③ー12
ー12
『…撃ちました、信じられない…』
後半は単純な自身の感想、だから不要なもの。
統括代行中の岡林は聞き流す、そして前半のみに注目してゆく。
『着弾予測』
四文字熟語のみで指示を出す、それが格好いいとかではない。
前後の言葉など言う余裕がない、が正しい。
彼も一応、平静ではないのだ。
もっとあると思っていた、人類が生存するプランというものが。
これなのか?
これしかないのか?
自問したところでナニモデナイ。
岡林は虚しさを押し殺し、解答を待つ。
『…ロス、ですね。統括の予言通りです』
そんな言い方は好きじゃないだろう、が当たりか。
まぁ、それしかないだろう、使う意味と価値は。
『後3分で、着弾します』
映像が切り替わる。
それはロサンゼルス、そこに浮かぶ薄銀色の丸い円盤。
かなり遠くからの映像なので、ズームされたそれは粗く、
従来の意味では不要なもの。
だが今回は使えるはず、残るか消えるか、それさえ分かれば良いのだ(とりあえず)
『全支部に伝達、映像確認されたしと』
了!とだけ発し、石原は一斉送信。
何時もなら既に!ってなるのに、彼女も平静ではない、か。
岡林は唾を一滴飲み込んだ、その作法で1つ思うことを吐き出す。
『石原主任、あのカメラが爆風でダメになる確率は?』
データ不要で導きだす答え、五分五分。
石原はその五分を考え、絶対安全地点へとドローンを待機させてゆく。
『着弾の1分後、飛ばします』
一般販売されてるそれとは少し異なるも、基本は同じ。
違うのはサイズと航行可能時間及び速度か。
『後1分…』
この時間を共有しているのは何人だろう。
発射スイッチを押した者の居る部屋と、
実際に発射台となった戦艦と、
一部の世界に精通したる者達と、か。
我々は精通したる者に含まれる訳で。
なんとか世界を救う者になりたいものだが…。
それを夢にしてはならない、そうでなければ人類生存の可能性が更に減る。
流石にゼロになるとまでは言わないが、
限りなく近付くだろうそれに。
『統括代行…着弾します』
時間が止まることはない、唯一止まったと感じれるのは写真のフレームに収まった時のみで、
後は足掻こうが暴れようが、過ぎ去るのみ。
遠くに写る円盤の上部より、白い光が一気に広がり、安物のカメラの視界を奪ってゆく。
そしてノイズと共にブラックアウト、その生涯を終えてゆくのだ。
『ドローン、飛ばします』
沈黙の内に過ぎていた1分間。
着弾前も後も、同じ1分。
だが気持ち、着弾後の方が長く感じれる。
理由は意味もないので割愛。
『何分で到着ですか?』
統括代行補佐の牧野が口を開く。
聞いた相手は年上のお姉さま、石原主任。
『…電波障害が酷くて、まだ飛び立ててないわ』
少しキレぎみ?
なぜだろう、私何か悪いことをしたのかしら?
『やりおったな…バカな奴等だ』
倉橋の言葉は小杉の頭に止まり、そのまま離れない。
バカな行為、それに尽きる。
それは我々にも当てはまるのだろうか。
悪あがき…それは全てが無駄で、バカな行為。
小杉は思う、バカで良いと。
十分にあがいてから、受け入れたらいいのだ。
現実って奴の悲しみをさ。
『バカはお互い様だ、我々も貫こうバカを』
小杉の言葉は倉橋の頭に止まり、彼等は信じるバカな行為に没頭する。
『映像、…出ます』
石原は届けたい仲間全員に対して、その声を出す。
各支部と、この部屋の皆に。
『…俺はロスに半年間滞在したんだ、随分と変わってしまったな』
まるで天候をも変化させたのか如く暗さと、
舞い散る黒き粉と、
無数の瓦礫。
岡林の知るロスはもう無い。
そして恐らく、彼の命がある内に戻ることはない。
町を1つ消す、それがこんなに簡単で、こんなに一瞬で。
牧野も隣で言葉を失っている。
この現状を思ってと、その代償が報われなかった事と、か。
『…敵主力戦艦、健在です』
都市をひとつ賭け、得られたのは何だろう。
この時間は何だったのだろう。
やはり人はもう、この星で生活するべきでは無いのかもしれない。
自らの力で、この大地を焼き付くすなんてさ。
その時、映像に映った物がある。
今、映像を写している飛行物と遜色の無い形。
そこに浮かぶはアメリカの国旗か。
それも複数である、まぁ当然だろうが。
『どうするのだろう向こうは』
向こう=アメリカ、きっと今見ているだろう。
消し去るハズの物の存在を。
『石原さん、1機が…』
操縦担当の石原も気付き、その箇所を捕らえてゆく。
『…接近して撮りたいのか、はたまた』
ぶつけてしまえ、か。
日本のドローンとアメリカのドローン、確かに遜色無い。
一点、武装の有無を除いては。
恐らく、操舵を担当している者が激情し、一矢報いるつもりで突撃するのだろう。
一般歩兵用と同等火力の機銃を撒き散らしつつ(無駄に)
『えっ?』
石原は疑った、そして瞬時に計測する。
『越えました、明らかなる攻撃の意思がある敵機なのに…』
50mのバリアライン、通常なら越えることなく爆破されるハズが。
そして撒き散らしつつ本体へと激突、熱と酸素と燃焼物の三要素が発生し、
円盤よりの火災を表す煙が一筋…。
『…消し去ったのか?核ミサイルがバリアを?』
立証する時間も材料もない。
あるのは事実、すぐさま他のドローンも突撃を開始(数機を残して)
そして本来の存在意義を放棄し、代わりに煙の一筋を天へと昇華させてゆく。
『アメリカ…第二射!』
『ミサイルの数は!?』
岡林の質問、それで決まる。
彼等の本気度が。
『1発です…恐らく弾頭は…』
核、であろう。
あの円盤を葬るには、人類最高最大の火力を保持したるこれしかない。
1位との差が大きく開いた2位のミサイルでは、何発当てようが破壊するに至らずか。
やってみなければ分からない、だが試している時間など無い。
『残されたドローン、50m付近を行ったり来たりしています』
知る必要がある、どの位で復帰するかを。
もしくは復帰しないのか、を。
先程は、途中で不発弾になれとか色々当たらない方法を思ったのだが、
今回は早く着弾しろと拳を握り締めている。
バリアフリーの内に、直撃しろと。
長く感じれる3分間、だが過ぎ去るのだ。
誰の不利有利もなく、その時は来る。