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親友がTS娘になって、俺と結婚したいと言うが、断固断る  作者: コイル@オタク同僚発売中


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キス = 結婚?

 帰宅すると、奏は当然のように俺の部屋に入ってくる。

 嬉しい。

 しんどい。

 下半身がキツイ。

 でも手を出したら同居終了。

 それに人生も確変する。

 俺はそれに気が付いてしまった。


 先日みんなでパンを食べた時、華英は何かに気が付いたらしく、奏が席を外した時に俺を睨みながら言ったんだ。

「了太。視線がエロい」

 俺は動揺して、マグカップを落としそうになって、それをハセさんが止めた。

 俺の顔を覗き込むハセさんの表情は、優しかった。

 でも

「了太さん、奏さまを、お願いしますね」

 って微笑むんだ。

 結婚式に送り出す親の言葉かよ。



 結婚……?



 俺は鈍器で頭を殴られたような気分になった。

 そうだよな、奏に手を出したら、当然結婚まで視野に入る。

 俺、性欲制御しか考えて無かったよ。

 ずっとずっと小早川家なんて別の世界で当たり前だったから。

 ……奏と結婚?

 小早川家と結婚?

 財閥のニンゲンに、俺がなるの?

 あははは……ないないない。

 由貴子さんが見事に切り盛りしてくれるよ、小早川家を。

 すげー旦那捕まえてきて、バリバリ社長するよ、あのパワーで!

 ……結婚……? 


「いやいやいやいや、ないないないない……」

 俺は思い出して何度も首を振る。

 キスもしてないのに結婚なんて、考えすぎだ。

 先走りすぎ。

 ないないない。

「ゲームゲーム、久しぶりだな、ゲームするの。最近塾ばっかりだ」

 部屋着に着替えた奏は、俺の脳内戦争など興味なく、ゲーム機の電源を入れた。

 奏の部屋着は、ショートパンツにVネックのTシャツ。

 長い足を無防備に晒して、俺のベッドに横たわる。

「テレビの電源入れて?」

 転がったまま俺に言う。

「……自分でやれよ」

「了太もやるでしょ?」

「やるけども」

 コントローラー片手に、テレビの電源を入れる。

 長い足がパタンパタンと動いている。

 家でショートパンツとか、着なくてもよくないか?

 ユニクロのステテコどうだ、ステテコ。

 長くて薄くて最高だぞ?

 すぐに乾く!!

 今度買ってこよう。

 華英だって夏はあれを着てるぞ?

 俺は視線のやり場に困りながら、ソファーに座る。

 枕元に置いてあった奏のスマホが揺れた。

 長い足をパタン、パタンさせながら奏はスマホを操作する。

 ショートパンツの隙間に目がいくから、やめてくれ!

 俺は座ったばかりのソファーから勉強机の椅子に移動して、マンガを手に取る。

「ヤッターーーー!!」

 奏がベットの上をゴロゴロ転がって飛び降りてきて、後ろから俺にしがみついた。

 ぐええええ!

 やめて、部屋で俺に飛びつくのはやめて!

「ど……どうした?」

 俺は振向いて奏を引きはがす。

 奏はスマホの画面を俺に見せた。

「今度は私が当選したよ! 西川美和湖のコンサート!」

「おおおおおおお!!」

 俺も椅子から立ち上がって叫ぶ。

 春に俺が当選して、一緒に行けなかったコンサート。

 今度は、一緒に行けるんだ。

「やったーーー!」

 奏がスマホを持ってクルクル回っている。

 俺も素直に嬉しい。

「よし、曲聞こうぜ!」

「いいね!」

 俺たちは相変らず【あの雲の向こうに】を流し始めた。

 新曲がどれだけ加わっても、俺たちが一番好きな曲は、これだ。

「雲の向こうに~」

 奏がハミングを始めた。

 俺はそれを静かに聞く。

 いつも聞いてる曲なのに、柔らかく聞こえる。



 コンサートの日。

「ちゃんと、待ち合わせからやりたんだ!!」

 と奏。

 俺は意味が分からない。

「同じ家に居るんだから、一緒に行けば良くない?」

「前のやり直しをするの。今度は、前と同じだけど……違うだろ?」

 奏が俺の部屋着を引っ張る。

 なんでそんなにイチイチ可愛いんだ。

 俺の人生を殺しにかかってるだろ。

「はい、イチャイチャしてないで、洗面所あけてくださいーー」

 華英が頭にターバン乗せてやってきた。

「あ、ごめん」

 俺たちは洗濯機側に移動する。

 華英は何か網のような物に石鹸を入れてモッコモコの泡を作っている。

 その泡はどんどん大きくなって、掌から溢れる。

「……華英さん、それは」

 奏が一歩前に出る。

「朝専用の洗顔石鹸。あんまり顔の脂を落とさずに、汚れだけを落とす一品よ」

「師匠、私にも使わせてください」

「うむ、こちらに来なさい。まずターバンじゃ」

 二人は洗面所でキャハキャハ始めた。

 一緒に行かないから、俺は一歩先に出て駅前の本屋ぶらつこう……。

 付き合いきれない。


 本屋で西川美和湖が表紙の雑誌を買い、春と同じベンチに座って奏を待つ。

「ぜったい、同じ場所で座ってて!」

 と家を出る時に言われた。

 ていうか、この前俺がどこで待って、どこに座ってか、知らなくない?

 まあいいや。

 全国ツアーの写真が多く載っている雑誌をペラペラめくっていると、視界に白い靴が入ってきた。

「おまたせ」

 そこには黄色の花柄のワンピースを着た奏が立っていた。

 肩が出るタイプのワンピースで、丈は膝丈。

 裾にむかってフワリと広がっている。

 それに、髪の毛が違う……?

「なんか、髪の毛やった?」

「華英さんがしてくれた。……変?」

 奏は指先で髪の毛をクリンと回した。

 中途半端に伸びてきたショートカットを、アイロンで巻いたのか、俺が大好きなおかっぱに見える。

「……可愛いよ、すごく」

 俺はコホンと咳払いをしながら言う。

「えへへー。了太はワンピースにおかっぱが好きだからなー。知ってるよーだ」

 奏はその場でクルリと回った。

 スカートがふわりと広がって、周りにいた男が奏を見る。

 俺は慌てて奏の手を引いて、改札に引っ張った。

「行こう」

「おっとと。何ー?」

 何ー? じゃないよ。

 俺好みの格好でこれ以上他の男の視線にサラされるのは、やめてくれ。


 予定通りの各駅停車に乗る。

「ほい、どうぞ」

「サンキュ」

 二人で一つずつイヤフォンをさして曲を聞く。

 俺が右側、奏が左側。

 もうずっと決まっている。

 雑誌をぺらぺら見ながら、ツアーグッズは何を買うか相談する。

 秋の柔らかい日差しに、少し眠くなって横を見ると、奏も目を閉じている。

 静かに揺れる電車に、奏が倒れた時のことを思い出す。

 今日は奏が横にいて、嬉しい。


 コンサートは最高だった。

 夕方の川辺。

 俺たちは興奮しながら歩いた。

「やっと【あの雲の向こうに】を、生で聞けた!」

 奏が少し高くなってる堤防の上を歩く。

 俺は下の道を歩く。

 いつものことだ。

「生で聞くと全然違うな」

 奏は興奮したままだ。

「なんか、気持ちよく聞こえたな」

 俺は答えた。

「分かる!」

 奏は空を見上げて笑う。

 この前は奏が来なくて、ひとりで聞いた。

 何でだろう、この前のコンサートと、今日のコンサートで、同じ曲なのに違って聞こえた。

 今日のほうが、心地良い曲に聞こえた。

 前は奏のことが心配で、落ち着かなかったんだろうな……。

 でも今日は違う。

「ツアーグッズも買えたし、超満足だよ」

「今回パンフレット良いなあ。フルカラーじゃん」

「家に帰ってみよう。ああ、気持ちいいなあ」

 奏は両手を広げて堤防の上を歩く。

 夏が終わりかけた秋の風。

 奏が思いっきり息を吸い込む。

「ちょっとだけ秋の匂いだな」

 俺も息を吸い込む。

「8:2で、まだ夏だな」

「ほんの少しだけ秋だな」

 奏は鼻歌で【あの雲の向こうに】を歌い出す。

 川から上ってくる秋の風に、奏のハミングが気持ち良い。

 俺も一緒に歌う。

 奏が俺のほうをチラリと見る。

 俺も微笑み返す。

「りょーた」

 奏が俺を呼ぶ。

「なんだよ」

 奏は堤防の上、高さ50cmの場所からジャンプして、俺に抱きついた。

 俺の顔の横に奏の顔がある。

 しっかりと絡みついた腕。

 俺も、腕を伸ばして、奏を抱きしめた。

 ワンピースが風で少し冷やされている。

 それを温めるように、背中を撫でた。

「……お前、体冷たい。そんな腕だして……寒いだろ」

 俺は自分が来ていたパーカーを脱いで、奏にかぶせる。

「えへへへ」

 奏はそれに腕を通す。

「ワンピには似合わないけど、風邪ひくより良いだろ」

「あったかい」

 奏は微笑んで、再び俺にしがみついた。

 仕方なく俺も、奏の頭をトン、トンと撫でる。

「私は、了太の声が好きだよ」

 奏が俺の耳元で言う。

 その声と吐息にゾクリとする。

「……俺だって、奏の声が……好きだよ」

 奏がギューーっとしがみついてくる。

 俺も背中を抱きしめた。

 俺の肩から、ヒョイと奏が顔を外して、俺の顔を見る。



「……いつになったらキスしてくれるの?」



 俺はバリッと奏を引きはがす。

 奏は口元を押さえてニマニマしている。

「お前……最近いろいろ確信犯だろ!!」

 俺は奏を、人差し指で指す。

 おかしいんだ、ショートパンツでうろうろしたり、昔を語ったり。

「華英に変なマンガでも渡されたかー!」

 俺は叫ぶ。

「違うよ。ただ、キスくらいいいのになーって」

 奏は口をとがらせる。

「……しない」

「なんで?」

「しなーーーーーい!!」

 俺は叫んで走り出した。

 キスしたら、もう止まらない。

 俺は奏に襲いかかる。

「おかしいなあ~。私の魅力が足りないのかなーー?」

 奏が後ろから大声を出す。

 違う、違うよ!

 正直今にも襲いそうだよ。

 今日のワンピースも可愛くて、チラチラ奏を見ている男たちを蹴飛ばしたかったよ!

 


 でも、奏を好きだと自覚するたびに、独占欲と未来への恐怖が増していく。



 俺まだ高校生なのに。

 童貞なのに!

 どうしてこんなこと考えなきゃいけなんだ!!



 カッチカチの頭で、好きな女にキスひとつ出来ない自分が情けない。



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