③ー20
ー20
ヨランダが選んだわけではない。
この場所とこの身体を。
だが幾つかの巡り合わせにてここに居て、
そして出会ってしまった相手。
『その体、そうか可哀想に…』
人間である、あくまで見た目は。
これが相手か、本当の肝となる相手。
ザグナス星人。
『君の80%が人ではない生命体に支配されている…私が解放してあげよう』
紫色の長い髪をサラリとかきあげ、その男性?はこちらを見つめている。
哀しき眼と、偽りの無い表情で。
身長は2メートル無いくらいか、一般的地球人よりも大きめの体。
『エントロール…君を解放する者の名前だ、覚えておきなさい』
ヨランダは80%と分析された獣の部分、
その本能で理解していた。
勝てる相手ではない、と。
願わくば1秒でも長く、この場に留まりたいものだ。
エントロールは静かに伸縮式の矛を取りだし、クルリと回転させ構える。
その流れがあまりにも華麗で、ヨランダの心を鷲掴みである。
…支配下に治まりたくなる程に…。
『ヨランダ、さようならだ』
儚い1秒が始まり、それはあっけなく過ぎ去る。
ヴァルヴァラは高台より下方を見つめる。
自らの担当区域は優勢に進んでいる様子。
『うんうん、そうそう』
作戦通り、その言葉が当てはまり、彼女は満足である。
だがやはり他所と同様に居る訳である。
部隊長的なのが。
『はぁー、ヤダ。変なの居る…』
ヴァルヴァラは腕まくりをし、その地へと赴くのだ。
『痛っ!何なのこの道…』
文句多き彼女は、ようやく現地へと。
鞭の遠心力でその速度は増される。
それにより、足りないものを埋めるのだ。
だが、消える。
目の前から姿は消える。
それでも得意の勘とやらで感じるのさ。
白銀の甲冑の行く末を。
アデリーダは自らの周囲をまんべんなく破壊しつつ移動、
常に距離をとる作戦である。
一方のクラナハッナは近接攻撃主義者にて狙い続ける、
アデリーダの懐を。
ある意味分かり易い図式。
入ったら勝ちと敗け、単純なる話である。
それを良く理解したるアデリーダは手首によりしなりを与える事でギアを上げ、
鞭による防御壁を強化してゆく。
入れるものなら、入ってみろ、と。
まぁ、それをどう思っているのかなんて表情から読み取れないので、
看破しようもないのだが。
読み取れない…?
アデリーダは直感で理解した、彼の本質を。
そう、心だか脳波だかを読み取れるのだ、きっと。
体ごと消えるなんてあり得ない。
見ていない方に移動するだけの事、つまりどんなに激しく鞭を振り回そうとも同じ。
どこへ振るかが筒抜けなら、ば。
(死は平等…)
彼女は思い出していた、幼き頃の人だった時代の記憶を。
どんなに金持ちでも、命だけは一つしかなくて、替わりは買えなくて。
近所の一番の富豪の子、嫌いではなかったがあっさりと事故死した。
さよならのキスも、別れの挨拶も何も無し。
だから自分にもいつか訪れる死の時、
きちんと受け入れよう。
先立った人達に、笑われないように。
アデリーダは手を止めた。
だが受け入れた訳ではない。
死は今ではない(ハズ)
アデリーダ先程捨てたサーベルを再現させ、目を閉じた。
この戦いに先手はない、後手から勝機を見つけるしかないのだ。
無心で待ち、その迫り来る刃を受け流すのだ。
本能のままに。
人間部分にはきっとない、だからフレダストの部分に賭ける。
(…戦闘民族じゃ無かったような…?)
それは邪心、消しきれなかった人間の弱き部分。
クラナハッナはそれを見逃すことなく猛進し、一撃にて葬るのだ。
ニコイチになった、その体を元の状態へと戻すかの如く…。
ヴァルヴァラが現地へ到着した時、周囲の部下は全て消失していた。
間違いなく、この者の仕業である。
身長と言えば良いのか、全高と言えば良いのか。
まぁ、何にせよデカイ。
二階建ての一軒家、そんな感じだ。
でも一応の人型なので、身長で良いのかな?
とか思うヴァルヴァラ。
《何用か知らぬが、去るがよい…》
心に響く不思議な感じ、いや不思議と言うより気持ち悪い…。
《我が名はドレンバス、ダルサーマ親衛騎士団である…》
知らんがな、と言いたい所をグッと堪える。
まぁ、事実刻まれているから、知らない訳でもない。
『ダルサーマねぇ、良い噂聞かないよ?』
それは光栄だとばかりにニヤつくドレンバスと名乗る巨体。
その肩部分が小刻みに揺れ、ツボなのだと示している。
何が面白いのやら?
《我々関連の噂で、良いものが出たことなど無い》
あぁ、そう言う事ねと理解する。
まーだからどうは、ない。
あるのはひとつの事実。
『…そんな悪い噂軍団も、ザグナスには及ばない?』
肩の揺れが止まった、それの意味するものは何だ?
《奴等はあまりにも巨大、全てを飲み込み包む存在…》
憎しみ?
いや恐怖?
ちょっと人型からかけ離れているため、判別が付かないのだ。
《奴等には選択肢がひとつしか無かった、与えてはくれなかった》
顔と思われる箇所から滝が流れる、そして先程とは違う意味で体が震えているではないか。
《…この無念と不燃、今は耐えるのみ…》
案外この人?はお喋りなのだな。
次々と頭の中に言葉を注ぎ込まれて、少々満腹である。
だが、ヴァルヴァラには分からない事がある。
『ねぇ、今じゃないってさ、いつ来るの?』
煩かった言葉の注入は、一時停止。
それをふまえて、彼女は印を結び契約を結ぶ。
それはフレダストの力を全解させる合図。
人とフレダストの融合ではなく、純粋なるフレダスト星人に少し人間が混ざった程度の体を持った彼女の戦闘モード。
『教えてあげるね、いつかじゃ無くて今だって事を』
遠目からでも、彼女の体が張っていくのを認識出来た。
それは本質、フレダスト最後の生き残りの得意科目。
彼の娘とも言えた、ヴァルヴァラのスタイル。
《やるがいい、やれるならばな》
小刻みな呼吸と、武術の達人を思わせる型を魅せつつ、ヴァルヴァラはその時に備えるのだ。
自身の存在意義を証明するためとか、なんとかで。