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③ー16

ー16


生まれ変われるなら、そんな問いに応えるほど暇ではない。

出羽の中には常に現時点の出来事と、これからの出来事しか無い。

死んでからのことなど、死んでから考えればいいのだ。

『私は、今も昔も、そして未来も。…出羽です』

酔った席の事、特に意味などない。

だがマスコミ様は大きく、無意味に取り上げる。

そこに何があると言うのかを、教えてほしいものだ。

大切なことが含まれているなら、そこを見せてほしい。

さすれば私は、精一杯の力で頭を縦にでも横にでも振らせていただくのだ。

それが、国民の為になるというなら尚更に。

『総理…お時間です』

好きか嫌いかで言うなら、嫌いな時間。

大した志も持たぬ馬鹿共と、一体何を語り合うというのだ。

それこそ貴重な時間の無駄である。

(だったら家族と過ごしている方がマシだ)

臨時国会、その意義を問いたい。

絶対に、私を納得させる答えは帰ってこないのだから!

『国民に納得のいく説明と、そして明確なる今後の展開を示すべきです!』

彼らの存在は、正しいと思っている事に対して、もしかしたら違うかもよ?

こんな着眼点もあるのよ?

的な指摘及び代替え案を示す為であろう。

示さずに文句だけ言うようでは、民度の低いマスコミ様と同じではないか。

高い税金にて給金を頂いているのだろう?

たまには働いて貰わないとな…。

『内閣総理大臣、出羽くん』

司会進行役の議員に君付けで呼ばれる苦痛。

これをなくす議論をしている方が、よっぽどマシだわ…。

『…言うのは簡単ですよ?』

前のめりになる出羽、顔に幼き悪戯小僧の笑顔を浮かべつつ、足していく。

『日本人並びに世界人類は近々滅びます、無駄な足掻きは止めましょう皆さん、と?』

特に彼の心を高揚させる報告がない以上、不機嫌さは増していくのみであり、

こんな臨時国会が更なる無意味さを演出している事に、

彼の怒りは最高潮である。

『諦めなければ、結果が着いてくる!』

出羽の言葉を遮る声。

はて? 仕込んだ覚えはないぞ?

『高原くん』

普段は無用だが、ようやく役立ったな…と司会進行を見つつ目線をスライドさせる。

そしてその発言者を凝視して行く。

(…まぁ、名前で知らないんだ、顔も…な)

高原源内、初代ベニスレッド川端の意思を引き継ぎし男。

5代目、ベニスレッド。


『冗談でも許されない、だから本気なら…もっと許されない!』

高原源内(42)…確か無所属で突然当選した1年生議員だ。

挨拶をした覚えはないが、確かに記憶にはうっすらある。

(ような気がする)

『少しふざけが過ぎた事は謝罪するが、ある意味の事実』

前のめりの身体を起こし、前方を凝視する。

そこにいる一年生議員、そしてその瞳の奥の焔。

なるほど、何を思ってここに来たのかは不明だが、

これは手強そうだな。

『そんな顔をするのだから、考えがあるのだろう?』

それを言ってみろよ、と出羽の顔が語る。

それを一年生議員は、受け流す。

『それを発表するのは私の使命ではない、貴方の…』

高原はクルリと回転し、自らの席に戻っていく。

そして座りつつ、続きを放つ。

『それが貴方の使命でしょう?』


出羽龍之介、として生まれてきた以上、

私には使命という呪縛しかない。

世間が言う【お受験】を経て、本来の実力のみでの受験。

入学後も全校生徒、否全国のトップであれと、毎晩のように聞かされる戯れ言。

これが次男であったなら、もう少し違う人生になったはずだ。

(現に弟は自身の人生を謳歌している)

だからといって、この生まれを呪ったことなどない。

私は私で、この人生を謳歌しているのだ。

全人類のトップであれ、と。

『その使命を、今ここで話す意義がない』

作戦は極秘であり、世間が知る必要はない。

高原は立ち上がり、発言許可を求める。

司会進行役の議員、今度は使えない。

そんな奴に許可を出す必要などないのに…。

『不安なる国民に、生きる力・希望を与える行為に意義などない、と?』

やけに食って掛かるではないか。

彼の中に何があると言うのだろう…。

『作戦遂行上、公表すべしではないと言う…』

『みんな、知ってますよ』

みんな、とは誰を指すのだろう?

『ベニス戦隊、貴方の子飼いのウジ虫共だ』

彼の名前は高原源内、5代目ベニスレッドにして、川端の意思を引き継ぎし者…?


『防衛費の一部を、回してるそうですね…こんな得たいの知れぬ民間企業に』

国家支援プログラムの一環、将来日本にとって有益となる企業をバックアップするという、あれだ。

軍事費からの唯一の出資、だがそれは彼等の日頃の活躍を思えば容認できる範囲内ではないか。

『国民の血税が年間億単位で使われている…彼等の活動は、国民が知るべき情報である!』

出羽は、考えていた。

この展開に至った経緯と落とし所を。

まぁ、落とし所等はいくらでもある、問題は経緯。

出羽は机の端末にて検索する、高原源内という名前を(議員名簿より)

(…なるほど、これは一筋縄な話ではないな…)

自己申告欄に無い、元ベニス戦隊所属の文字。

元居たところをウジ虫扱いするのだ、何かあったのだろう何かが。

だからと言って、それが何だというのだ??

今は私怨の話をする時ではない、全人類の存亡の危機なのだ。

どんなに恨んでいても、明日になったら消え去るではないか。

…だからか?

怨み晴らさでおくべきか?

ならば彼は命懸けだ、死も失職も恐れず突き進むだろう。

己の意思を完遂する時まで…

『出羽龍之介くん!』

何度か呼ばれていたらしい、思量に没頭するとは、私も老いたか?

心の奥でフッと笑いながら、彼は発言する。

『では、警察も我々も、活動情報の全てを開示する必要があるな…』

出羽は周囲を見た、さぁそれに耐えられる議員はどれだけいる?

『同じ税金でも、意味合いが違う!』

そうか、コイツは耐えれるのだな。

歴以前に、私腹を肥やす為にここに居る訳ではないのだからな。

ならばなぜ、コイツここに居る?

ベニス戦隊をどうしたいのだ?

…正確な目的を知る必要があるな。

『人民と治安を護る事、それの意味合いは同じではないか?』

『ならば自衛隊等に特殊な部隊を編成すればいい、…あんな得たいの知れぬ組織に任せる事もない』

なるほど、と出羽は思う(仕草をする)

『君が許せないのは税金を使うことではなく、ベニス戦隊って組織が許せないのかな?』

分かったことを聞く、そしてその反応で考慮するのだ。

どこに落としたいかを…

『いえ…少し違います』

なんだ?

声のトーンが下がった?

『貴方みたいな支援者が無ければ、ここまで企業は大きくならなかった…』

そう言いながら、高原は左ポッケよりボールペンを取り出す。

紙もないのに?

キャップ、付いたままなのに?

『貴方みたいな支援者が無ければ、ここまでの血は流れなかった…』

ボールペンにて人を指差す行為は、社会人としてどうかと思うぞ?

その刹那、殺気。

それは出羽にのみ向けられたもの、他の平和ボケした議員に感じれるものではなく。

『貴方で最後、です…』

ベニスレッドと成る時に、習熟したる技がある。

その中の一つ、ベニスブレッド。

納刀したままの鞘を弾丸の様に飛ばすアレだ。

それを彼は使用する、ボールペンにて。

高原よりの殺気にて固まっていた出羽の体が、後方へと予約無しに飛ばされて行く。

圧迫された胸に痛み、そして飛ばされ打ち付けた背中の疼き。

なんだ?

私は何をされたのだ…

理解できない出羽の思考は、ゆっくりと停止して行く。

それは儀、別れの儀式。

『出羽総理!』

無用だった司会進行役の議員の声が、彼の耳に残り、消えていった。

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