俺はメダカ
「清永学園って、幼稚舎からある、あの有名学園だよね？」
「なんでこの時期に？」
「大学は決まってるの？」
「どうしてここに？」
「ていうか……かっこいいーーー」
朝から昼まで、休み時間、竹中の席には人だかり。
見学にきた人で廊下まで埋まっている。
竹中はその質問に一つずつ丁寧に答えていく。
「清永学園を知ってるの？ だたの金持ちの道楽学校だよ。名前が有名なだけで、お金があれば誰でも入れる」
「ていうことは、竹中くん……お金持ちなの？」
「清永に入ってたくらいには」
キャーーと悲鳴。
「大学は決まってる。徳広薬学部にいくよ。将来は薬関係。お薬好き？」
また、キヤーーと悲鳴。
あれ、ちょっと待てよ。ハセさんは昨日、竹中は清永各園の薬学部に行くって言ってなかった？
俺はチラリと奏を見るが、スマホから目を離さない。
「どうしてここに……って、楽しそうだったから」
「来たことあるの？ この街に」
「子供の頃ね。小児喘息がキツくて、療養にきてたんだ」
大変だったね……と女子同情の顔。
まあ嘘じゃないのは奏から聞いて知ってるけど、イチイチ演技くさく聞こえるんだよなあ……。
「かっこいい？ 両親に感謝だな」
キャーーーーと悲鳴が響いて、はい昼休み。
「竹中くん、学校案内するから一緒に学食に行かない？」
衛藤日菜子が、クラスの数人を連れて竹中に話しかけた。
川村一馬も一緒にいる。
まあ衛藤はクラス委員だし、転校生に声をかけるのは仕事の一部かもしれないけど、衛藤は元々奏を好き……ということは、金持ちイケメン好きで。
なんか心臓がどきどきするぞー。
「おい、飯行こうぜ」
俺は奏に声をかけた。
これ以上ここに居たくない。
「おう」
奏が立ち上がると、竹中が声をかけた。
「小早川さん」
クラスがしん……と静まりかえった。
奏はゆっくりと振り向いた。
奏と竹中さんが見つめ合う。
「……何？」
「……あれ。何この空気」
いや、お前が作り出した空気だけど？
「ひょっとして、小早川さんの病気って、まだ受け入れられてないの？」
まだクラスは静まりかえっている。
おおお……さすが転校生。全く空気を読まない。
もう清々しいレベルだ。
「人にうつるとか思ってる？ まさかね」
クラスの誰も口を開かない。
そりゃそうだ。
奏が性転換病になってから二週間、誰も細かいことはこない。
まあ聞かれても、俺も奏もよく分かってないんだけど。
「じゃあ、俺が語るよ、聞いて？」
オホンと竹中は咳払いをして語り始めた。
「小早川さんがなった通称性転換病は、正式名称は思春期突発性卵母細胞転換疾患。無自覚な人間も多いが、半陰陽寄りの体を持ち、それが思春期になると突然男性か女性かに体が急激に変化する。世界にも50人程度しか居ない。そして一度転換した性は、今のところ誰も戻っていない。知らない人も多いが、歴史上も性転換病だと言われていた人物もいて、その代表格は大城夕雄。浅野和利の乱の時に、大城夕雄自身が女装して敵陣に踏み込んだことで勝利したと言われているが、実際目撃情報で大城夕雄は胸があったという逸話が残っている。今の研究方法は基本的にメダカを使っていて、性の分化種であるメダカの生殖巣原基には両性能があり、反対の性にも転換することが可能なんだよ、すごくない？」
クラスの皆がポカンとした表情で、竹中の演説を聴いている。
俺は正直、ちょっと面白くなっていた。
奏も口元がピクピクしている。
完全に笑ってるじゃねーか。
「一行でいうと、小早川さんは悪くない。そんなに驚くこともない。以上」
「おおー……」
思わず川村くんは拍手している。
そうなんだー……と言っているのは、男子生徒のみ。
まあウンチクに興味があるのは、基本的に男だよなあ……。
「俺はメダカか」
奏がポツリと言う。
「同じなんだよ、面白くないか？」
竹中は、一歩前に出た。
奏は一歩後ろに下がった。
「話があるんだ。学食連れてってくれよ」
竹中に言われて、奏は無言で俺の制服を掴んだ。
そしてグイグイと無言で引っ張る。
「……分かってる、一緒にいくよ、いく、いく」
それをみて竹中は、パチンと手を叩いて、指をさした。
「この前のパーティーのナイトだ。俺、竹中朝陽。よろしくね」
「はあ……俺は二宮了太。奏とは幼なじみです」
「よろしく。行こう」
竹中朝陽のことは、もうすでによく知っているが、とりあえず断れる空気でもない。
俺は二人の真ん中に入れられて、三人で歩く。
イケメンに連れ去られる宇宙人は、学食に向かいまーす。
……はあ。
学術用語の「精巣卵」と「卵精巣」について
（http://reproduction.jp/jrd/jpage/vol50/500201.html）
を参考にしました。
