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③ー28

ー28


それは米軍基地内で始まった。

沖縄にあって沖縄ではない他国、アメリカの所有地。

『ベニスに出動要請だ、アメリカ本土より』

それを承けなければ現在の形には成らなかったのだが、

逆に今ほどの強さは持ち得なかったかもしれない。

起こること、決断したこと、その全てが自分にとってのプラスであると理解し。

間違いなど無いと胸を張れるには、

皆まだ幼かったと言える。

『マシンガンとか戦車で勝てないモノを、俺たちが?』

ビル3階相当のサイズの怪人を見上げつつ、

沖縄ベニス5人は、誰からとなく後退るのだ。

その数センチで勝負は決まり、彼等は撤退を念頭に置きながら開戦する。

勝つことより、生きることを優先する者に、

勝利など与えられる訳がないのに…


『到着予定…0時半?』

不満はある、事前に確かめたいことだってある。

なのにこれでは、ほぼやっつけと、ぶっつけにて本番ではないか。

東京は何を考えているのだ…。

まぁ、一番近いのだから後回しが分からない訳ではないのだけど。

それにこれを愚痴としてこの人に投げた所で、何ら変化は与えられないだろうし。

『縁起でもないことを言うと、最後の晩餐だ…心して食え』

門倉の心に悪意はない、面白いと思って言っているのであり、

緊張とやらを解したいのであり。

『門さん、笑えんよ~』

ご馳走されてるから遠慮している、ではない。

彼の心使いを理解しているから、受け流すのだ。

誰も傷付かない方向へと。

…まぁでも確かに、その可能性はある。

兄弟揃ってとなると、更に不安。

敵は今までとは違い、強力で強大。

遠くからの映像ながらモスクワ戦線は強者の集まりで、

果たしてあの中で生き残れていただろうか疑問である。

…兄・藤園 良典はゆっくりと頭を巡らせる。

そしてひとつだけ、心に誓う。

(居なくなるのは私だけだ、それ以下はあっても以上はない…)

弟を守ること、それが彼の生きる意味であり、

微かに残る母の記憶、そこに残された記憶。

(守彦をお願い…か)

絶命の瞬間に出た名前が自分の方ならば、

ちょっと違った人生になったかな?

とか思いつつ。

まぁ人間の本質が簡単に変わる訳もないので、

きっとこのままの自分なのだろう。

自身ではなく弟を優先する存在として、

別世界の自分も呼吸しているハズだ。

過去も未来も、時空さえも、越えた先でさ。


人生と運命、それが願い通りになる者と、まったくの不愉快なる塊となる者と。

その差はどこにあるのだろう。

一番簡単なのは前世の行いというやつだ。

前世のポイントにて、来世が決まる。

…ならばその決められた来世で何を成せば、来々世に願い通りとならせて貰えるやら。

答えなんて…

『…さん』

大阪ベニスとして暮らしてきた日々に不満なんてない。

だが不愉快が無かったわけでもない。

失う予定に無かった者の事を思えば、な。

大阪ベニスの隊長、ベニスレイブ事【流源 幸四郎】は、

ベニスクィーン【美咲 翔子】の煎れたる紅茶を楽しみつつ回想する。

この貴重な時間を妨げ、私の名を呼ぶのは…

『宮下さん、策が整ったのですね?』

作戦の立案は、まずベニスクリスタルの

【宮下 徹】が行う。

それを流源が判断し、決行となる。

まぁ、これに関しては異を唱えた事はない。

彼の立案は完璧であり、これで成せないのなら、

それは実行者の問題なのだとの見解。

『…貴方にしては、空欄が多いですね』

円盤内に入るまでは、さしたる問題もないだろう。

だが、幾ら彼が机上の空論体現者だとしても、

分からないものは立てようがない。

内部構造及びターゲット、全てが出たとこ勝負である。

『残念ながら、つまらない時間でした』

宮下は上司に軽く会釈をしつつ、その場を去って行く。

それを見送りつつ流源は思う。

(本当につまらなくなるのは、きっとこれからさ…)


東京ベニスピンク、そんな言われ方をされてもピンとは来ないが、

一応そういう名称にしないと分かり辛いそうで。

ま、その点は納得する所であるが…

『小杉統括、時間よろしいですか?』

納得出来ない事に対して声を揚げるのは簡単である。

まぁ、それがちゃんと伝わり納得出来るように変化されるかは、

期待と不安の塊であるが。

統括室にて待機中だった小杉は頷くことで了承し、先を促す。

『捜索は、どうなっていますか?』

ここに居るべき人がいないのだ。

この大問題は最優先されるべき事のハズ。

それが納得出来ない。

この現状が理解できない。

『羽田は奴等の管理下にある、今は人員を割ける時にない』

何度も聞いたフレーズに、牧野の心はより濁る。

『救助を求めている人がそこに要るなら、行動すべしです』

彼女等だけではない、もっとあの周囲には求めている人達がいるってのに。

命の価値を感じている同族が。

小杉はゆっくりと立ち上がり、牧野を見た。

その目には彼女等の安否よりも優先される事柄が、潜んでいたとか。

『そうだ、だから我々は奴等と戦うのだ』

羽田空港を取り返すことよりも、この関東の中心を震わせる事。

それが我々の責務となり…。

牧野はそんな解答を予測していた、だから次の発言は予定の範囲内。

『震わせるには戦力が足りません』


小杉は窓からの景色を眺めつつ、東京はこんな夜でも見事な夜景を魅せてくれるのだ。

大したものである、とか感じつつ。

『残念ながら、あるかないかも不明な戦力には、期待できない』

牧野は考えない様にしていた、その可能性を。

『彼女等はもう居ないかもしれない、この世界にもう…』

こんな時の夜景は滲みる、だから泣いて癒したくなるなと。

『牧野、君が東京ベニスレッド代行だ!』

突然振り返り、何を言うのだ?

『…私よりも経験豊富な…』

『君しかない!』

人の話を遮るのはダメな行為って、教えてもらってない?

『杉本の感覚に一番近いのは君だ、だから引き継ぎ、そして渡さなければならない』

誰に?

彼女に?

次の世代に…?

『色はピンクのままだ、それは変更なしだ』

どうやら何を言っても返事は同じようである。

だから今は…

『レッドが戻るまでなら…』

新しいレッドが…ってだけは、言うもんか!

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