③ー19
ー19
『うむ、そうだ。そのデータで制作を開始してくれ…』
回収した盾【命の傘】、これのデータを直接採取し、その最終型をデータ上にて作成した倉橋は、信頼度8割強の部下【板倉吾郎】宛に送信し、即座に作成を命じる。
『本部戻る頃には完成?』
一通りの作業は終わったぽいので聞く。
それを少々窶れた感のある倉橋は答える。
『信頼度8割強の吾郎くんだぞ?』
知らんがな、と心で叫ぶ小杉は同時に思う。
(いくぞベニス、ここからは俺達日本のターンだ…)
『…うむ、いつみても美しい』
竜泉流の舞いに魅了されるのは恥じでも非でもない。
それを彼の目が語っている訳で。
歴代レッドの心を虜にするその演舞に、ファンは多い。
『案ずるな、主らにあそこまでは求めとらんて』
床で転がる2人に投げ掛ける川端、それを半ノビの2人(岡林・御堂)は受け止め、
一応何かを返杯しようと試みるも体力の限界。
『ゥス…』
っとだけ。
(心の中では求められても困るわ!とか思ってはいるのだが)
まぁ確かに、川端は求めていないが、
少なからずここ最近の動き、悪くない。
それどころか川端の予測を上回り始めている場面も。
(後数ヶ月待てんかったか、来訪者達よ)
心の叫びが、表に出ることはない。
出したところで、この2人の実力が飛躍する訳でも、やっぱり3か月後にもっかい来ます~と、
なろう訳もなく。
今出来ることを、今最大限に発揮する。
それのみである。
『川端さん!』
オペレーター兼統括代行の石原が入室、何やら慌ただしい。
石原は整わない呼吸にも、乱れた髪の毛にも構うことなく続きを吐き出す。
『盾は間もなく完成です!…後ロシアが!』
SF映画で良く観る光景である。
まぁ、普通味方側は人間タイプであるのだが。
今回は違うので、どちらが味方かの判別は難しい。
『川端さんの言う通りでした…』
ロシアは待つタイプではないから、いつ動いてもいいように、見張っててくれ。
ゴルグエフ島よりの3隻、それに準じ送り出したドローン。
そしてそれが送ってきた映像。
異星人VS異星人の戦い、人の姿なき所での地球所有権争い。
醜くも美しい戦いの調べ、観るものの心を揺さぶるほどの戦いである。
『やはりロシアは隠していたの?』
見れば分かる事の一つが、ロシア側の異星人がフレダスト寄りであるということ。
『完全に把握していた訳ではないがな、どうせそうなのだろうな、の世界だ』
懐かしむ目、ともいえる川端の表情に、
なんとも言えぬ感情を抑えられない牧野。
奴等は憎むべき敵だったのに、それが今地球側として戦っている。
自らの意思ではなく、地球人に命令されて、従されて…。
『まぁ、お手並み拝見といこう』
オペレーション・ルームの扉は開かれ、そこに現れたるこの部屋の主。
『統括、もう戻らないんだって思ってましたよ』
『まったくだ、しぶとい男だな』
現戦力のトップ1、2の二人のご機嫌取りも大事さ~っとばかりに
話を合わしてゆく元父親の顔を見つつ。
自身が安堵している事を受け入れている石原主任。
やはり、血の繋がりは何よりも深い、か。
全てが終わったら、もう一度考えてみよう。
昔の3人には戻れなくとも、違った形があるのかもしれない。
それを見つけよう、ゆっくりと。
『さぁ統括、我々も…!』
その先は要らない、分かっているのだから。
親子の縁が、あろうが無かろうが。
『総数生産終わり次第、各所に配布…』
小杉は溜めた、そして込める、日本人の魂とか何とかは、分からないけど(とにかく込める)
『日本はベニスで…反撃だ!』
各々が声を揚げ、この時を待ちわびた事を全身で表現する。
前線で戦う、戦わないは別問題。
㈱ベニス戦隊としての活動である、担当が違うだけで、その意思は共通項。
奪われたものを、取り返すのだ。
例えその結末が、期待と離れたモノであったとしても、突き進むのみ。
ベニス戦隊の名にかけて…
人としての記憶、それがこの行為を否定するのだろうか。
アデリーダは自身の内側に芽生えている違和感に気付いていた。
それはなんとも心地よくて、現状の凄惨さを薄れさせてくれる。
『1対1でやりあうな!常に3身にて!』
最低限の言葉は理解できる様になっている、か。
それでも返事がない事に不安はある。
結果として半数以上がチーム行動をしている風なので、
由とするのだが。
(右辺のあの個体…奴等では不可、か)
アデリーダは親指の鞭を手の甲側から一周させ掌にて握りしめる。
そして硬化させてサーベルを精製、対決相手に合わせた変化となる。
右辺に見えるは銀色の戦士、中世ヨーロッパからタイムワープして来たかの如く出で立ち。
(人から異物となった私が、人の様な異物と争う、か)
変わらぬ口角、だが本人的には最大限にニヤケてるそうで。
『さぁ、どちらの甲冑が異物か、ハッキリと決めようか!』
アデリーダは軽やかにジャンプを繰り返し、目標とする銀色の戦士の眼前へと舞い降りる。
『我が名はアデリーダ、そちらは?』
発言して気付く、ロシア語が分かるはずもない、か。
そして何よりアップで見てみて分かる。
口が無い事と、そういった知力を持ち合わせていないだろう事を。
それは残念である、やはり語り合いの中から切磋琢磨が理想の…
《名はクラナハッナ、ダルサーマ親衛騎士団である》
そう、心で語れるの…
アデリーダは素直に感動し、返答の仕方に悩む。
試しに心で語ってみたい所だが、それで無音の時が続くのが怖いので。
『そう、やはりダルサーマからの…ザグナス帝国からは全体のどの位かしら?』
答えるはずだ、忠誠の意味が違うのなら。
従いたい相手と、従わざるえない相手と、
それぞれ対応は異なる訳で。
まぁ、答えるかどうかはどちらでも良いのだ。
アデリーダの目的はこの銀色の戦士を止めておくこと。
十分に果たしている。
《こんな小惑星、ごく一部で十分である、と》
そう言いつつ、戦士は両刃のサーベルを構える。
これ以上は語るつもりはない、か。
それならそれでも良い、かなり楽しませてくれそうだし。
…相手はどう思っているだろう、同じように楽しませてくれるとの見解だろうか、はたまた期待か。
もし期待なら、それに答えたいと願う。
結果失おうと、良いではないか。
《クバサスナーラスゥルー》
それ、必要?
なぜ心音に乗せて伝えるの?
なんの呪文かなんの宣言か知らないけどさ。
アデリーダは斜に構え、クラナハッナと名乗った存在の行動を待ち受けるのだ。
(甲冑が薄く輝いて…綺麗ね)
そんな思量に落ちるのは、精神が落ち着いているからであり、
現状に満足しているからである。
この者は強者であり、私を満たす存在である事が、映像からひしひしと伝わるのだ。
心の高揚、抑えられる訳もなく。
(…くる!)
大気の震えとか白銀と化した甲冑が輝いたから…
とか色々あるが、詰まるところは勘。
そしてそれは正解となり、クラナハッナの斬撃は、アデリーダへと振り下ろされる。
…アデリーダには確信があった。
人であった時の流れと、異物となった今では、
まるで違うと言うことを。
だから人のままでは越えられなかった壁が、
この姿ならいとも容易く越えて行ける。
それが嬉しいやら、悲しいやらだが。
《クワァッン!》
その叫びと共に迫る両刃の剣、それを受け止めるは親指より産み出したるサーベル。
2つは重なり、耳障りな雑音と轟音が混ざ合った異音と共に訪れる静寂。
アデリーダは自身が産み出したる物にて、この者の抱きし剣を止められる事に、
まず満足。
では、次なる満足を獲ようか…
アデリーダは刃を滑らせてスライド移動。
そしてそのまま背後に回り込み3連撃。
力は同等、ならば速さは?である。
多種の想定はしてあったが、体ごと消える、は無かった訳で。
アデリーダは悪寒を感じた側より緊急離脱。
同時に現れる両刃の剣と消えていた体。
なるほど、速さは勝負に成りそうもない。
それはつまり、自身には勝つという選択肢は無い、との事。
それが現実、突き付けられたリアル。
『ふー、まいったわね』
一番のまいったは、私では彼?を満足させられないという事。
それは辛い、同じ種族の異物としては。
だから止める、相手に合わせた変化を。
アデリーダは固めたサーベルをグニャリと変化させ、
本来の使い道へと戻す。
それは鞭、フィンガー・ウィップ。
彼女は何度か地面に叩きつけ、その感触を確かめるのだ。
『はい、お待たせ、ごめんね』
明らかに待ってくれていた彼?に謝罪し、
再開。