足で掻き回す



「ちゃんと探したのか?」


「探してるよ」



唇を尖らせ

床にペタンと座る

クルクルパーの

頭を鷲掴み



「フランクフルトでも食え」



不満気に下唇を突き出し



「ウィンナーじゃん」



丸飲みする




何気に品名を

変えやがったな





何やってんだ 俺




明日までに

乾く可能性は

果てしなくゼロだ




会社 休むか…


怒られんだろうな





面倒臭ぇし

この際

辞めちまうのも

悪くない





しかし

クルクルパー

何処で覚えたんだ

そのテクニック




クルクルパー感染




手遅れに

なりそうだ




セックス相性には

逆らえません







「お前 誰?」





~END~







第三章 《クルクルパー2》





調子が狂う



こんな筈では

なかった



どちらかと言えば

有能な社員だったはずだ




たった一日

会社を無断欠勤したばかりに

上司から拳で額を殴られ




落ち零れの烙印を

喰らう嵌めになった





恐るべし

クルクルパーウィルス





何故 俺が

クルクルパーの餌を

買わなくては ならないんだ




不覚




何故 俺の目に

部屋の中をうろつく

クリーニング仕上げの

ワイシャツを着ている

馬鹿が映っているんだ




錯覚




何処からか

妖怪の声が聞こえる

聴覚まで イカれたか





「おかえり~」


「死ね!」





320円の海苔弁が

宙を舞った





レジ袋から飛び出し

裏返った弁当を拾い

戸惑いもなく差し出す

クルクルパー



「はい」


「俺が食うのか?」


「3秒以内だからセーフ」



裏返したまま

テーブルに弁当を置き

レジ袋に残った弁当の蓋を開け

眉を寄せるパー



「また海苔弁?」


「白飯にするぞ」


「海苔に隠れた昆布が嫌い」




おかずを蓋に移し

海苔を剥がすクルクルパー

白飯に敷き詰められた昆布を睨む



「お前のアソコと一緒だな」


「これ?」



ワイシャツの裾を捲り

下半身丸出し部分を覗き込む



「………最悪」


「こんなに濃くないよ」


「死ね!!」



艶々と黒光りした昆布を箸で掬い

クルクルパーの口の中に

詰め込んだ





手足をバタつかせ

もがきまくる

パーの頭と顎を鷲掴み




「飲み込め」




声にならない

呻き声が漏れ




クルクルパー

大股開きの抵抗

柔らかな腿を揺らし

膝蹴りが脇腹に

容赦なく喰い込む




「…飲み…込め…」


「……無…理ぃぃ」




両者引き分け





流し台に昆布を吐き

身を乗り出して

水道水を夢中で飲む

クルクルパー



尻を突き出す

爪先立ちの長い脚



脇腹を抱え

パーのワイシャツを

捲り上げた




「パンツ履け」


「洗濯物の中にないんだもん」






確か

下着らしき物体を

ゴミ箱に投げ捨てた

記憶がある





ま…この際

どうでもいい






相変わらず

感度だけはいい

クルクルパー



流し台についた

ワイシャツの袖口が

水浸しになる



小刻みな可愛い

喘ぎ声




「昆布 嫌~い」


「安心しろ 明日から

 インスタントラーメンしか

 食わせねぇ」






給料日まで

あと7日




残金7千円

一日千円七日間戦争勃発



煙草代差費引き



正確には

680円戦争






テーブルに置いた

残金7千円の前で

腕組をする俺




食い尽くした弁当箱を

ゴミ袋に捨てる

クルクルパー



「箸は捨てるな」


「なんでぇ」


「洗って使う」


「……貧乏臭」




細いクルクルパーの

首を鷲掴み

力づく左右に振る



「働きやがれ!」


「パンツないもん」





…仕方ない

百均一に行こう






黒いワンピース一枚

貧弱なボディーラインの

クルクルパー



こんな格好を

していたのか




夜道に咲く

一輪の雑草



小さなハート型の葉を

可愛く揺らす

ペンペン草



「スースーする」



サンダルを鳴らし

走り出す後ろ姿は






ただの

ノーパン女







夜間9時まで営業

スーパーマーケットに隣接する

大手百円均一店



歯ブラシやら

化粧水やら

細々しい物品を漁る

クルクルパー



数枚の下着を含め

合計金額が千円を越え



泣き泣き商品棚に

箸を返しにゆく






どうしても

アイスが食べたいと

悲願するパー




渋々 財布を渡すと

軽快な足取りで

隣接スーパーへ

吸い込まれて行った






百均の駐車場

金網フェンスと

コンクリート




煙草の吸殻二本と

ガス欠の使い捨てライター




くわえ煙草に

火花散るライターを

添える




煙草に火が灯る迄の

財布在処賭博



消音するネオン看板

蛍の光が微かに流れ



自動ドアから

クルクルパーと

棒付きアイスが

吐き出された




賭博勝利






クルクルパーから

財布を奪い取り

ホッとしたのも束の間



パーの片手に

意味不明の物体が

握り絞められている




「…おい」


「可愛くない?」




得意気に見せびらかす

カントリー柄の

青いフライパン



急遽 財布確認



結果 残金千円札一枚




「結構高いね フライパン」




財布を地面に叩きつけ

暴発寸前の遠吠えが

月夜に響く





「五千円使いやがるなら

 エロパンティーにしろ!」




崩壊





テーブルに並べた

捻り潰した煙草



楊枝に刺すシケモクを

吸いながら

小さく丸めたパンツを

パーの頭に投げ付けるたび



ポコンと跳ね返り

やる気なく転がってくる




「フライパンは凄いんだよ」


「あぁそう」


「何でも料理出来るんだから」




転がったパンツを拾い集め

パーの顔面に投げつけると

フライパンでガードする




「便利だね フライパン」




意気消失







点滅しているはずの

電話機が静止する




「留守電 聞いただろ」


「うん」




テープを巻き戻すパーが

再生ボタンを押す手を止め

パーを羽交い絞めにする




「…聞かないの?」


「ん」


「別れた彼女?」


「知らない女」




丸めたパンツを分解し

パーの頭に被せた



「玉子」


「あ?」


「目玉焼きが焼けるね」





「……朝昼抜きならな」




消沈







更に

こんな筈では

なかった



空腹による

脳停止



出世街道から

獣道に迷い込む





咳払いをする上司

背後から

ただならぬ憎悪が漂う




資料作成中の画面が

将棋盤に摩り替わっている




鈍い音が

フロアーに響き渡り

殴られた頭を抱え

デスクに捻じ伏せられた




詰めが甘い

詰め将棋




王手ではなく玉砕








白飯と白い玉子




白いワイシャツに

白パンツ




そして

青いフライパン




ガス台の前

仁王立ち

クルクルパー




得意気に振り返るパーが

満面の笑みで微笑んだ




「目玉焼きって どうやるの?」




倒れ込んだ掌から

丸めたパンツが

転がり落ちた




「返品してこい!」







やはり返却すべきだった

延滞料金が加算される前に




~END~










第四章 《さらばクルクルパー》





待ち侘びた

給料日



大盛つゆだく

牛丼ふたつ





帰宅した部屋




クルクルパーの

姿はなく




点滅する電話機の横に

丸めたパンツが

佇んでいた






再生ボタンを押す




感情のない

アナウンスが流れる




『メッセージは12件です』




ピー………






一件目



『退屈は嫌いよ』




消去




二件目



『元気なの?』



消去




三件目



『またアタシと遊んでよ』




消去




四件目



『貴方の為に何かしたいのだけど』



消去




五件目



『貴方の元気がないのは哀しいの』



消去




六件目



『元気に病んでる貴方が好き』




消去







…十一件目



『だから貴方の死も決して口にしない』




消去





十二件目




『深く共同作業できる作品をつくりたい

 あなたとならできると思う』





メッセージは以上です

もう一度聞く場合は

再生ボタンを押してください




ピー………





消去





誰もが羨む容姿端麗




詰め込まれた

偉人達の知識に

埋もれた脳




既製品




造形美術

造形芸術




真髄のない

マネキン人形



天才肌で偽造した

奇才域




異色の語源を

繋ぎ合わせても

色彩がない




無色透明

無味無臭




指先から

擦り抜ける髪




擬態化する




実感がない




体温を感じない




装飾する言葉に

籠められた

魂が霞む




言霊として

生きていない




刻み込まれた彫刻

打ち出された銅版

血濡れたの匂い




君なら書ける筈だ






アトリエに置かれた

石膏の銅像を

デッサンしても



意味はない




聖書に書かれた

聖人達を崇め




踊り子を演じ

娼婦を真似る

聖女




俺には

気高さだけが

鼻につく




貴賓だけが

浮き彫りになる





蝕んだ世界



地割れに挟まれ

切り刻まれる皮膚



嘲笑う巨神に

捻り潰される拳の中で



砕かれる骨と

破裂する内臓が奏でる

不屈な音を聴きながら



死と恐怖が

血飛沫となり

降り注ぐ



呻き声の

充満する俺の世界で




妖精のような

微笑を隠し

妖艶である君とは





同化出来そうにない






『深く共同作業できる作品をつくりたい』




君は俺を誤解している



君と共有出来る知識を

俺は持ち合わせていない




俺は

クルクルパーと

同じ人種だ




全身全霊

身を焦がしても

譲れないモノがある





答えは単純





生身のエロだ




官能を堪能する

エロスではなく




極有り触れた

何処にでも転がっている

単純な愛







脳を刺激する

艶やかな裸体で

感覚を麻痺するより




不自然なポーズで

濡れまくる

淫靡な窪みに

感染する




崖に咲く

幻の華より




道端で踏み潰された

雑草がいい




環境を整え

栽培の肥料を

与え続ける華より




泥水を吸い

貪欲な根を這わせ

僅かな陽射しを貪る

無欲の雑草に




惹かれる






高山に咲く

幻の華より




人通りの激しい

無限にある路肩に咲く

無数の雑草に紛れた




小さな草を

探し出す方が

大変なんだ





行く当てもなく

浮遊する

クルクルパー





もう二度と

俺の前で




ハート型の葉を

揺らす事は

ないだろう







無機質な通信機から

電磁波の風が吹く





君の声が

鋭利な刃先を

振り翳し




俺の部屋から

クルクルパーを

吹き飛ばして

しまった






さらば

クルクルパー




~END~





第五章 《糞》





獣道から

畜生道へ




上司の怒鳴り声が

脳天を突き抜ける




酷い二日酔い




有能な貢献者は

給料泥棒に化す




無能の証明






初めから

能力など

有りはしなかった






スーツを着飾り

モダンなネクタイを絞め

知的な眼鏡を掛ける



オーダーした皮靴を履き

ローンを組んだ

腕時計を嵌め




路上に立ち尽くす




グラマラスな女性達が

闊歩するビジネス街




硝子張りのビル




憧れていた

高級外車ショップの前で




名刺入れに隠す

銀行名が刻印された帯を

握り潰した







高望みから

覚醒すれば



高級外車ですら

鉄屑に見え



伝書鳩なみに

括りつけられた

発信機が鳴る




会社の部品

携帯電話




牛の耳に打ち込まれた

肉質を物語る

商品管理タグ




首から提げた

社員証ID




糞喰らえ







神経を破壊する




脅威な感染力




クルクルパーウィルス





禁断の酒を

解禁しても




浸透する菌は

増殖の勢いを増し




中毒になる




携帯電話の電池パックを外し

些細な抵抗に浸る




超ミニスカートの

女子高生




長い脚をO脚に

尻を突き出し

窓硝子にへばり付く



巻き髪の崩れた

茶色い髪を

紺色のブレザーに

靡かせ



「可愛い~」



何気なく耳に届いた

女子高生の声に誘われ

窓硝子を覗いた










小さな黒い子猫が

窓硝子越しに

女子高生の指先を

掻き毟る



何匹も重なる

黒猫の軍団



硝子ケースの中



一匹だけ

女子高生に尻を向け

店内を見ている黒猫



暢気な顔で

欠伸をする






クルクルパー

発見






店員がケースの鍵を開け

一斉に女子高生を裏切る

黒い軍団が愛嬌を振り撒く



「どの猫にしますか?」



我先にと

夢中で仲間を押し退ける猫達




逃げ遅れ

踏み潰される

愛嬌のない子猫が



不細工な顔で

仲間に猫パンチをする




「一番 不細工な奴」




店員に腹を持たれ

ジタバタする子猫



細く長い脚で

店員の腕を

蹴り上げていた





カウンターに置いた

契約書の紙の上を

うろうろと歩き回る



文字を書き込む

ボールペンに

纏わり付き



袖口のボタンに

噛り付く




猫を飼う為の

簡単なアドバイスを聞き

餌を購入




脇の下に

頭を突っ込む猫



軽く腕を締め上げると

ムキになって

後退りする猫が



コロンと仰向けに

転がった




クルクルパー猫




命名

『不細工ブー子』






俺の家に

帰ろう




青いフライパンに

敷き詰めた

パンティー




ブー子お気に入りの

寝床




確かに

便利なフライパンだ





重ねた雑誌を攀じ登り

小さな爪をシーツに引っ掛け

ベットの上に這い上がり




不細工な表情で

顔を顰める




「ミ~」




ご機嫌な鳴き声




「…ミーじゃねぇだろ」






糞垂れやがったな

こんちくしょう





~END~



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