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日本にベニスがあるのなら、世界には軍隊がある。
とばかりに鼻息を荒げていく猛者と評される者たち。
陸海空、揃い踏みである。
『地上より接近し、一気に上昇…UFOへと!』
じっくり時間はあったのだ、策は練れている…残るのは実行と成功有るのみの陸。
『我々の使命は撹乱と陽動、腹一杯のミサイルを吐き出すぞ!』
上空からの攻撃では致命傷にならぬ、だが奴等の目をこちらに向けることは可能。
最終的に勝てれば良い、経緯や過程は関係ないの空。
『海と陸より、仲間をバックアップする!』
愛国心、それが自己犠牲へと繋がり彼等を動かすダイナモとなる。
直接的に攻撃を加える手立ての薄い海軍、サポートに徹する。
この三者が手を取り、力を合わせて、唯一の敵に向かうのだ。
最大限の力と、地球最高の力を、奴等へと届ける。
そして護る、地球を、人類を、この掌で、皆の力で!
夢、ではない。
護れるも護れぬも、残るのは現実のみ。
突きつけられるのは何時も、現実のみ。
痛みや苦しみを伴う、現実のみ。
何度響いたろう衛生兵の言葉。
何㍑流されただろう赤き血。
それでも望む現実があるなら、賭ける。
このちっぽけなる命なんて。
『…アメリカが悪いのではない、それだけは言える』
ここは、ロシア。
ステイシアの埋葬もそこそこに、次なる舞台へと担ぎ出されるワレンチン・ヴォルコワ。
その呟きである。
それを聞くのは現在の側近(中の側近)、
アレクセイ・ゼノフ(36)
『アメリカが無知だとか無力だとかは思いません』
グラスを傾けつつ、ゼノフは続ける。
『より良き反面教師ですよ。…やはり今までの力では通用しないと証明してくれました』
遺産がある、継ぐ継がないは自由の。
『何体分だ?』
ゼノフは何やらペラペラめくり答える。
『師団長クラスは5名、それ以下のは…まぁ沢山』
大事なのは人として滅びる事か、はたまた人で亡くしてでも生き残る事か。
問われる、人類。
『…アメリカが全軍を撤退させています』
それが意味する事柄はなんだろう。
世界の重鎮としての役目を終える時が来た?
はたまた次なる手立てを魅せる為に引いた?
…どちらも選択したくないが、後者の可能性が高そうである。
彼等の、彼等たる由縁。
アレヲ使用するのだろう。
『やりますかね?…自国に対して、自国の領土をボロボロにするんですよ?』
親愛という台詞を与えたい娘(元だが)よりの問いに、
内容とは反比例し(置いといてとも)笑顔で応じるのみ。
『使うさ、それが彼等の彼等たる由縁…』
力を誇示し存在を示す。
それにより失うものがあれど、全ては国家の為に、か。
ネジ曲がった愛国心なのか、それこそが愛国なのか。
小杉には答えを出せそうにない。
まぁ、結末だけは見えたのだが。
効果があると、人類は自らの首を閉めるんだな…という事。
各国が自国の奴等に対して使用し(隠し持っていたモノを含めて)、
地表は、人の住めぬ荒廃と化ける訳だ。
(…そりゃ見たくない未来だな…)
心の奥で通用しないことを願いつつ、その時を待つ。
『これより、緊急議会を開き…恐らくは即時裁決となるであろう』
全米の何%がこの放送を見れる状況にあるのだろうか。
だが、必要な経緯らしい。
自国に対して核を使用する、それが独断で決められた暴挙ではない事を示す為に。
自身の愚行ではないと知って貰うために。
『ま、大変な時に国のトップに立ったものだ…お互い様だが、な』
ほんの数分間の国民放送を終えた、ある種の同胞に対して、同情できる立場にいる者は皆、そう感じているのだろう。
ロシア大統領【アラム・プルチェンコ】(58)も同様、彼も思っている。
大変な時に、と。
『確認するぞ、我々の管理下に置きつつ、可能なんだな?』
失敗は許されない、だが成功は即効果を成すだろう。
世界の新たなる図式の頂点に立てる程の効能が。
まぁ世界と言っても、このちっぽけなる地球の中だけの世界なのだが。
『奴等の攻撃時間を待つ必要はない、可能にならば即時実行である』
この戦いの先の事をも考えつつ、ロシアは動いて行く。
フレダスト星、負の遺産にすがりつつ。
そして日本、我らがニッポン。
この先の世界の頂点に興味のキョの字もない面々が、
今練る。
『グラス捜索は継続しつつ…』
『やはり徒歩で近付き下からは使えない…』
『空から舞おう…』
『バリアの成分の分析は進まんのか!』
東京支部内は怒号やら何やらで、ぱんぱんであった。
ぱんぱんなのに、対策の肝と成りそうな言葉はゼロ。
『とりあえず、見てください』
石原が録画をまとめアメリカ軍ハイライトを再生させてゆく。
『彼等は一つだけ見せてくれました』
ズームされて行く画面、そこに写るは徒歩でラインを越えて行く兵士。
『ライン越えを果たした者の体内に影響があったかどうか、定かではないです』
ラインを越えた者は、誰一人戻ってないのだから、人体への影響は不明。
だが、越えることは可能である。
『このライン、この球体は索敵レーダーも兼任している模様です』
陸からの兵士全員がラインを越えたと同時に、天よりのシャワー。
それは隙間無く降り注ぎ、人体を元の形状を忘れさせる位に粉々に…。
そのシーンはアップにしていない(むしろボカす石原)
見るべき時と、見なくていい時とがある。
今は後者である。
『上空からの攻撃、意に介す事無く…作戦終了ですね』
上空からの援護及び仲間を奪われた報復攻撃、全てバリアを越える事無く。
『海軍なんて、出番すら無かったな…』
作戦開始より僅か数十分、アメリカの権威の象徴は音を立てて崩壊していった。
小杉はガタンと音を出して立ち上がり、自宅で焙煎!の売り文句を信じ購入した、
本格珈琲製造機械にて、人数分のコーヒーを作成してゆく。
(…そう、そこはいいとこよ統括さま)
その前が戴けない、と石原主任。
ガタンて何よ、となる。
何時も母の眉間にシワを入れていたのが、
そういった些細な所の気遣い。
大まかなところは良かったのにさ…
スッと差し出されるコーヒーを眺めつつ、石原は父と娘として過ごした日々を思い出していた。
夏祭り、合同誕生日(父娘の誕生日は3日違い)、自家製クリスマスツリー、正月のきなこ餅、そして最後の朝。
記憶の始まりから終わりまで、一気にハイライトさせた石原は、
ゆっくりと立ち上がる。
そして大画面の前へと。
『仮説の中にある現実的な可能性を、幾つか』
自分が隠居しても次代の統括様は居られますなぁ~とか思う、小杉であった。