③ー5
ー5
生まれたときからベニスは存在し、自我を理解したるときから、怪人は大暴れしていた訳で。
だから怪人を悪ではない存在と思った事なんてない。
絶対的悪であり、その対極にいる自分達は完璧正義である。
完璧なる正義ゆえ、何をしても許される…そこまでは振り切らない。
一応、正義側としてのモラルや、人としての限界値を持ち合わせている。
だからズルやゲスに相当する事はしない。
(あくまでも自身の判断基準だが)
そのギリギリのラインは大好物なのだが。
『門倉さん、早かったですね』
旧知の仲にお出迎えされて、ご満悦である。
『皆家に引きこもっておるからな、スイスイだよ』
兄である【藤園 良典】と握手を交わす門倉。
さて、弟は?
『守彦は現場に行ってます、何か見つかると良いのですが…』
見た目がヤンチャな人程、礼儀作法を知っている。
コンビニのレジを担当する若者の見た目だけで、恐怖する事はないのだ。
(例外パターンも存在するけど)
敬語が使え、立ち振舞いも目上の人を立てる行動。
あの世界の縦の繋がりは、決して無駄な事ではないのかも知れない。
いや、むしろタメ口を垂れ流す世間知らずより、よっぽど社会に貢献できている、ハズ。
『そうか、まぁ待たせて貰うよ。2人に会いに来たのが、今回の全てだからな』
連絡を取るように言うだけなら、その双方向で可能だった。
だが彼は会いに来た、それが兄・良典には嬉しくて、笑みが自然と溢れ落ちるのだ。
『直ぐに戻るよう、言ってますから』
『門さん!相変わらずブヨブヨだな!』
弟、【藤園 守彦】は兄とは少し違う。
まぁ何時の時代でも愛されるのはこんな弟キャラなので、
そこが兄の深い悲しみではあるが。
この藤園兄弟、年子なのだが相違点は多い。
性格、髪型(当たり前か)、そして容姿。
他人と偽っても恐らくは知らない者は信じるだろう。
兄が母親似、弟が父親似。
喧嘩にならなかったのは両親とも平均以上の容姿の持ち主だったからで、
そこに個人的見解が加わると、多少の優劣が誕生する訳である。
(兄弟的に満足の結果らしい)
『とりあえず、飯にしよう。ご馳走するからさ』
ちゃんと経費として頂戴してあるので、お金の心配は不要、と。
門倉は、弟・守彦の肉コールに負け、予定外の高級と銘打たれた焼肉店へと向かってゆく。
経費で足りるかを心配しつつ…。
接待でしか使ったこと無い店舗、なかなかの勇気が必要である。
これが全自腹なら、ボーナス払いが可能かを聞かなければならない所だったが、
ビバ!経費である。
『やべぇ、半端ないす、この肉…』
どこの部位かも分かってない(説明しても分からない)者に食べさす代物ではない。
だがら、味わうがいいさ、人生最後の体験になるかもだし。
『で、現状は?』
一応、仕事の話も大事。
てか、人類存亡の~なる世界なのだから、せざる得ないとも。
『リーダー機はね、分かりましたよ』
口をモゴモゴさせながらだから、すげー聴き辛い…と不満顔の門倉。
『潜入方法も、大体はあがり…』
雑や乱暴といった言葉が似合いそうな弟ではあるが、
こういった事前の調査なり計画の作成なりをさせると、
全国ベニス戦隊員中の上位3傑に入るだろう(ハズ。)
兄も弟の才を認めている為、丸投げである。
『ふむ、決行?』
門倉は、誘導しない。とりあえず、今ある現状を聞くだけだ。
『…タイミングは本部合わせ、それでいいんしょ?』
口の中で肉を溶かしてからの、はっきり発言。
本心かは置いといて、そうすると決めたと言うことか。
ならば御馳走した価値があるったもんだ、
わざわざ押し問答しなくて済んだから。
『門倉さんが壇上に上がった段階で、我々の敗けですよ』
兄・良典は日本酒を注ぎながら言葉を足してゆく。
『門倉さんを指名した方は、知っているのですか?』
門倉と藤園兄弟の間柄、知る人は少ない。
『分からんが、あの人なら知っていたのかも?位かな』
小杉統括がそこまでの腕利きである認識はないが、人望と情報収集能力の世間評価は高そうである。
『わざわざ指名したんでしょ?』
経緯は知らないが、イチ確だったのなら…
『ま、何にせよ本部に連絡返してくれな』
翌日、本部オペレーター主任・石原より報告を受ける小杉。
ニヤリと含んだそん笑顔が、分かりやすく意味深であった。
娘として過ごした期間を考えると、十分に理解できる意味深。
『流石の門倉!…じゃ無さそうですね?』
ん?と流し目の顔が、少し憎い。
『門倉の生まれは名古屋、そして彼等を名古屋支所に入れたのは門倉…』
そこまで発した後、立ち上がる。
そして旧時代の刑事ドラマの様に、窓ガラス越しに外を眺めるのだ。
『…詳細と正解は知らんがな』
最低限、旧知の仲である事は間違いない、か。
無理に知る必要もない、そんなオーラもある訳で。
人の上に立ち、人を動かす。
信頼を裏切られる事もあるが、それでも自分と相手を信じ指示を出す。
簡単ではない事を簡単にしている父親に、
少しだけプラスの感情を込める石原。
まぁ、負債感情の方が莫大な為、赤字である事に変わりはないのだが。
『さぁ、武器は整った。後はタイミングだな』
それが一番肝心であり、何より奴等の出方待ちであり。
『今日で3日、あるだろうな』
それは予言となり、世界に災いの種を落としてゆく…。
《地球…この地区に住む君達に告ぐ》
来訪より3日目の正午。
それは各地方の言語により、全世界同時に流される。
日本語、英語、ドイツ語、フランス語…等々。
《まずは時間の消費をお詫びする》
《これ程に多種な言語の星は初めてである為》
不思議だった、空飛ぶ円盤からの垂れ流しであるハズなのに、
円盤近辺の者と肉眼では捉えきれない程の距離の者も。
耳に届く音量は同じ。
ウルサくない、響く、丁度良い、一言一言が心に届く、不思議なる放送。
皆、それに聞き入る。
《我々は、ザグナス。宇宙帝国王宮ザグナスである》
奴等=宇宙帝国王宮ザグナス、自己紹介をありがとうと思いつつ、小杉は考えていた。
他国のモニターから響く音は、その母国語。
タイムラグなく同時に放送…だが声色まで同じとは?
録音していたのか?タイムラグが無いように必死でタイミングを合わせて録音?
はたまた同時に翻訳し、その者の声で変換してくれるソフトウェアでもあるのか?
前者ならいい、なかなかに洒落た奴等じゃないか、で済む。
だが恐らくは後者。
地球よりも文明の飛躍したる国。
(まぁ、宇宙間航行している段階で、なのだが)
《知る者にとって、我々は使者でない》
多少の分かり辛いのは勉強不足か?
まぁ3日足らずでこれだけ出来たら上出来だ。
《我々の要求は間接明瞭》
4文字熟語?
きっと日本語が一番苦労しただろうな…
《この星を去るか、滅びよ》
お決まりの台詞、そんなのみんな分かってたさと、ふふんと鼻で蹴る小杉。
《明日の同じ時間より、攻撃を開始するゆえ、去る者は去れ。追いはせぬゆえ》
ここをどこだと思っている?
去れる環境に有る者など星粒ほどである。
何より、この星を棄てる事など出来る訳がない。
地球を愛するとか以前に、簡単に渡せる物ではない。
《最後に、我が名はエバタール。地球浄化軍総督である》
ご丁寧も重ね重ね、最終ターゲットの名前が判明、と。
まぁ、わざと目標を持たせて楽しんでいるだけなのかもしれない。
はたまた名も知らぬ者に滅ぼされては辛かろうと?
《それでは、明日の同じ時間に…》
これで終わり、か。
まぁ、延々と話されても貴重な時間を浪費されるだけだが。
そう、貴重な時間である。
ゼロかイチの左右される時間。
不公平なれど、与えられた時間。
我々以外はどう使用するのだろう?
理性を捨て、本能のままに生きる事を選択するのではないか?
試される人間力、か。
小杉はゆっくりと行動を開始する。
そろそろ買い換えろよと言われるも、愛着から捨てきれぬボロボロの椅子より腰を浮かせてゆく。
そして歩む、皆の待つフロアへと静かに。
人類とまではまだ言えないが、日本を救う為に集いし仲間の元へと。