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③ー18

ー18


私が愚を犯したのではない、アメリカの大統領なら同じ事をしただろう。

そして同等の結末に至ったハズだ。

ハデス大統領は自室に籠り考える。

だが我々はこの地域の旗艦(と思われる)を叩いたのだぞ?

それで何の見返りもないのか。

まぁ、確かに旗艦代行~更に代行を繰り返すだけかもしれないが。

奴等には恐れを与えるに十分な攻撃だったのではないのか。

『…所詮は相討ち、か』

いやこちらの方が痛手は大きく、あの地には孫の代まで戻れないのだから。

最低限、奴等の方が痛手が大きくなる手法にて、あの円盤を葬らねばならない。

それが核ではなく、そして我々ではなかったということか。

『ロシア…お前達はどうするのだ?』


古き時代よりこの大空を舞うAn-22アンテーイ、ロシアの戦略輸送機である。

今回運ぶのは人の形をした兵器、最大積載の290名は下回るが、

今載せれる分は積み込んである。

その数、160と1、そして×3機。

トゥリ・セストリィと命名された3体が

それぞれ部下を引き連れて載っているのだ。

彼女等はフレダスト星人シューレの忘れ形見。

血肉を与えられた状態で保存されていた面々。

それをロシアが掘り起こし…である。

各々が別の液体に浸からされていたので、

シューレなりにフレダスト星人再生を模索していたのだろうが、

志半ばにて終演となる。

『アデリーダ、現場に到着次第行動を開始せよ』

形式上の長女アデリーダに指示を飛ばすのはワレンチン・ヴォルコワ。

隣にはいつもの通りアレクセイ・ゼノフと、こういった内容の仕事には欠かせない二人である。

『…本当にこちらの意図通りに動きますかね?』

心配性というかは、常に疑問符を投げ掛ける担当のゼノフ、

今日も迷いなく投げつけるのだ。

『まぁ、データ上はな…』

今日の提督は口数が少ない。

やはり良くは思っていないのだろうか。

はたまたステイシア・ロスの影響がまだ強くて?

『…長女が上手く仕切ってくれるさ』

カプセルから出した順番なだけでしょ?

とか思いつつ聞き流すゼノフ。


『ヨランダ、ヴァルヴァラ、準備は?』

返事を待つアデリーダの姿はまるで甲冑の騎士。

硬質化された皮膚を重ね鎧を形成。

そこに血液の赤が混ざり赤黒く光る訳で。

右手には親指を伸ばした鞭があり、近接行動を得意としたタイプであると分かる。

『こちらヨランダ、問題なく』

次女ヨランダ、少しテンションは低いのだが、ある意味生まれつき。

さしたる理由なんて無い。

彼女は他の動物との三種混合なのか、体毛は獣のように伸びて、

耳も頭上へと移動されている。

(見るからに狼との掛け合いか?)

『ヴァルヴァラ~いつでもいいよ!』

三女のヴァルヴァラ、見た目の違和感はなく普通の女性である。

軍服を女性が着ると、なぜこんなにも興奮するのだろう…的。

まぁ、美人というかは可愛らしさを強調したタイプなので、

そこまでではないが。

そんな面々を載せたる3機のアンテーイはゴルグエフ島よりゆっくりと南下し、目的地を目指す。

モスクワを、奪還するために。


ソ連時代まで遡っても、こんな屈辱は無かっただろう。

首都を占拠される、国の首謀者は逃避する。

外部にはいっさい公表されぬ機密事項である。

なぜロシアだけ奴等は動いたのか、その説明はない。

巨大円盤よりの小型挺と、地球外生物による直接的占拠。

『あれがザクナス星人だ、と言われれば仕方ないですが…』

ゼノフは端末にて写真を表示し、ドローンの隠し撮りにて撮影した占拠者の姿を重ねる。

『ほぼ間違いなく、あれはダルサーマ星の兵士ですね』

そもそもその端末の写真と星人名が分かる理由を問いたいが、

今はそれに構っている時間はない。

『つまりは、滅ぼされた星の者が戦っている、と?』

理由はなにかあるのだろう。

仲間を護るためか、はたまた自身の野望か欲のためか。

『資料によるとダルサーマ星人は好戦的で野心家だそうですね』

気になるよゼノフ、その情報の仕入れ先…

『ロシア攻略担当のダルサーマ星人が、待ちきれずに戦闘開始、か』

その後が続かないところをみると、御大のザクナス帝国にキツく叱られたかな?

『奴等も所詮は1枚板では無い、か』

その[も]は地球の事を意味するのだろう。

『付け入る隙があるとすれば、その辺だが…』

それよりも今は、奪還である。

3方向よりモスクワに進入し、速やかに排除、そして奪い返すのだ。

円盤の攻撃の対応に確約はないが、真下に行かなければ致命傷にはなるまいて。

『提督、3隊予定通りのポイントに到達しました』

うむとだけ発言し、作戦決行となる。

地球のために、地球外の者達が争うという不思議なる時間がこれより始まる。

人はただ、傍観するのみ。

今はそれしか、権利を与えられないのだ。

無力なる人類には。


問題は円盤ではない、ダルサーマ星人の戦闘力こそが問題となる。

はて、この160体で対抗できるだろうか。

そこが一番の問題なのだ。

アデリーダは回りを見渡しながら考える。

可能性として私自身のみしか対抗戦力とならないのではないか?

そうならば160体の出撃は無駄であり、大事な駒の損失は避けたい。

かといって、あの数である。

私自身のみで対処出来るとも思えず、と。

その辺まで思考して、アデリーダは微笑んだ。

私自身に、その選択肢はないのだ、と。

考えるだけ無駄なのだな、と。

私は見渡す部下を極力守りながら、自身の攻撃量を最大にして暴れるのみだ。

それは他の2機にも同じ事が当てはまり、

ヴァルヴァラに至ってはその戦闘力に疑問符がつく。

…まぁ、そこはアデリーダが知らないだけのこと。

ヴァルヴァラの戦闘力は、彼女を上回るのだが…。

『二人とも、死ぬんじゃないよ』

元々は人間である。

シューレの血肉を得て、不確定なる生命体に変えられたが、

心の奥底までは替わらない。

それをアデリーダの行動が証明し、逆にその声を完全に聞き流しているヨランダに、

変わらずとも蓋をする事可能なんだと分かる。

『死ぬわけ無いじゃん、私だよ?』

その自信の本質を知りたいのだが、残念ながらタイムアウト。

一気に高度を下げ着陸、そしてそのハッチは開かれる。

『よし、全軍出撃!』

決まった言葉には反応できる様に教育成されている160体は蠢きつつ走り出す。

目的は敵と認識したる物の排除。

自分以外の479体と3体以外を敵として排除するのだ。

ダルサーマ星人を筆頭に、生き残り隠れて暮らす人間も排除対象となる訳で。

その事を理解しつつ、ワレンチンは見ない。

見ている場合ではない。

モスクワを奪還することが、全ての最優先なのだ。

自身や、トゥリ・セストリィや、480体の化物がどうなろうと、

問題ではないのだ。

それだけは覆ることの無い真実となる。

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