③ー13
ー13
『大統領!』
それはドローンが揚げた狼煙と同時に発せられた声。
ある意味形式の、だが通らざるえない過程をふむ。
発射の始まりは大統領のスイッチ操作、それがルール。
彼等はバカかもしれないが、幾重にも計画は立ててある訳で。
バリアフリーにするだけの時のプランを、
忘れることなく織り込んであるのだ。
敵主力円盤健在時には、ドローンを突撃させる。
その結果次第で、第2射をと。
空母エレメンタルにも準備させている、全てはプランの中の事。
願っていた結果ではないが…。
結局2発、同じ所だからよい?
そんな話で収まるなら、そして最終結果がより良く得られるなら。
彼等は迷いなく放つ、最後に立っていた者が勝なのだから。
『着弾まで…60セカンド!』
残り30秒辺りからカウントダウンしてゆく流れ、先程と同じだが少し異なる。
期待感、反撃の一撃を与えられる、そして全世界に示せるのだ。
アメリカの覚悟と、絶対に譲れないという強い意思が。
『地球は、我々人類のものだ!』
随分と的外れな奴が居るな…と思いつつ、
ハディス大統領は前を見据えていた。
そこに浮かぶ憎悪の塊が、崩れ落ちる瞬間を見逃さないために。
そして焼いてしまった故郷に対しての謝罪を、心の中で繰り返していた…。
衛星から捉えていた形が、変形していくのが分かる。
着弾と同時にその立場を終えたドローンの代わりに、遥か上空からの映像に食い入る。
『間違いない…形状と高度の変化…』
それに伴う結果はひとつ、ターゲットの破壊。
歓声とは違う、それは叫び。
苦しみより吐き出した、魂の根幹。
『まもなく、ドローン到着です』
G4が2発なら、ドローン軍団も当然2部隊。
その準備は怠ってはいないのだ。
オペレーターの映像入りますの声を待たずに、映し出されるロサンゼルス。
そこにあるのは、破壊された物質のみのはずだ。
『…堕ちてます、憎き円形物…』
認識できる数々のイチ部分を残し、粉々に砕かれた円盤。
そしてそのイチ部分からも大きな煙が登り、その役目を完全に終えているのが分かる。
今度は歓喜、そこに居る者達が張り上げる喜びの宴。
一人を除いては。
『…2発も必要だというのか、奴等を葬るには』
口の前で手を重ね、顔の半分を隠しているハディス大統領は思う。
この星に何隻あるのだ?
その全てに2発づつ?
あり得ない…
そして破壊したことにより、奴等からの攻撃が開始されるのか。
はたまた明日の昼までは何もないのか。
歓声など、上げている余裕も場合でもない。
ハディスは眼前の部下達に溜め息を送りつつ、
それはそれで仕方の無いことだと理解していた。
窮鼠猫を噛む、日本の諺。
追い詰められていたのだから、一噛みに対して歓喜しても良いではないか。
だが、なぜなんだろう。
窮鼠猫を倒す、ではないのか。
所詮は噛んで終わり?
痛っ…何するねん鼠!
っと一蹴される運命?
ハディスは新しい諺を作るように出羽総理に指示することを決める。
窮鼠猫を倒す、もしくは窮鼠猫を殺す。
それに変えなさい、と。
『アメリカの覚悟と意地、か』
国会議事堂の近くにあるとされる地下シェルター、
そこに居る者の名は出羽内閣総理大臣。
と、そのブレーン達である。
『アメリカにはアメリカの』
すっと総理お気に入りのコーヒーを差し出す女性秘書【三上悠子】(年齢は内緒だと)
出羽の最近のお気に入りである(そういう意味ではなくて)
『日本には日本の』
出羽は返した、その語りの終局を看破しつつ。
『えぇ、日本にはベニスが』
ゆっくりと喉を潜らしてゆく、やはり彼女の煎れるコーヒーは別格である。
『あぁ、吉報を待とう』
丸投げや、匙を…ではない。
これは信頼である。
日本にはベニス戦隊が…
彼等が導きだす、その答えを待つのみ。
特殊シールドがそのラインを越えてゆく。
さぁ、撃ってこい。
その成分を後ろのバカが解析するからな。
小杉の頭は、IQで言うと弱い。
だが戦いの中でのIQ、ベニス戦隊としてのIQ、つまりはベニスIQは高い。
その高さゆえ気付く。
そしてすっとシールドを戻してゆく。
命を張るのは簡単だが、無駄には張りたくなく訳で。
『倉橋、自走式ドローンあったよな?』
アメリカがくれたヒント、活かさないのはそれこそバカと言うもの。
『ふっ、一旦中へ戻れ』
倉橋のIQは全てにおいて高い。
だから彼も理解していた、それで十分であるって事に。
自走式ドローンにシールドを着けて、中を走らせばよい。
単純かつ確実ではないか。
特に小さな飛行物により傷付けられた経験を共有したであろう奴等にとっては。
小杉はストーカー状態であった倉橋の乗るハイエースへと。
そして倉橋はものの数分で産み出してゆく。
人類を救う、自走式シールドドローンを。
『では小杉くん、進水式を頼めるかな?』
うむ、と頷く青色のベニス(ヘルメット外し中)
シールドドローンを小脇に抱えて、先程のラインへと戻ってゆく。
そして優しく着水(地面に)
まぁ、自身の代わりにライン越えをしてくれるのだ、そら優しくもなる。
『倉橋くん、何時でも開始してくれたまへ』
昔から悪巧みを行っている時の二人は君付けである。
今回のケースがそれに当てはまるかは不明だが、それをチョイス。
『うむ、では一旦戻りたまへ小杉くん』
遠くから見る限りはチャチなタイヤを必死に回転させ進むドローンを、
可愛いな、とさえ思う訳で。
その可愛いと思える対象物が、ベニスの日本のこれからの方針を決めてくれるのだ。
本気で可愛いと思っても良いと思う。
『よし、突破だ』
あれほど躊躇したラインを、あれは意に介する事なく突き進む、か。
敵に回したくない存在だなと、改めて。
光、それは美しいもの。
それが天から降り注げば、まるでシャワー。
光のシャワーを浴び、まるでそれは…
『きたぞ!』
自走式シールドドローンにピンポイントではなく、見えないバリアー内全部に降り注がれる光のシャワー。
どうやら、一部のみの攻撃は不得意(もしくは不能)の様子。
『解析開始、シールド展開』
どうやらあのままでは機能しないみたいだ。
シールド表面に特殊な電流を流してなんたらかんたら、倉橋の言う事は半分不明だ毎回。
『カメラ切り替え、2、3番を真ん中に』
2番は外観、3番は内側を捕らえたカメラ。
それを目視しつつ、光のラインの通過状況を見るのだ。
浴びせられるシャワーを、可愛いあれは綺麗に受け流して…いかない?
いや中心は守られている、そこへは行かず屈折してゆく光の線。
その中心にあるドローン、一部被弾も前進を続けるのだ。
健気で愛くるしい、そして頼もしい。
『見ろ、傾斜角だ』
瞬時に割り出した計算式をモニターへと投影させる倉橋。
まぁ、小杉からすればとりあえず結果を教えてくれればいいのだが。
(見ても解読不能なのだから)
『…つまりあのシールドでは侵入角度を5度ほどズラせるってだけだ』
つまり…不完全?
つまりつまり、私が行ってれば死亡遊戯?
『おいおぃ、倉橋く~ん…』
頼むよ、と言いたいが。まぁ、はじめの一歩で曲げれたんだから大したもの?
『1時間くれ、完成品を産み出すゆえ…』
当然待つしかないのだから、小杉は無言で了承するのだ。
次も、この先も、彼を信じるのみだから。
…なんてな。