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竹中朝陽という人間

「お時間も頂けましたし、竹中朝陽について調べました」

 ふわふわと湯気をたてるカレーを目の前に、ハセさんは宣言した。

「……とりあえず、食べていい?」

「いただきまーーす」

 奏はスプーンを手に、カレーを食べ始めた。

「お腹すきすぎ、ペコペコ」

 華英も食べ始めた。

「……てか、お前、顔マジでテラテラしてるぞ。ポマード塗ったみたいだぞ」

「人生で一番肌が潤ってる、マジで、生まれ変わった華英です……」

 華英は指先でつるつるした肌を触りながら言った。

 俺と奏が眠っている間、ハセさんに勧められて小早川家内にあるエステを堪能してたらしい。

「もう至れり尽くせりとはこの事よ!!」

 数人のエステティシャンが華英を取り囲み、体中をメンテナンスしてくれたらしい。

「むせかえるバラの香り……! アンビリバボー!!」

 福神漬けをスプーンに山盛り入れて、カレーにバラバラ入れながら華英は言った。

「うまいなー……二宮オカンのカレーは、本当においしい」

 奏はしみじみと言う。

 さっきソファーで昼寝したときに、寝癖がついて、髪の毛がモアモアしていて、生まれたてのヒヨコのようだ。

 俺たちが黙々とカレーを食べている横でハセさんが立っている。

「……報告させて頂いて、よろしいでしょうか」

「ああ、はい」

 俺は食べながら答えた。


「竹中朝陽は、同性愛者ではありません」


 ブフーーーとオトンがカレーをふいた。

 ちなみにオトンは、今日あったことを、何も知らない。

 朝からゴルフに行って、さっき帰ってきた。

「何の話……?」

「オトンにはレベルが高いから、カレー食べてなよ」

 華英はお手ふきを渡した。

 レベルが高い低いの次元か?

 ハセさんは続ける。

「竹中朝陽は清永学園三年生。常に女性とおつきあいがある方です」

 普通の遊び人、と。

「常にってことは、彼女がいる、とかではなく?」

 華英が聞く。

「基本的に財閥のご子息は、特定の方を作られません。作らせないために、清永学園という一貫校に入れてますから」

「え、逆に、不特定多数はオッケーなの?」

「遊びですから」

 ハセさんが苦笑しながら、遊びですから……とか言うと怖い。

「竹中財閥の次男、長男の彬さまが後継者として、今はロサンジェルスにいらっしゃいます。朝陽は次男で、大学の進路は清永学園の薬学部、生命科学部を選択、かなり成績も優秀で、将来は竹中製薬の社長に就任されるご予定です。趣味はマラソンで、ホノルルを四度経験、かなり速いですね、毎回完走されています。小児喘息で長く苦しまれていましたが、水泳を続けることによって、体調は回復、清永学園高等部では水泳部に在籍しており、全国六位に入賞している実力者です、ようするに、非の打ち所のない男です」

 みんなポヤーー……と口をあけて、ハセさんが言い切る姿見ていた。

「なんで奏さまにプロポーズなさったのかは、原因不明。現在小早川家全力で調べております」

「イケメンな情報量の海に溺れそう……」

 華英が目をしばしばさせながら言う。

「まだまだあります、読み上げましょうか」

「いやハセさん、カレー冷めるよ」

 俺は着席を促した。

「おかわりーー」

「はいよ、奏さん、食べるねーー」

 ハセさんが語ってる間、唯一食べ続けた奏が、オカンに皿を渡した。

「……つまり、ぼっちゃんの気まぐれ、だろ」

 奏は水をひとくち飲んで言った。

「詳細は、今調べております」

 ハセさんの目が、ギラギラと光っている。

 怖い、眼力で竹中をやっちまいそうだ。

「ハセさんは、竹中さんのこと嫌いにゃのーー?」

 華英が口にスプーンをいれたまま聞く。

 ハセさんはグリンと華英のほうを向いた。

「朝陽さまは、幼少期からのおつきあいで、素晴らしい方です」

「だったら、そんなに興奮しなくても」

「由貴子さまの気持ちを思うと……ハセは……」

 ハセさんは目を伏せた。

「由貴子さんは、大丈夫なの?」

 華英は聞いた。

「エステでね、ちょっと小耳に挟んだんだけど、着替えにも来ないって」

 華英はいつでもどこでも耳がビンビンだな。

「……パーティーが終了してから、お部屋に閉じこもったまま……もう六時間以上誰が話しかけても出てらっしゃらなくて……」

「由貴子さま……」

 華英はグスンと鼻をすすった。

 カランと音をたてて、奏がスプーンを置いた。

「無理もねーよ。由貴子は、ずっとアイツが好きだったんだ。本当に子供の頃からな」

 奏は立ち上がってドレッシングを取って、それをふりながら話し始めた。

「アイツが来はじめたのが、小学校低学年で……それから10年以上、毎年夏は来てて。いつも由貴子や俺と遊んでたよ。中学になると、数回しか見てない気がするけど」

「朝陽さまが小早川家に訪れた回数は、初等部の時は48回、中等部になられると6回、高等部では1回です。しかし、由貴子さまは上京されるたびに朝陽さまに会いに行かれています」

「うぐー……」

 俺は思わず唸った。

 由貴子さん、可哀想すぎて泣ける。

「由貴子さま……オカン、カレー、おかわり」

「自分でやんなさい」

 華英の言葉を無視して、オカンも涙をおさえている。


「由貴子と朝陽は、セックスしてんの?」


 ブフーーーとオトンが今度はサラダを吹いた。

 いや、気持ちは分かる。

 聞きたい気持ちも、分かる。

「由貴子さまは、上京のたびに、朝陽さまとホテルに宿泊されています」

 全員が、ぐふー……と黙り込む。

 一般家庭の食卓の話題にしては、重すぎる。

 鬼女のまとめ速報に投稿したいレベル。

「朝陽は、由貴子と別れたくて、俺を利用したって事はないの?」

 俺はパチンと指を鳴らした。

「あるかもな」

「別れ話は、あったようです」

 ハセさんは即答する。

 何もかも調べてるな、マジ怖い。

「でも、由貴子が嫌がってた、と」

 ハセさんは頷く。

「むしろ、この話は由貴子から持ちかけたんだな。朝陽をつれて来い、と。ああ、何か、色々納得してきたぞ。二宮オカン、ヨーグルト食べたい」

「はいはい」

「あ、ハセが入れておきました。奏さまお気に入りのプレミアムヨーグルト」

「何ソレ、私にもある?」

 華英がおかわりのカレーを食べながら言った。

「当然です」

「よっしゃーー」

 奏はヨーグルトと食べながらブツブツ続けた。

「あのパーティーで朝陽の逃げ場を奪うつもりが、逆に完全にお断りされた、と。なんか嫌がることでもしたんじゃないのか、由貴子は」

「由貴子さまは、とても朝陽さまをお好きでして」

 なるほど、何か、色々したわけね、うん。

「じゃあ、朝陽は俺のことなんて、好きじゃないな。良かったーーー」

 ああー……と奏が椅子に体を埋めた。

 そしてハセさんをまっすぐ見て言う。

「ありがとう、ハセ」

「こんなこと、何の苦労でもありません」

「とりえあず、カレー食べたら?」

「頂きます」

 ハセさんもスプーンを持って、カレーを食べた。

「……美味しいです、本当に」

「長生きしてくれないと」

 奏の言葉に、ハセさんが何度も頷く。



 一週間後。

 学校では相変わらずで、周りの生徒はあまり寄ってこない。

 俺たちはスマホを見ながらダラダラ話していた。

「お前、西川美和湖のライブ映像までスマホに入れてるの?」

 奏が俺のスマホを勝手に触る。

「だってこの回、最高なんだよ」

 ガラガラ……と扉が開き、中原先生が入ってきた。

 奏が凍り付き、スマホを床に落とした。

 カシャンと高い音が響く。

 俺も言葉が出ない。

「今日から、転校生が入ります。はい、挨拶して」


「竹中朝陽です。東京から来ました」


 俺と奏は動けない。

 現実を、現実として受け入れられない。


 奏にプロポーズした竹中朝陽が、転校したきた……?



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