③ー14
ー14
2発の核攻撃から既に30分、奴等からの返答(つまりは報復攻撃的なもの)はない。
『…特に痛手となるものでもないからか、単純に律儀なのか』
相手を滅ぼそうと欲する者達に、律儀もクソもないのだが。
だから…とハディスは思考する。
意に介さぬ程度のモノだったのだと。
我々の母星を、大地を犠牲にした一撃など、
覚悟など、その程度の価値しか…。
『大統領…』
首席補佐官ボルドックの声に反応する体、
そうだ終わったわけではない。
『今、各所にてプランBを作成中です』
プランA-nextは実行中である。
こちらよりの交渉、話し合いの場の提供、否お願いか。
そしてあるかもしれない報復攻撃への対処。今のところ、全て空振りなのだが。
『…この期に及んで、我々の出来る事とは何なのだろうなボルドック』
そこは濁せばいい、私ごときでは想像すら…と。
だが、ボルドックは進言する。
それ程の関係であり、それ程の相手なのだ。
『核攻撃にて優位性を得られない状況…』
彼は溜めた、それは迷いではない。
純粋なる所、歩みべき道が黒く濁っている証。
『受け入れるか、最後まで足掻くか…どちらにしても結末は一つですがね』
鼻から空気が漏れ、ハディスは笑った。
鼻で笑う、その全てが相手をバカにした笑いではない。
100%の同意と、腹の底を見透かされた時、それは現れる。
『…ま、アメリカが受け入れるなんて、それこそDNAが拒絶しますけどね』
もう一度笑いかけてやめた。
そう、それだけの事なのだ…
『プランは多くて構わない、出せるだけ出させてくれ』
ハディスの心は決まった。
最期の時まで人として、アメリカ人として。
ただ、それだけの事なのである…
負の遺産、私はそうは思わない。
彼等は憎んでいた、絶対強者と言える奴等を。
自種を滅ぼしたる奴等を。
敵討ち、でもないが利害は一致する。
この力で奴等を滅せれたら本望であろう。
『トゥリ・セストリィ、出撃せよ』
三人姉妹、怪人化された強者のトップに君臨する三名。
ロシアの今回の切り札となる。
それらに出撃の命を下すは、アラム・プルチェンコ大統領。
就任してからの平穏とは裏腹に、過去に類を見ない未曾有の窮地であるのだが、
彼は待っていた。
平穏という虫酸から解放されるこの時を。
『レヴォリ…長かったよ』
クラールの事、泳がせたのはアラム。
知っていて、放置した。
彼等がこの息苦しき平穏を打破してくれると期待して。
『東洋の組織に、横槍を入れられましたからね…』
アラムと相対するのはレヴォリ・カブラノワ(47)
大統領の首席秘書である。
アラムを大統領就任前から支える、右手…いや、屋台骨か。
『まぁ、東洋ごときで止められる様では、どの道波は起こらなかったさ…』
彼等は知らない。
いや、正確には報告は受けている(ワレンチンより)
それをスルー、見る気も聞く気もない。
頭デッカチの下等種族に、何が出来るというのだ。
大勢で、たまたま倒せただけだろう、と。
…もしかしたら怪人化に何か時限的なものがあるのか?
と、今まで調整・研究させていた位だ。
(ある程度で死んでしまう?的なもの)
それが今クリアとなり、そして発令となる。
ロシアを救う術が、今から始まる。
(…フフフ、泣いてお願いするってなら、アメリカも救ってやらなくはないぞ?)
彼の心の声は喉を通らず、そのまま下腹部へと消えて行くのみ。
嘘や無駄話は省くに限る…
プルチェンコ家の、家訓と教訓だそうで。
時は刻む、それは留まる事を知らぬ馬鹿者である。
ちょっとくらいの融通が、何故利かない?
いつもそんな事を考えている訳で。
世の中に絶対はないハズなのに、この体たらくである。
(まったく…みんな自分勝手だよね)
誰の呟きかを、今は語る時にあらず。
北海道を任されてい以上、この状況には耐え難い。
吉報とやらもまだ来ぬ現状に、心の煮たちを抑えられない椿原(北のベニスレッド)は、
決断するか否かを問う。
『尾本、君の考えを』
最初に指名されるのはオペレーターも兼任するベニスイエロー尾本真由美。
彼女は少し考えたそぶりを見せつつ、速やかに答えを出す。
『我々の作戦の重要箇所は時間です』
すっと立ち上がりホワイトボードの一部を○する尾本。
そこに書かれていたのは決行時間、それは02時00分。
『ここまでは、待つんでしょう?』
二人に恋や愛やらの類いはない。
だが10年の死線を乗り越えてきたのだ、家族以上の絆は存在する。
現在時刻は21時ちょうど。
そう、まだまだ時間は刻まれるのだ、望む望まぬは置いといて。
『世界では時間よ止まれって、連呼してるのにさ』
この坊主頭は早く2時までは進むことを願っている。
そうでなくては、本当の安住は得られないのだから。
『まったく東京よ、早く答えを出すのだ』
心の靄とザワつきを抑えるべく、椿原はジムへと消える。
(まったく、頭の中まで筋肉って人は楽でいいよね…)
たまには愚痴る、イエローだった。
『なんだ、奴はまたジムか』
主語としてあるのはイエローに口論で敗けて、がある訳で。
それを省いて伝わるのは、いつもの光景だからである。
『堤さん』
少し年齢が上、それだけで尾本には遠くに感じられる。
確かに10歳近く離れたいたハズだ。
まぁ、それにしては話が合うのでは?とか思う。
『まぁ、大人しくしてくれて、更に強くなってくれるなら言うことなしですよ』
北のベニスブルーを引き受けて10年と少し、イエローは私よりも後に入隊し、
そして今、隊に欠かせない人材となっている。
戦力としても、それ以外の意味でも。
恐らく、この恋は叶わない、そんな事は分かっているのだ。
年齢だけの理由ではなく、堤は敗北宣言を既に行っている。
(全てに於いて、奴には勝てぬ、か)
北のベニス…
レッド ・ 椿原 昴禅 (29)
ブルー ・ 堤 清二 (38)
イエロー・ 尾本 真由美(27)
ブラック・ 相川 猛 (32)
グリーン・ 池上 祐 (27)
以上の精鋭たちである。
皆が10年戦士であり、皆が二個以上の役職に就き、
日々就業し、サラリーを得ているのだ。
それが良いか悪いかは、意味のない論。
結果を出し続ければ、誰も文句など言わない。
本人等も、不満はあれど結果が伴えば文句など言えない。
高い目標と、揺るぎない郷土愛によって支えられたる北のベニス。
彼等の戦闘力は東京本部を凌ぐとか。