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③ー34

ー34


初代ベニスレッドとして活躍した時代は、

当時としては高級だったマンシュロゲの糸と、

複数の化学繊維を織り込んだ特殊素材で作られたビニールスーツにて戦っていた。

そこで生き残れたのは彼の戦闘力の高さは元より、

大切なパーツがひとつある。

それは理解力、そしてそれを成せる運動能力。

通常、人は1回見て完璧に覚える事など出来ない。

何度となく修練を積み、身体に染み込ませるしかない。

だが彼は違った。初見で理解し、それを99%の再現率で披露していたのだ。

それが敵の動きや技であろうとも、運動能力的に可能なら体現して見せていた。

だからその回避方法も理解し、2度目は通用しない…。

それにより絶命の危機を回避してきたのだ。

(まぁ、1度目を回避するのを可能としていた勘とかも大事だが)

川端の能力であり、レッドとして引き継げる事の無い唯一の能力。

それを今、再び。


真ん中の扉、普通なら当たりであり、

何よりリーダーは主役扱い=ボスとの一騎討ち。

牧野が調子のってたとかではなくて、なんとなく流れあるだろうって、

彼女は思っていた訳で。

『…ここって、兵舎室?』

目の前には数十、いや百数十の兵士が出立準備中であり、

それが一斉にこっちを見るのだから、ちょっと恐怖で。

何人かが何やら叫び、牧野へと向かってくるではないか。

あぁやはり下級兵は日本語話せないんだなぁ~っとか

納得しつつ、牧野は調べの時間が来たことを悟る。

さぁ無理に命を奪いはしない…でも向かってくるなら容赦はしない。

それが彼女の考えであり、今回はそれを曲げなければ成らないのであり。

命を奪う以外に、生き残る術など無いのだから。


くじ運は悪かった覚えがない。

クラス内の席替えタイムは3位候補以内を

常にゲットし、お陰で初めての彼女も簡単だったし。

商店街の福引きだってよく当たった、

当時出たばっかりのシート・ビジョン(紙タイプのハイビジョンテレビ)

を引き当てたのも自分だったし。

だから予想はしていた、引くな…と。

『君たちが星一番の成功者と言える』

風格がある、淀んだところが見えない。

やはり上に立つ存在とは、従えざる者よりも大きくなければならない。

全ての意味で…私にはないけどな。

『私はトウキョウ制圧部隊旗艦長…』

正直、次の名前なんてどうだっていい。

問題なのはこの存在が何者であり、そして自分にとって何をもたらすか、である。

『…パールダーツである、君は?』

息を吸い込みハラに貯める、それを一気に吐き出す勢いで声を乗せるのである。

それ無くしては、大声などとても…。

『ベニス戦隊統括兼、実質最年長の…』

決めポーズとか考える余裕なかったので、

思い付くままのダンシング。

『ベニス・ブルー!!』

渾身の声、そして動き。

彼はこの瞬間に燃え尽きたともいえる。

旗艦長パールダーツはその姿をゆっくりと観察していた。

勿論、直ぐに分かったことはある。

戦闘を行う上で、彼が素人である事。

…まぁ絞まってない身体を見たら誰でも分かるのだが。

その推測を受け入れているブルー小杉も相手を見る。

背丈は180センチ無い位か、そして細身である。

皮膚だが鎧だか分からない白色の外見、

頭は我々と同様のバイザー式ヘルメット風。

異国のベニスって言っても過言ではない?

…まぁ、口元が見えているのでフルフェイスではないんだなって感じ。

その口元がにこりと笑う。

それが開戦の号砲だなんて、判るわけもなく。

パールダーツは殺傷力を具現化した様な

尖った手甲を右手にはめる。

透明のそれは、目を凝らすか止まっている時にしか存在を検知できそうもない。

『…貴方の武器は?』

号砲に気付かなかった素人に、優しさのパス。

ああっとブルーは取り出し構える。

その動きもある意味新鮮で、それはそれで楽しめそうだな、とパールダーツ談。


相手が何を言っているのか、頭は理解していない。

それを見たから、それを聞くまで、それ以外の思考はない。

『…教えろ…地球に来たことはあるのか?』

その答え、どちらを自分は望んでいるのだろう。

イエスかノーか。

だが言える、コイツの種族が妹を殺めたのだと。

舞子はまだ14歳だったのだ、全てはこれから始まるってのに。

『答えても良いが、さて…』

右手が異様に大きいその者は、身体を揺すりながら話している。

まぁこの者に限らず、グルム星人とは不愉快なる生き物なのだろう。

その者は大き過ぎて使い辛そうな右手にて

顔付近を撫でつつ…

『…あるぞ、随分と前の話だがな』

ザグナス帝国が次の進行地を決定する際、

幾つかの組織対抗にてプレゼンテーションが行われる。

グルム星人が数年前にプレゼンテーションしたのが地球。

そのリサーチに来ていたのだ。

勿論、来るだけで収まる訳はない。

この星の制圧魅力を調べる以上に大切な、

生命体の強さを知る必要があった。

だから、何人か殺めたのだ。

…なんの躊躇もなく。

『…14歳の少女は…?』

全身の細部にも伝わる振動、それは怒りの意味なのか。

はたまたついに出会えた歓喜からの震えか。

まぁグルム星人にそんな感傷はないので

理解する能力はない。

だから何も思わずに回答する。

『小さい、か弱い、下等な生物の何を記憶してると?』

自然とベニスグラスが右手にて収まっていた。

『…質問を変えよう、地球に来たグルム星人は…?』

顔の下の方にある言葉を発する物が右に上がる。

『俺様だけだ』

その時の記憶は一瞬ない。

もちろん一瞬だけだぞ、と後日の御堂談。


川端はいつも以上に観察していた。

初見で体現できる代物ではなかったから。

だがあの戦いと、その後の時間にて、

観察は完了し、100%に限りなく近い形での

体現を可能としていたのである。

おそらく、この技を我が物とすれば、

初見での被弾は激減し、更なる高みへと登り詰めれるだろう。

その初日、その相手、全てが相応しい…。

川端の身体から無用のエネルギーは消失し、

木の葉か空気かの如く…。

それは竜泉、我流の調べ。

その存在にムグでコーティングされた長剣が触れられる訳もなく。

渾身の空振りとなる。

『…飛んだ者で、無傷であった者は居らず』

フォロースイングを終えたハレンド、

ゆっくりと身体を起こしつつ、追弁。

『見事なり…名をもう一度聞こうか』

小物なら覚える必要などない、だからハレンドは聞き流していた。

なかなかに、失礼な護衛長で。

川端は名刀を構え、あれの始動体勢となりつつ…

『我が名はベニス・ゴールド、ただの兵隊ぞ』

次の瞬間に繰り出されるその技は、

兵隊どころかベニス界隈最高クラスなのだけどね。

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