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『まず、皆さんに伝えなければ成らない事があります』
出羽の開口一番は、現実を突き付ける事。
嘘や幻では無いという現状を、伝えなければならない。
『報道等でご存知でしょうが…今人類は絶滅危惧…』
種を付けかけて止める。
彼も冷静ではないのか、確かに両拳は握られ、その中は汗の洪水にてベタベタである。
『奴等の要求が成された時から、カウントダウンが始まります』
隠す必要はある、そして政府発表しない方が良い時もある。
知らずに果てる方が良い、と。
だが出羽は公式発表の形を選んだ、絶滅危惧種なのだ我々は。
それを理解したる者が集い、何かの融合が発生し、新たなる道が見えるかもしれない。
結局、お手上げなのだ。
何も、政府としてやれる事が無いという虚しさ。
そして絶滅するしかないという未来。
そんな状況でも、我々は胸を張り、チカラいっぱい生き、そして死を受け入れる。
潔く、悪に染まらず、美しく。
日本人の持つ武士のDNA、それに託す。
『明日、死ぬかもしれない』
出羽は溜めた、そして立ち上がり頭を下げる。
深々と。
『それが、今地球が、人類が、日本が、直面している全てです』
TVショーやらネットやら、各種にて論じられ、資料も出され、奴等の存在を騒ぎ立てられている今、
この説明だけで理解できるだろう?…である。
『今だに、何の連絡も無いのですか!』
ざわつく会場と、ようやく座り直した出羽と、それを待っていた記者の質問。
だが、その答えは決まっている。
『奴等が来て、もうすぐ丸一日。今だに連絡は無い…世界中どこにも』
記者の中には、現実を深く受け入れすぎた者もいる。
だが、逆に何かを残したくて声を張り上げる者もいる。
出羽はその者に答え続けるのだ。
『いや、何もコンタクトなしに総攻撃は無い』
それは過去の歴史と資料が証明している、と。
『対策は、何も無いのですか?』
出羽は息を吸い込み、ゆっくりと吐く。
そしてこれからの発言に、希望を込めるのだ。
『詳しく話すと、その可能性が消えるので…』
出羽は握り締めた右拳に左手を重ねてゆく。
まるで祈りの仕草、神に…ではない、彼等に祈るのだ。
『ですが、必ず果たしてくれると、私は信じています』
出羽はカメラ目線でその想いを飛ばした。
全国のベニス戦隊に、届くように強く。
『皆さんも、信じて、祈っていて下さい』
何に祈ればいいのだ?
具体的な姿を示してくれなければ、祈れる訳もない。
だが、それでいいのだ。
各々が信じる何かに対して、祈りを捧げる。
そうしてくれたなら、バカな行動を取る輩も減るだろう(少しは)
『何かまた、公式発表出来る事があれば…』
出羽の国民放送は、終了した。
それを観た者が何を感じ、その後どうするか。
最悪なベクトルへと進まなければ良いが…
それはベニス戦隊が成功者となるかどうかよりも、確率の低い祈りとなりそうだった。
一般的に、明日地球が滅亡しますよ…と聞かされたら、どうなるだろう?
愛せる人と、最後まで共に…は綺麗事?
いやそうなる、そう考える人々は必ずいると思われる。
だが愛せる人の居ない者は、幾つかに分類されるだろう。
①絶望し何もしない者…まぁそれでよい、被害はない。
②絶望し泣き叫ぶ者…まぁ、それでよい、煩いだけだ。
③理性を無くし、やりたい放題…やっかいである、でもまだ軽犯罪。
④理性を無くし、本当にやりたい放題…やっかいである、重犯罪。
⑤理性を無くしたフリをし、やり放題…理性が残っているだけに、やっかいである。
⑥先導する者に追従する者…最もやっかいである、群集は薬にも毒にもなる。
日本人はどこの割合が多いだろう?
①か②であって欲しいと願うも、恐らくは⑥。
何も考えられず考えず、回りに合わせ行動する。
善悪の区別やら、あろう訳もなく。
右と言われれば右を、左に皆が動けば左に。
その群集が去った後は、見るも無惨な焼け野原、か。
『統括…?』
小杉は我に戻され、少し恨む。
出来ればもう少し、現実逃避していたかったのに。
ここで…とか言う限定ではなく、彼女は統括と呼ぶ。
パパと呼んでくれた時代だってあったのにな…。
『今日の会合、そろそろですよ』
昨日、顔合わせ程度で終わった全国ベニス戦隊初の隊員間ネットワーク会合。価値を見出だすのはこれからである。
『よし、行こう』
議長として、小杉は今日も出席す。
4つ目のモニターは今日も真っ暗。
やはり出席はせぬ、か。
期待していた訳ではないので、特に何も思わぬ小杉は、進行す。
『どこか、動きのあった所は?』
北海道の椿原がモニター内にて挙手している。
やらせときながら、滑稽な絵だ…。
『一部の宗教団体が、円盤の下にて祈りを捧げています、まるで神様のように』
総理が祈れとは言ったが、そこに行き着いたか。
なかなかの発想に、少し浸る。
『日本語と英語で、あなた方に捧げ尽くします、と横断幕を…』
殺し滅ぼそうとしている相手に、捧げれるものが何か、分かってんのかな?
この星から居なくなれ、と言う相手が君達なら残ってていいよ~って?
…はて、これまでのパターンにあったのだろうか?
小杉は調べるべき事柄を忘れぬようにメモっとく。
もしかしたら、今回の最大のキモになるかもしれない!
『警察が再三退く様に言ってますが、さっぱり』
勿論、遠くから拡声器にて、だけど。
(近付けない、普通は)
『とりあえず、そのまま様子を見ましょう、どう対処するかも見たいし』
我ながら議長っぽくしてるな…と御満悦の小杉。
さぁ、次なる話題を振ってくれたまへ~。
『いいですか?』
沖縄ベニスの新垣…は欠席。
代わりに沖縄ベニスの頭脳、比嘉が。
『予定通り今夜、福岡支所に移動しますが…』
沖縄ベニス担当は九州。
沖縄に居ても、なので早々に移動し、福岡支所へ。
それは前回決めたこと。
『各支所との連携、我々に一任と…』
沖縄ベニスだけでやるか、はたまた九州各支所のチカラを結集するか。
沖縄ベニスに任せてある。
やり易い方で、頼むと。
『結論から言いますけど、結集させるべきです』
そこに、沖縄ベニスのやり易さなど不要。
集めるだけ集めて、ドカンと!
『…確かに、集められるがベスト』
小杉は自身に言い聞かせるように、ゆっくりと話す。
『だが今回、一番大事なのはタイミングとスピード』
それを蔑ろにする位なら、結集など不要。
思ったよりも早く結論を頂けたので、比嘉は満足し言葉を添える。
『分かりました、作戦を最優先し不要とあらば即棄てます』
怖いこと言うな、顔に似合わず?
いや小麦色に焼けた肌と黒髪
似合わないって事はない、少し年齢からして驚いただけだ、棄てるだなんてさ。
同じ女性ベニス戦隊でも、色々おるなぁ…と、行方知れずの部下を思う、小杉であった。