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魔法が使えるはずなのに

「で、どうだったの?」

「柔らかかった?」

「ついに?!」

 日差しは完全に夏だ。

 ついにプールの授業が始まった。

 六月は、まだクソ寒い日もあるから、微妙だけど、今日はプールに入りたかった。

 ウチの学校は、女子がプールの日は、男子は別のことをする。

 今日は女子がプールに入っているので、男子はグラウンドで1500mのタイムを測るらしい。

 このクソ暑いのに、中畑筋肉はムッキムッキとやる気満々だ。

 俺たちは走る順番まで、日陰に逃げていた。

「目とか閉じそうにないよな」

「睨んでそうだ……」

 話題の中心は、俺と奏のことじゃない。

 ついに衛藤さんと川村がキスしたらしい。

 俺と浜崎と匠と川村の四人、木陰でほんの少しの休憩タイムだ。

 グラウンドでは竹中が全力疾走している。

「竹中くーーん!」

 遠くに見えるプールから女子数人が水着姿で手を振っている。

「世界最強!! 最速!!」

 竹中はもの凄い速度で駆け抜けていく。

 クソ暑いのに……。

 格好つけるためなら何でも頑張れる竹中を、最近は俺たちも生暖かい目で見ている。

 俺たちはあそこまで頑張れない。

 だからモテないんだ。

「衛藤さんから? 衛藤さんからきたの? こんな感じ?」

 チャラい匠は、ノリノリで川村を押し倒した。

「やめろバカ!」

 川村は匠の股間を蹴飛ばす。

 悲鳴にならない声をあげて匠が地面に転がる。

「今まで何度いっても逃げられたんでしょ?」

 冷静沈着、浜崎が言う。

「何度もって……俺変態みたいじゃん」

「俺、現場も見たし」

 浜崎がポツリと言う。

「え? 昨日キスしたの、見てたの? なんで? え?」

 川村は取り乱す。

 なんだよ、そんな異常なシュチュエーションでキスしたのか?

「いや、川村が衛藤にキスを迫って鞄で殴られるのを、駅で数回見た」

「Oh……NO……」

 立ち上がってきた匠が言う。

 川村は無言で唇を噛んでいる。

「いや、でもキスしたんだろ? な?」

 俺は川村の肩を揺らす。

「お願いしたら……してくれた……」

 川村はポツリと言った。

 お願いしたら……してくれた……それって、ワンコ的な……?

 全員が静まる。

「だ、大丈夫だよ、きっとこれからはキスが挨拶になるさ」

 思わず俺は不器用な励ましをする。 

 キスが挨拶って、外人か。

「昨日は、また殴られた」

 川村は呟く。

 Oh……NO……。匠じゃないけど、言いたくなる。

「マジで鋼のパンツだな」

 匠の言葉に、川村は不機嫌に睨む。

「軽いより、いいだろ」

「お前が幸せなら……」

 残念ながら匠の言葉に同意だ。

「お前こそ、奏に二人っきりの温泉、どうだったんだよ」

 川村が反撃するような、挑戦的な言い方をする。

「何かあったように見えるの、あれが」

 と浜崎。

「了太に何かあったらすぐに分かるわ」

 と匠。

 なんだよ、随分バカにされてるな、俺。

 その通りなんだけど!

「でもさあ……奏、俺って言わなくなったな」

 川村がプールの方をみて言う。

 全員が静かに頷く。

「それに関しては、宣言された」

 俺は言う。

「そっかー、本格的に女か」

 匠が呟く。

 俺たちはずっと仲が良い五人だったので、やはり淋しさはある。

 でも、もう仕方ないことだ。


「はーい、ここでゲスい質問いきまーす」

 匠が立ち上がる。

「奏とやれるひと」

 川村が匠のお腹を蹴飛ばす。

 フギイイイと叫び声と共に倒れる。

 チャラい上にゲスすぎる……。

「俺は全然大丈夫」

 普通に答えたのは、浜崎。

「え、マジで?」

 俺は身を乗り出してしまった。

「可愛いよ。すごく。奏は男でも女でも可愛い」

 さすが浜崎。何かを卓越している。

「無理」

 川村。俺も同意だ。

「俺は、仕方ねえなあ、匠、脱げよ! みたいなキャラで来てくれたらイケるな!」

 なんだそりゃ……。

 全員どん引き。

 俺は小さくため息をついた。



 実は、この話題、俺的にはかなりタイムリーだ。



 実はこの前旅館で、浴衣の奏に乗られた時。

 もちろん奏は柔らかくて、完全に女の子で、浴衣1枚で。

 肌の感触まで分かって、暖かくて。


 それなのに、俺の愚息はピクリとも動かなかった。


 ……マジかよ。

 信じられない、あの状態で。

 興奮したし、ドキドキした。でも全然動かなかったんだ。

 奏が相手だから?

 というか、奏が家に来てから自家発電も出来ない。

 だって全部音が聞こえるだろ?

 テレビとかみてると、なんとなく反応するから、愚息死亡ってことじゃないけど……不安だ。

 いやでもやっぱり、相手が奏だから……だよなあ。

 だと言ってくれ!

 天下無敵の魔法使いなのに、どうしてこんなことで悩まなきゃいけないんだ!

 でもさあ……。

「出来ないよな……奏だもん」

 俺は呟く。

「出来ねえだろ……」

 と川村。

 でも現時点で2対2。

 半数は奏と出来ると思ってるって、こと?

 本気かよ……?


「おっしゃー、良いタイムでたよ~~?」

 上機嫌の竹中が戻ってきた。

 コイツは男も女も関係ないんだろうな……。

 亀のメスを見ても興奮しそうだ。

 ある意味、このレベルの精神力が羨ましい。

「はー……」

 川村も隣でため息付いている。

 きっと同じようなことを考えている。

「走ろう。俺たちは、明日にむかって走ろう」

 俺は思わず川村の背中を叩いた。

「そうだな」

 クソ暑いけど、走って汗でも書いたほうが、マシな脳みそになるかも知れない。




「背中がヒリヒリする」

 前の席で奏が言う。

「日焼け?」

 俺は机の上の教科書を机の中に押し込む。

「前は上に何も着てなくても、なんとも無かったんだけど」

 奏は上半身をもぞもぞと動かす。

「女のほうが肌が白いとかあるし、日焼け止めとか塗ったほうがいいじゃね?」

「塗ったこと無い」

 奏は首をふる。

 まあ、それは俺も同じだ。 

 化粧する男子とか騒がれてるけど、俺はそんな生物、見たこと無い。

「マジで言ってるの?」

 実は席が近い衛藤さんが言う。

「塗らなきゃ、駄目?」

 奏が言う。

「SPF50+++でしょ」

「暗号か?」

 と奏。

「呪文か?」

 と俺。

 本当に女子が使うアイテムは、召喚魔法的な言葉が多い。

「プールの日は、朝から塗ってこないと」

「えー……」

 奏が本気で面倒くさそうだ。

 気持ちはよく分かる。

「直前じゃ駄目なの?」

 俺は聞いてみる。

「日焼け止めは塗ってから30分たたないと効果ないの」

「へー……」

 全く知らなかった。

「ちょっと見せてよ」

 衛藤さんは、奏の制服の後ろをツンとつまんで、中を覗き込んだ。

「いたたた……」

 奏は呻く。

「あー……赤い。痛そう。見てみなよ」

 衛藤さんに言われて俺は一歩前に体を出して……

「……あっぶねーーー」

 元の場所に戻った。

 危うく女の奏の背中を普通の覗き込むところだった。

「……ちっ」

 衛藤さんが舌打ちする。

「なんなんだよ、お前は!!」

「……ちっ」

 奏も一緒に舌打ちする。

「奏も、見て欲しいのかよ!」

 俺は叫ぶ。

「よし、俺がみてやろうゲフーーーー」

 寄ってきた匠を、衛藤さんが弁当箱で殴った。

「……お弁当に、行こうか」

 それを見ていた川村は、少し顔色が悪い。

 体に気をつけろ……川村……。

「とりあえず、今日帰ったらローションとか塗ったほうがいいよ。ボロボロになる前に」

 衛藤さんは川村とお弁当箱を持って消えた。

「……ローション。華英さん持ってるかな」

「混ぜたら爆発するくらい持ってるだろ」

「貰おう」

 奏は痛そうに、顔をゆがめる。

「大丈夫かよ」

「見る?」

 奏がにんまりと笑う。

「見ねーーーー」

 俺は叫ぶ。

 最近奏は、狙いすましたように女的な言葉を言う。

 俺は知ってるんだ。

 華英もよく「これ可愛い? 可愛いと言え?」とか言ってスカートでくるくる回って、同時にパンツが見えると文句を言う。

 だったら最初からスカートで回るな!

 ていうか、見たくねーんだよ。

 ジャージ着てろ、ジャージ。

「ノーサンキューで、X!!」

 俺は目の前でバッテンを作ってジャンプする。

 往年のXジャンプだ。

 Xは俺のオトンの影響だ。

 映像を見た俺たちは興奮して、一年の時の文化祭でエアXをして暴れた。

 全く受けなかったけどな!

 俺がXジャンプしてると横から匠も飛んできてXジャンプを始めた。

「紅~~X!!」

「俺もX!!」

「なんだお前ら、私もX! うお、背中痛い!」

 ついに奏も参加した。

 奏の背中を想像したら、一瞬緊張したから、このままXジャンプで誤魔化そうと思う。


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