③ー32
ー32
時刻は2時となり、変更連絡がない=作戦開始となる。
各々が目標とする飛行物の周囲に陣取り、
傘を差してゆく。
でもそこは一応の時間差。
開発者を信用していない訳では無いのだが、
一応の保険なのだ。
『ゴールド、出るぞ』
東京の一番槍はゴールド川端、原則不死なので『いや、俺が…俺が…』の流れに至る前に決定となる。
『川端さん、気を付けて』
リーダー(仮)としての一言、勿論ダメなら直ぐに戻ってのお願い付きで。
彼はその心使いを笑顔で返して、進む。
見えない線を具現化させた物がバイザーに写し出されている。
それを越えると同時に降り注ぐ水色のレーザーと呼べる光の線。
回りから見ていても分かる、不死だと言っても玉ありきの話。
あんだけ隙間なく撃たれたら、きっと玉は…。
『川端さん!』
その悲鳴を受けるものは必死に傘を広げ、
しばし耐え中。
…体にダメージはない、服が破れているも、ない。
流石の倉橋、自称天才は偽り無し、か。
川端はピンク牧野へと合図を送る。
それはゴーサイン、者共続け!っと。
その目線に応え、リーダー(仮)は傘を広げる。
『よし、いこう!』
メンバー唯一の美声により、他のメンバーも開始する。
日本を、いやこの地を解放する戦いを。
まずは地元を救うのだ、それの積み重なりが日本解放へと繋がるのだ。
モニター越しにしか見たことがない(しかも一部)相手を信頼するのも変かもだが、
同じスーツを着て、命とやらを賭けて戦って来ているのだ、
皆さんやってくれる、必ず成してくれる。
願望が強いとはいえ、信頼するに値するよきっと。
ジャンパーという、なんの捻りもない名称のジャンプ装置にて、
各々上空を目指す。
例のコウモリの羽根を広げつつ、一気に登り詰めるのである。
その過程に不安はある。
近付けば威力が増し、穴が開くのではないか、と。
だがこのレーザーを屈折させる技術は、
そんな物理的な話ではないらしく、当人らの不安等介することなく、悠然と。
それは倉橋の今できる最大の助力であり、
これなくしては円盤への接近及び潜入は、
叶わなかっただろう(倉橋談)
…まぁ実際は他にもあるのだが、最短であり最も安全であったのは事実。
皆さんちゃんと感謝しているはず。
『よし、ベニスソール起動!』
もうここからは試していない。
この基本的になんでも吸い付いてくれる足の裏が、
この未知の円盤表面にも対応してくれるのか、
実験など出来るわけもなく。
まぁ怖いので一応の平坦な所を選んでからの、着地。
ズレていかない両足、感じる一体感。
無事着地を果たした面々、見えないけど安堵の表情となる。
当然、それは束の間。
頭の内部を切り替え中心部へと進む。
吸着率を下げて、ネバネバの上を歩くのだが、
牧野はこの感覚が好きではない。
一刻も早く、この地獄より解放を…
『前方開放!敵だ!』
探す手間が、である。
5人は更に率を下げて、その開放部分へと雪崩れ込む作戦実行。
も、ブレーキ。
立ち塞がる、敵。
『こんな夜分に予約も無しで、失礼じゃないか』
随分と流暢な日本語で…。
暗闇の中、日本各所で開始された解放戦線。
始まりは流石の倉橋となり、全箇所無事に着艦となっていた。
そして同じく全箇所ブレーキをかけられて、
早々の戦闘開始となる…。
『武士道に反すると思うか?』
ベニスゴールド川端の発言の意図を問いたいが、リーダー(仮)ピンク牧野には見えていた。
『最優先事項に勝るものなし、です』
その答えに満足した川端、指示を促す。
『狙いは中央の流暢!全員で一気に切り崩しましょう!』
年下なので、と言葉を選べている内は余裕がある。
牧野には十分な自信と余裕があった。
脇を固める初代ベニスレッドの存在も大きいが、
何よりは今まで戦ってきた仲間に対する信頼とか、期待とか。
そんなモノが芽生える時間を過ごしてきたという自負が、
彼女の背中をぐいっと押すのである。
(杉本さん、力を、私に…)
彼女の中でどこか諦めていた部分、レッドの消失。
あの日の繰り返し、戻らない日々。
その部分が顔を出し、神格化するレッドに嘆願するのである。
これ以上、誰も失わない様にと…。
中央にて陣取る黒い影、脇を固める2体の影、合計3体が侵入を阻む。
逆にこちらは5人、約倍。
まぁ約1名戦えるのか不明なのだけどね。
『私とゴールドは前衛、残りの3人は後衛から!』
三角形となり、中央穴を開ける、単純かつ明瞭なるプラン。
まぁ、後衛扱いされた者達に不満が無いわけではないけど。
(それはそれで重要な役割なのだと心に念じる…)
名刀、それは使われてこそ。
飾るだけの物に、なんの価値があろうか。
川端の持論ではあるが、彼はそれを常に体現している。
今回もそれにならい、鞘からシュッと。
【残月・改】昔ながらの名刀を近代科学にてより洗練させた業物。
ベニスゴールド専用、とも言える。
当然、彼のシュッは普通ではない。
『紅一閃…』
出してから言うのはテレビ的ではないよ、とか思いつつ。
川端得意の技にて不意討ち、となる。
それは横に広がり、3体の異生物を一気に凪ぎ払うのである。
『…ほう、中央の、やるではないか』
掌をかざすのみで受け止めた中央、そこには余裕しかない。
まぁ、真っ二つに裂かれた両脇の2体を見る限り、ゴールドの業が低攻撃力ではないと分かる。
中央の奴が、強いのである。
川端はそのまま一気に単独攻撃を仕掛け、
中央の動きを制限していく。
『ここは引き受けた!皆ゆけ!』
目的がある、この円盤を制圧すると言う。
ここで全員が足止めを喰らう必要なんてない。
それが最優先、だから牧野もそれを最良と信じ、ゴールドの力を信じ、託す。
『先に行きます!後で必ず!』
4人は中央を脇を走り抜け、人類が誰も成していなかった円盤内侵入を果たして行く…。
『ほう、邪魔することなく、か』
更に気に入る川端、なかなかの男気ではないか。
『私に阻まれぬとも、未来は見えている…』
ゆっくりと抜かれて抜く川端の背丈ほどある長剣。
かなりの重量を感じさせるが、それを感じさせなく振るうのか。
『名を聞こう』
ゴールド内の侍魂が震えている。
武者震い、いや恐怖なのか?
『我が名はハレンド・カナール、この艦の護衛長である』
できる、間違いなく…
彼の歴戦の黙示録がざわめいている、
未知なる戦いに堕ちるとの予測が、おそらく現実になるのだろう。
『我が名はベニスゴールド、いざ参る!』
円盤の上にて、日本の戦い最初の幕は上がる。