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『…東京から、ですね』
ここはベニス戦隊沖縄支部。
詳しい店舗は割愛するが、沖縄県民御用達スーパー、タウンプラザかねひで地下に、
彼等存在する。
(普段はかねひでにて働いているらしい)
【新垣 誠太】が相変わらずの黒肌を光らせつつ、先を促す。
『全支部同時に作戦を開始するゆえ、今は待機されよ…ですね』
沖縄支部にて数々の怪人を亡き者にしてきた沖縄ベニスレッド新垣。
その通達の意味と意義を思案する。
…彼は考えて行動するタイプではない。
だから脳裏はカラッポ、何も浮かば無いのだ。
『比嘉~』
困ったときは話を流す、それが沖縄ベニスの真髄(新垣限定)
『はい、結論から言いますけど…』
彼女は何時も、解答が早い。
無駄口は三文の損、祖母が余計な事を吹き込むもんだから…。
『従いましょう』
沖縄ベニスオレンジ事、【比嘉 奈津】の解答は早い。
そしてその後の切り替えも早い。
彼女は呼ばれるまでこなしていた事務に戻る、無言で。
それを横目に、新垣は決断す。
『よし、指示を待つか』
彼は何も考えていない、だから大体の決断は隊員である比嘉が決める。
今回もそれとなる。
『なんや?東京は何様や?』
大阪支部、最年少の【鈴木 純平】(ベニスギグ)が声を荒げる。
毎回お馴染みの光景にて、他のメンバーは特に反応もせず紅茶をすする訳で。
『本部には本部の考えがあるんでしょう』
自らがいれた紅茶を、満足顔にて飲み干す【美咲 翔子】(ベニスクィーン)
どこぞのお嬢様らしいが、話したがらないので皆聞かない。
『関西の事は関西で決めたらエエんや!』
あぁ煩いなぁ…と思いながら【流源 幸四郎】(ベニスレイブ)は部下の力作である紅茶を飲む。
相変わらずの旨味と、身体も心も拭い落とす程の清涼さ。
それは流源の拘りや蟠りをも洗い流してくれる代物。
『…今回は従おう。少々、簡単な話ではないからな』
彼の緻密なる計算だかなんだかと、天が与えたその容姿にて、
遂に公式なるファンクラブが出来たそうな。
まったく…不公平な世の中だな、と。
最年長【宮下 徹】(ベニスクリスタル)は思う訳である。
(そう思う本人も、資産家の息子)
大阪ベニス戦隊へは、ある程度の後押しやら産まれが無いと入隊出来ない。
だから、半年も前に殉職した5人目を補充できずにいる訳で。
大阪ベニスは現在4名、追加召集の予定も候補者も、今はゼロとなる。
(良い所産まれが、命を賭ける様な仕事は選ばない、て事らしい)
『こちらから伝令を出さねばと思っていたところだ、いい判断である本部も!』
ここは北海道札幌市、北のベニス戦隊こと北海道支部である。
1㍉の毛先も残さぬ程の坊主頭な【椿原 昴禅】(北のベニスレッド)
その血筋そのものも感覚と存在にて、北海道の平定に勤めている訳である。
『では返答しておきます』
オペレーター兼ベニスイエロー【尾本 真由美】が慣れた手捌きにて返信を送ってゆく。
まぁ、人材不足は何処にでもある永遠のジレンマの様で。
北のベニス戦隊もそのジレンマと常に戦っている。
約10年、メンバーが代わることは無かった。
殉職者を10年出さなかった椿原の力量を誉める所とも言えるが、
誰もいないのだ、彼の要望を満たす隊員が誰も。
立候補や他薦はあれど、ほぼ全てが一時審査にて脱落となる。
(一応、四時試験までは用意しているらしい)
それはオペレーターにも及び、唯一満たしてくれるのがイエロー尾本となる。
一人二役、それが北のベニス戦隊の基本となり、
椿原も北の統括とレッドを、兼任しているのだ。
今は統括としての椿原、本部と変わらぬモニターをギラリ睨む。
(声明も攻撃もなく、何を考えておるのだ?)
やるべき時が来たなら、この身を捧げる、この北海道の大地へと…
そこには本部の令に背いても、がある。
彼にとって、この大地が全てであり、
一時は北海道を独立国家に!っの熱があった事も。
(もう落ち着いたけど)
北は椿原に任せておけばよい、それがここ10年の本部の考えである。
『名古屋、どうします?』
オペレーター主任、石原に言われ気付く。
確かに、東京本部と遜色無い組織で、支部と名を付けたのは日本全国で4箇所。
(東京含む)
『名古屋支所、か』
最近聞かない、それは良い噂を。
だがあの辺りで、名古屋支所程の組織力を保持したる支所はない。
『まぁ、寄せ集めになるよりかは、か』
小杉は選択し、それを石原へと伝えてゆく。
『さっきもう、送りました!』
私が違う判断したらどーするつもりだったの?
と思いつつ、相変わらずの掌の上な自身を笑う。
(まったく、転がし方が母親そっくりだ…)
『本部って、なんだっけ?』
特に自分を大きく魅せようと頑張った訳ではない。
そしてバカな人間でもない。
でも不要な言葉を何時までも覚えておく程奇特でもない。
『あれだよ、東京の事でしょ?』
彼等は2人、2人で戦い、2人で困難な状況を乗り越えてきた。
それはこれからも、変わることは無いだろう。
『弓原ちゃん、返信しなくていいし、シカトね』
仲良しなオペレーターに告げ、2人退室…。
『…名古屋だけ、ですね』
返信の無いお便り程、悲しいものはない。
小杉は溜め息と共に、縦社会の崩壊を嘆く言葉を吐き出してゆく。
まぁ、たかが一ヶ所されど一ヶ所。
これが今後の展開をどう左右するのか、
今はまだ、不明瞭な現実である。
『よし、ネット会談を開く。そのむね伝達を』
時間を1時間後に指定し、小杉は退室してゆく。
とりあえず、やれることをやるのだ。
大切な仲間の安否は、その後である…。
空に浮かびし奴等、なぜ何も言ってこないのだろう。
何度と無く交信を送り、先程は使者を飛ばしたというのに、門前払いである。
『出羽総理、国民放送の準備整いました』
もし彼がここに居てくれたなら、もう少し何かプランを出してくれたかもしれないが、
もう旅立った者を望んでも仕方の無いこと。
出羽は2人で撮影した最後の写真を引き出しの奥へと押し込み、放送室へと向かう。
私が望んだ日本の繁栄と、永続的な平和。
こんな形で脅かされるとは、な。
出羽はベニス戦隊の働きに期待しつつも、
国民が望まぬ言葉と現実を伝えるため、重い腰を上げるのだ。
全ては国民の為に、そして自らの野望の為に。
(次の選挙、無いかもな…)
そんなの表情に出せる訳もなく、彼はいつもの凛々しさにて、無数のカメラの前へ立つ。