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証明してよ

「はー、満足満足」

 奏は両手に紙袋を抱えて歩く。

 これは俺が姉二人と買い物に行くと出現する、ショッピングモンスター……。

「半分持つわ」

「お、サンキュ」

 俺は荷物を半分持った。

 一人が全部持つと二人で歩きにくいんだ。

 一人が左手、もう一人が右手で持つと、話しやすい。

 俺は華英と雪菜の荷物に挟まれて、身動き取れなかったことがある。

 車に乗ったら、今度はオカンの荷物まで渡されて、高速二時間、荷物にまみれた。

 女の物欲、とんでもねー。

 俺?

 いつも靴を一足。

 靴は半年に一度新しくするって決めてる。

 なぜなら臭くなるからだ。

 実用万歳!

「意外と楽しかった。それにあの店、気に入った。シーズンで買う」

「発想が金持ち過ぎて、えぐいわ」

「今日買ったのも全部綿なのに、形が綺麗なんだよ。洗濯表示みて買い物したの、初めてだ」

 全部綿。

 奏は、奏なりに、ウチに馴染もうとしてるんだよなー……。

「気に入って良かったな」

「華英さんに感謝だ」

「勝手に消えたんだから、感謝もへったくれもねーよ」

「いや、俺たちだけで店が選べたか? 連れていってくれただけで、満足だ」

「んなもんハセさんに調べさせれば良かったのに」

「ブルガリ着て旅行いくか?」

「……まあな」

 ブルガリの服は、洗濯機で洗えるのか?

 洗濯機の値段より高そうだ。

 

 映画館の前。

 そこに華英と、男が立っていた。

「へ……?」

 俺は驚きすぎて声もない。

 奏は、すっと前に出て、声をかけた。

「こんにちわ」

「あ、奏さん。ごめんね、勝手させてもらって」

 横の男が俺に向かってぺこりと頭を下げる。

 え? 俺、知り合い?

 やべー……。お約束のすっかり忘れモードだ。

 俺、本当に人の顔覚えられないな。

「奏さんは知らないよね。こちら、相田修人さん」

「はじめまして、相田です。華英さんとは幼馴染みで、昨日飲み会で久しぶりに会ったんだ」

「よろしくお願いします」

 奏はにっこり微笑む。

 相田……、ああ! 相田さん!!

「お久しぶりです」

 俺はやっと思い出した。

 相田さんはウチから数100mの所に住んでた、華英の幼馴染みだ。

 相田さんは中学から私立で全く会って無かったけど、小学生のときはよく遊んでもらったな。

 よく顔を見ると、見覚えがある。

 小学校の時からイケメンだったから、まあ大学生になった今も、イケメンだわ。

「了太くん、大きくなったなー」

「そりゃ小さくならないでしょ」

 華英が笑う。

「昨日頭数あわせで呼ばれてさ、行ったら華英さんがいるんだもん。盛り上がっちゃって」

「丁度出てきてるって言うからさー。映画誘っちゃった、一緒にいい?」

「ああ、もちろん」

 俺も相田さんは大好きだ。

「よろしくお願いします」

 奏もにっこりと微笑んだ。

 

 席は、奏が気を使って相田さんと華英、俺と奏で少し離れた席に決めた。

 遠くに山盛りのポップコーンを二人で食べてるのが見える。

「華英さんにも幼馴染みがいるじゃないか」

 奏は微妙に興奮している。

「恋愛的は話? 相田さんは長く付き合ってる彼女がいるからなー」

 俺もポップコーンを食べる。

「え……?」

 奏の表情が凍る。

「中学から付き合ってるんじゃない? さっきも合コンは頭あわせって。彼女がいるってことだろ」

 相田さんは昔からモテて、それこそ華英もずっと好きだったはずだ。

 そういう意味では、華英も幼馴染みヒロイン失格してるんだな。

 まあ小学校六年生の時の話だけど。

「そうなんだ……」

 奏はポツリと呟いた。

 

 映画が終了した。

 たしかにこれはクソ映画だ。

 全部で10巻あるマンガの良いところをドラフトで見せただけだ。

「早送り感、半端ねーな」

 俺は部屋が明るくなった途端に言った。

「全部いれりゃー良いってもんじゃ無いな」

 奏も呟く。

「壁ドンも、ああじゃないよな」

「もっとカメラが引くべきだ」

「引いたら顔が見えないからなー」

「カット割れよ」

「まあなー」

 俺たちはいつもこうだ。

 映画が終わると、あーだこーだ話し合う。

 この時間がとても好きだ。

「あそこが一番の見せ場なのに、早口すぎるだろ」

 俺は別に福士くんのファンじゃないが、ちょっと残念な仕上がりだ。

「もっとねっちょり言ってほしいな」

「ねっちょり! ねるねるねるねかよ」

「超久しぶりに聞いたんだけど、それ」

 奏が膝を叩いて笑う。

「まだ売ってるぞ」

「なんであんなの買っちゃうんだろうな」

 二人で笑いながら部屋を出ると、相田さんと華英が待っていた。

「ちょっと微妙だったねーー」

 華英が笑う。

「ちょっとどころじゃねーぞ」

「あはは、でもヒロインは可愛かったよ」

 相田さんも苦笑している。


 四人で映画館から出る。

「飯でもどう?」

 相田さんが俺たちに言う。

「修人、時間いいの?」

 華英がスマホを取り出してツンツンと触る。

「……あ、そろそろか。ごめんね。また今度、家にお邪魔してもいい?」

「オカンも待ってるよー」

 華英と俺と奏で相田さんを見送った。


「用事があるの、相田さん」

 俺は華英に聞いた。

「美奈ちゃんが何か試験があって、丁度出てきてたみたい」

「美奈ちゃん?」

 聞いたことない名前だ。

「ああ、修人の彼女」

「華英、会ったことあるんだ」

「ずいぶん前にね。今も付き合ってるんだって。長いなーー。中学からだよ。いいなーー、幼馴染みヒロイン」


「だったら、奪い取れば良い」


「……は?」

 映画館出てから一言も発してなかった奏が突然ハッキリ言った。

「え、修人を、美奈ちゃんから? ないないない!」

 華英は左手を顔の前でぶんぶん振って笑った。

「私は小学校の時に振られてるし、今じゃ良い思い出だよ。それに美奈ちゃんには勝てないなーー」

「どんな人なの?」

 俺は好奇心で聞いた。

「すごいマジメ。目指してるの先生だよ? ひぎぃ……勝てましぇん……」

「お前も漫才師ならなれるかもよ」

「もうかりまっかー」

「古っ!!」

 振り向くと、付いてきてるはずの奏が止まっている。

「奏」

 呼ぶと奏が顔を上げる。

 そして口を開いた。

「華英さんがあんなに幼馴染みのマンガを持ってるのは、相田さんのことが忘れられないからじゃないですか?」

「えええ? いや、本当にそれは無いな……」

 俺もそれは無いと思う。

 いや、感覚的には残ってるかもしれないし、相田さんのことがあったからこそ、幼馴染みのマンガが好きなんだろう。

「現実で叶わないから、理想がマンガになってるんだろ」

 俺は言う。

「美奈ちゃん的には、幼馴染みヒロイン合格なのかな。いやー。でもあの努力と素材の良さは、最初からヒロインだわー」

「そんなに可愛いの?」

「写真みる? 昨日も来てたよ」

「合コンに?!」

「いや、修人向かえに来てた。昨日も試験があったんだって」

「ふへー……おい、奏いくぞーー」

 それでも奏は止まっている。

 それをみた華英が一瞬動きを止めて、スマホをしまった。

「……ねえ、了太。そこのコンビニで、たけのこの里と午前ティー買ってきて」

「自分でいけよ」

「いってき・て」

 有無を言わさぬ態度に、俺は少し離れた場所に見えたコンビニに向かう。

 食べる、俺は絶対あいつのバターサンド食ってやる。


 コンビニでたけのこの里と午前ティー、それに二つのお茶を買って戻ると、いつも通りの奏がいた。

「よし、帰ろうぜ。腹へった」

 何なんだよ。

 まあ、機嫌が直ったならいいや。

「これは俺の金で買ったから、俺のたけのこちゃんだ」

「ほほう……私と戦争ハザードするってことかい?」

 華英が睨む。

「宣戦布告として受け取ってもよろしいか?」

 俺も睨み返す。

 フキャーーー!!

 俺たちが肩をぶつけあってケンカを始めた横で、奏はすたすたと駅に向かい始めた。

「帰ろう、帰ろう」

 お前、冷たいな!!



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